第186話 エド城侵入
※お詫び。光の神の依代の名前がヒミコになっているのですが、正確には
真都のお城の城壁に立つ美しい女性。
周囲の殺伐とした雰囲気の中、一人だけ輝く彼女は、俺の最愛の妻フィリアだ。
だが、いまでもスサノオの手に堕ちている彼女は正気を失い、あの場に立ち俺達に敵対している。
「ソラくん。ここからが正念場よ」
「分かっています」
「では後はよろしくね」
「ミリシャさんも気を付けて」
「ええ」
嵐の前の静けさ。
真都が静寂に包まれているのも、これから起こる戦いの前触れでもある。
すぐにミリシャさんの号令が周囲に広がると、連合軍から歓声があがる。
目の前にある大きな敵も、仲間がいるなら心強いというものだ。
そして、ミリシャさんの「突撃!」という号令と共に、戦いが始まった。
真っ先に仕掛けるのはうちの魔法部隊――――最上級職能賢者部隊の大魔法連打が始まる。
だが、向こうの戦力は今まではお遊びだと言わんばかりに、その全てを無効化し始めた。
その理由も向こうの軍に目立つ神術使いが複数人見える。
フィリアを除いて4人。
最強戦力の一人だった勇者ローエングリンにも匹敵するような強さ。
いや、それよりも
さらに神術使い達も今までの神術使い以上の強さを感じる。
大魔法連打でも難なく止めているのが証拠だ。
戦いが始まり、中央に姿を見せていたフィリアがお城の中に消えて行く。
それをただ見る事しかできず、拳を握り締めた。
それに続いて中に消えて行く面々を見届けて、俺の近くにやってきたみんなの顔を見つめる。
「そろそろ俺達の出番だな。行こう」
みんなも頷いて飛竜に乗り込み、上空からお城に近づいて行く。
お城の上空でも神術使い達の迎撃が激しく、簡単には入れさせてくれない。
魔法とは違い、瞬時に発動する神術が上空を斬って俺達に向けて放たれる。
俺も職能を賢者にしているので、迎撃神術を魔法で相殺していく。
「ガーヴィン! 向こうが空いてる!」
父さんの声が響くと飛竜が一斉にお城の後ろに一気に降下する。
着地すると、周りに敵影は誰一人見えない。
「どうやらここに誘われたようだな」
「そうみたいですね。でもここを突き進むだけです」
ここに集まった面々を見つめる。
獣王を持つカシアさん。
アサシンロードを持つルリくんとルナちゃん。
特殊職能だけど最上級職能に匹敵する職能を持つ父さん。
四人と共にお城の中に入っていった。
お城の中は想像以上に広い部屋が一つ広がっていて、最奥に階段が見える。
部屋の中央には巨大な身体を持つ男がこちらを見つめて鎮座していた。
「わしの相手は誰かのぉ?」
「一人残って次に行けという事か?」
「当然だ。聖なる決戦に水を差す事は許されない」
彼も一つ覚悟を決めているようで、穏やかな表情ながら決して動く事のない信念を感じる。
「いいだろう。私が残ろう」
「カシアさん。分かりました」
「ここは任せておけ」
カシアさんを残して俺達は男を超えて奥にある階段に向かっていく。
何となく心配して振り向いたけど、ルリくんが首を横に振った。
仲間の覚悟を無下にするわけにはいかない。カシアさんの勝利を信じて2階に進めた。
2階も1階と同じ構造で、中央にはテーブルが置いてあって、綺麗な女性が優雅に紅茶を楽しんでいた。
「いらっしゃい。私の相手はこちらに座ってちょうだい」
「…………敵の言う事を聞くと?」
ルリくんが真っ先に反論する。
「君。良いわね。さあ、そちらに座ってちょうだい。他の人は次の階に行っていいわよ」
「っ…………」
少し怒った顔でルリくんがテーブルの前の豪華な椅子に座り込む。
「美男子がムスッとしてたらもったいないわよ?」
「普段はムスッとはしていません」
「へぇー私にも見せてよ」
「お断りします」
そんな二人のやり取りを眺めていると、ルナちゃんが俺の手を引いて次の階段に向かった。
3階も構造は変わらず、中央には着物を着た小さな女の子が不思議な人形を手に持っていた。
もっと可愛らしい人形でもいいと思うんだけど、棒人間というか、何故か真ん中には大きな釘が刺さっていて、ちょっと怖い。
女の子がゆっくりと指さすのは、ルナちゃんだった。
「指名されちゃったからここは私が残るね。ソラお兄ちゃん。頑張ってね!」
「ああ。ルナちゃんもね? 絶対帰ろうね」
「……うん! あのね! 帰ったら…………話したい事があるんだ」
「絶対に聞くよ」
「うん!」
眩しい笑顔を見せるルナちゃんは、どこか楽しそうに小さな女の子と対峙した。
ルナちゃんを残して俺と父さんは上の階に向かった。
「ソラ。この階には俺が残ろう」
中央に佇んでいる好青年が静かにこちらを見つめていた。
「父さん……」
「母さんも必ず帰ってくる。俺はそう信じている。だからしっかりフィリアさんを取り返して来い」
「はい。必ずや。父さんも気を付けて」
「ああ」
静かに佇んでいるけど、強者の気配が感じられる。
彼も父さんが残る事に納得したようで、俺には目もくれず、ずっと父さんを睨み続けた。
そんな彼を横目に僕はそのままゆっくりと階段に向かった。
目の前の階段を一段ずつ上がっていく。
心が跳ね上がるのを感じながら、高鳴る胸をぐっと抑えながら何度か深呼吸を繰り返す。
そして、最後の一段に足が付いて、目の前に広がる広間の中央には、美しく光りなびく金色の髪が視界に入る。
後ろを向いて、俺が来るのをじっと待っている彼女に近づいていく。
「フィリア」
ゆっくりと振り向いた彼女は俺が知っている表情ではない。
「否。我はスサノオ。娘の身体は我が預かっている」
「…………返して貰うぞ」
俺はフィリアの身体を支配するスサノオと対峙した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます