第185話 真都戦争

 ソラが京にて神田家と話を進めていた頃。


 封印の大陸の東海岸では大きな戦いが終わりを迎えた。


「イザベラ。ケガはないか?」


 全身が美しい翡翠色に輝く女性を心配そうに見つめるのは、真っ赤に燃える髪を持つリントヴルム伯爵である。


「うふふ。問題ないわ。これでも精霊王ですもの。でも…………このままでは少し厳しいかも知れないわね」


「そうか。…………イザベラ」


「貴方……」


「すまない。俺はこれからソラが自由に生きる未来を守りたい」


「ええ。私もそのつもりよ」


「…………これで最後になるのか?」


「私にも分からない。でも恐らくは…………」


 悲しむ精霊王に優しく頭を撫でる伯爵。


 お互いに会えなくなって、また会えたのには果てしない喜びを感じていた。


 でもその時間が無限であるとは限らない。


 もしも、世界に危機が訪れていなかったら亡くなるまで一緒にいる事もできただろう。


 だが世界は今にも崩壊してしまいそうな状況だ。


「でも、必ずソラ達が平和に住めるこの世界を守るわ。だから貴方。行ってくるね?」


「ああ。ずっと応援しているぞ」


「ありがとう。では、行ってきます」


 離れるその時まで繋いだ手が離れていく。


 精霊王の美しい姿はそのまま上空を目指した。


 そんな彼女の後を追うかのように、封印の大陸中の精霊達もまた上空を目指した。


「…………ミリシャさん」


「絶対守るわよ。世界を」


「ああ。俺達も行こう」


「ええ」


 空高く消えて行く精霊達を眺めていた多くの『銀朱の蒼穹』達の目には覚悟の光が灯った。


「みんな!!! これから中央大陸に! 私達のマスターがいるあの地に向かうわよ~!」


 東海岸に勝利の雄叫びが上がった。




 ◇




 四日後。


 中央大陸にある真都エド。


 街の中はかつての活気を失い、今では殺伐とした空気に支配されている。


 赤い甲冑を着た侍達が道を歩き、住民の誰一人外に出さないようにしている。


 不満が出ないはずもないが、不満を口にする住民は全員その場で首を斬られていた。


 そんな中。


 真都の外から騒がしい音が中にまで響き渡った。


 直後、敵襲を意味する鐘の音が真都内に鳴り響く。


 一斉に侍達の動きが正面入り口に集まり、場内からも多くの侍達が外に出て来た。


 彼らは全員が虚ろな目で聞こえないはずの命令を聞いた動きを繰り返した。




 侍達が城壁に集まって東側から雪崩れて来る敵陣を補足した頃。


 西側からも同数の敵陣がやってきた。


 真都を巡り、中、東、西にそれぞれ大きな音が鳴り響いて、それぞれの存在を示すかのようだった。


 戦いは数であり、東と西の圧倒的な数に真都がすぐに陥落するのは目に見えていたのだが、すぐにお城から複数の空を自由自在に飛び回る人が数人戦場に降り立った。


 戦場に降り立った人達は、迷う事なく神術を用いて大魔法規模の攻撃を仕掛ける。


 東側に放たれた魔法は、そのまま東軍を飲み込むと思われた瞬間、東軍の中からそれをも上回る程の魔法が放たれる。


 東軍の奥に赤い髪をなびかせるソラから放たれた魔法は、複数の神術をものともせずに全てを飲み込みそのまま東門に叩き込まれた。


 鈍い音が響いて巨大な門が破壊されその破片が真都内に飛び散る。


 それと同時に東軍が進撃を開始した。



 一方西側に放たれた無数の神術が西軍を襲おうとした次の瞬間、上空から無数の大魔法が神術を叩きつけお互いを相殺した。


「西の大陸の『銀朱の蒼穹』より! 神田家に味方します!」


 上空から響くミリシャの声に神田家から大きな雄叫びが上がり、進撃が始まった。


 上空からの魔法が城壁にいる弓兵達を次々倒して、その隙に壁に長い梯子を掛けて一気に上がっていく。


 数十分が経つ頃には、真都の玄関口は連合軍により制圧された。




「ソラ!」


「ミリシャさん!」


 広場に降り立つ数々の飛竜から幹部達が次々姿を見せる。


 降りて来た幹部達と、東軍の神宮寺家、西軍の神田家の面々が簡潔に挨拶を交わす。


 そして、本命である真都のお城を見つめる。


 そこには無数の神術使いが待機しており、連合軍を待ちわびていた。


 そんな中。


 ひときわ目立つ存在がいた。


 神術使いや侍達の中に、美しい金髪をなびかせて虚ろな瞳で連合軍を眺めるのは――――――






「フィリア…………」


 ソラは最愛の妻を見つけて拳を握り締めた。

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