第181話 中央大陸での出会い

 数日中央大陸を突き進んで、いくつかの村を経由しながら持って来た食料を使いながら野営をしたりと、順調に進んでいる。


 中央大陸の中央に位置する真都エドを目指して進んでいると、視界を常に入る大きな山が一つ見え始めている。


 あの山の名前は『霊峰れいほう』と呼ばれている山で、視界に映るだけで圧倒的な存在感を放っている。


 真都エドは霊峰の麓にあるようで、そこが中央大陸を支配している光の神様の居住地となっている。


 彼女は今頃、封印の大陸の上空でサバト様と戦いを繰り広げているはずなので、そこを守っているのはフィリアを連れ去った彼だけのはずだ。


 ――――スサノオ。


 彼からは普通の人とはまるで違う何かを感じた。


 サバト様の言う通りなら、彼もまた光の神の眷属になるようで、彼自身も神を名乗れる程の存在かも知れないとの事だ。


 しかし、そんな事はどうでもいい。彼は俺の最愛の妻を攫っていたんだ。絶対に取り戻すだけだ。


 深い森林を最高速で走り抜けていくと、前方から眩い光が広がる。


 つまり、その先からは森林ではなく平原や山が続いている証拠である。


 そして、予想通り森林を抜けた先には、霊峰にまで続いているんじゃないかと思える程に雄々しい山々が連なっていて、前方の視界の大半を山が防ぐ。


 他の村で聞いていた通り、霊連峰と呼ばれる山脈のようだ。


 ここから真都への道は二つあり、このまま山脈を伝って霊峰に向かうのと、地上から霊峰に向かうルートだ。


 もしここにガーヴィンがいるならこのまま山脈を伝っていけるのだが、生身のまま山脈を去るとなると逆に時間の効率が悪くなる。


 ここは地上部から進んで行くしかなさそうだ。




 霊連峰の麓には一本の道が真っすぐ続いていて、その道を伝っていくといくつかの町々を経由して真都に行けるとの事で、道を真っすぐ走って進む。


 と、その時。


 目の前にこちらに向かって全力で走ってくる馬車と、その後ろを追いかける黒装束の人達が数人見えた。


【ソラお兄ちゃん。黒装束の人達から殺意を感じるよ】


 すぐにルナちゃんから念話が届いた。


「そうみたいだね。どうして馬車が襲われているかは分からないけど、俺を見た黒装束の人達は逃してくれなさそうだから、ここは馬車側に味方しようか」


【あい!】


 すぐに俺の影からルリくんとルナちゃんが影のまま外に出ていく。


 まだ日が空高く上がっていてもルリくん達の影移動は目で追う事すら難しい。


 俺も真っすぐ馬車に向かって走っていく。




「そこのお方! 今すぐ逃げてくだされ!」


 馬を引いている老人が俺に向かって逃げろと手を振った。


 恐らく黒装束の人達に追われるからこそ、見られた人は全員殺される事を知っているからだろう。


「問題ありません! 彼らは俺に任せてください!」


「なっ!?」


 そのまま馬車が通り過ぎると共に、追いかけていた黒装束の人達が俺に何かを投げ込もうとした瞬間、彼らの身体が宙を舞った。


「ルリくん! ルナちゃん! ありがとう!」


 影移動から姿を見せたルリくんとルナちゃんが黒竜の糸で黒装束の人達を一瞬で制圧した。


 俺達を通り過ぎた馬車が急停止し、器用に方向を真逆に変えて俺に向かって走って来た。


 このまま逃げてもいいんだけど、姿を見られた以上、彼らの正体を知っておいた方がいいと思ったので、そのまま待って迎える事にした。




 俺達の前にやってきた馬車は、馬を引いていた老人が馬を解放して近くの芝生で食事を与えるようにして、すぐに俺の下に駆けつけてきた。


「此度は助けてくださり、ありがとうございます。私は神武じんむ家の相談役の官兵衛かんべと申します」


「初めまして。ソラといいます」


「ソラ様…………でございますか。これは大変失礼かとは存じますが…………大陸外の方でしょうか?」


 カンベさんの言葉に後ろに待機していたルリくんとルナちゃんが一気に険悪な表情に変わる。


「これはいきなりで申し訳ない。実はわが神武家は長年外の大陸と貿易を謳っている家でして、ソラというお名前はこの大陸では珍しい名前でしたので。それに髪の色や服装もですね」


 彼が言う通り、この大陸の人達は全員が黒髪黒目をしている。


 これは光の神様が、仲間意識を強くするために全員色を統一させているとサバト様が仰っていた。


 しかし、彼らの中でも魔法を扱う面々は、強大な力によって色が変わる人も多く、仙人と呼ばれている人々は頭を丸める人まで出る程だそうだ。


 最近ではそういうのはなくなって、俺みたいな赤い髪でも魔法が使えるのが分かると仙人として分かりやすくて寧ろ歓迎させる程だからな。


 中には村で困った事を魔法で解決もしてあげると、報酬まで払う人も多かった。


「ソラ様。私達を助けてくださった貴方様もその力を見込んで、会って頂きたい方がございます」


「その馬車の中にいる方ですか?」


「その通りでございます」


 そもそも挨拶前に馬を休憩させている時点で、彼らは逃げない・・・・という意思表示に思える。


 黒装束の人達の殺気から、うちの大陸のアサシンを思い浮かべる。つまり、暗殺者だ。


 彼らから狙われているくらい、カンベさん達にも事情があり、それを見越して俺達に声をかけている気がした。

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