第176話 過去の真実

 その日の夕方。


 ミリシャさんの気絶により中断されていた会議の続きとなった。


 サバト様は理解の色を示してくれて、特に怒った様子はない。


「サバト様。お待たせしました」


「構わん」


「ありがとうございます。僕の力はまだはっきりと見せる事は出来ていませんが、話を聞かせてくださるのですね?」


「そうだ。ソラが目覚めた力は神に匹敵する力であり、その力を授かった以上、この戦いでは主戦力として考えてよいだろう。むしろ、私が彼奴との戦いに集中出来るというものだ」


 彼奴というのは……恐らくスサノオの姉という存在なのだろう。


 スサノオが立ち去る時、姉がサバト様との戦いを求めていると言っていたからな。


「それはそうと、俺の力が神に匹敵するというのはどういう事ですか?」


「既にレベル10を多く量産しているソラなら知っていると思うが、レベル10では決まったスキルではなく、個人個人特別なスキルが手に入る」


「はい。俺達はそれを『極スキル』と呼んでいます」


「なるほど。きわみとはまた面白い表現だ。ではその極スキルには違いがある事は知っているか?」


「えっと、アンナから少し聞いたのは、フィリアやカシアさんのように『伝説』と言われている極スキルですね?」


「ああ。多くの者は通常『者』を獲得する。だがその中でもほんの一部のみが上位スキルとなる『伝説』を目覚めさせる事が出来る。今までレベル10に到達出来た者に『伝説』が多かったのは、そもそもレベル10に到達出来る普通の人・・・・が存在しないからなのさ。我が子らですらレベル10は遠い。確率だけで言えば『伝説』を獲得出来る事さえ、大陸中では奇跡に等しい。だがその中でもごく稀にその上の存在が生まれる。いや、生まれるかも知れなかった」


「知れなかった?」


「今までその上の存在が生まれた試しはないのじゃよ」


 サバト様がゆっくりと顎をさする。


から生まれた存在には、神が関与出来ない力が存在する。それが生まれながら持ったスキルとこの極スキルだ。ただ生まれ持ったスキルならある程度厳選が出来るのだが、良いスキルを持って生まれた者は強い職能を持つとは限らない。その確率だけなら大陸歴に一人か二人いるかどうかだ。その中でも、さらに極スキルを確認するとなると、神の力を持ってしても不可能だろう。だがそれを可能にする存在が現れた」


「…………俺ですか?」


「ああ! ソラはわしが大陸で最も望んでいた人材なのだ!」


 黒猫姿となったサバト様からは嬉しそうな気配が凄く伝わってくる。


 サバト様を囲うように周囲にいた黒猫達が「女王様が喜んだ~女王様が喜んだ~」とアンナと同じ少し無機質な言葉で喜んだ。


「サバト様。について教えて頂けますか?」


「いいだろう。ここにいるメンバー全員が聞くといい。大陸とその外の真実を」


 会議室が重苦しい雰囲気に包まれた。




 ◇




 その昔。


 世界に二柱の神が創造された。


 二柱の神はそれぞれ『光の神』と『闇の神』を名乗った。


 神々は大陸を作り、多くの命を誕生させた。


 多くの命は最初こそ仲が良かったものの、段々とお互いの領地のために戦いを始める。


 最初は成り行きを見ていた二柱の神だったのだが、自分が作った陣営の方が押されると力を貸すようになった。


 この事により、各種族の戦いはますます戦いが激しくなり、強い種族は生き残り、弱い種族は従属させられたり、滅ぼされる事態となった。


 そんな事が起きて、元々は仲が良かった二柱の神も、お互いを批判し始める。


 そして世界を巻き込む大戦争が起きた。


 光の陣営と闇の陣営による戦争は熾烈な戦いの果て、遂に光の陣営があと一歩まで追い詰める事が出来た。


 だが、闇の神のまま手を加えて見てるだけではなく、とある種族に力を授けた。


 その種族こそ――――『人』である。


 人族はその力こそ弱いものの、彼らが持つ『味方を守るために強くなる』という性質を持ち、高い知能でメキメキと力を付けていった。


 結果として、押されていた闇の陣営は息を吹き返し、光の陣営を逆に追い込むようになる。


 そのあと、人族の活躍により大戦争は結末を迎え、闇の陣営――――いや、人族の勝利となった。




 それから数百年後。


 戦いに勝利し、強い力を手に入れた人族は大陸を支配し、多くの命に従うようになった。


 さらにそれに飽き足らず、本来自分達が守ると決めた味方をも支配するようになり、同じ人族の中でも段々と差別が始まる。


 人族のあまりの強迫に多くの種族が虐げられる現状に光の神は全力で闇の神を批判し、現状を変えようと抗った。


 だが既に神に近い力を得た人族を光の神だけで勝てるはずもなく、人族により光の神は滅ぼされたのである。


 敵対はしていたが、光の神は自分の分身だと思っていた闇の神は、人族に元々与えていた力を奪う事を決意した。


 こうして世界は人族の脅威から解放されるとばかり思っていた。



 だが、光の神亡き後、もう一柱の神が降臨する。


 彼女は自身を『光の神』と称し、世界を『統一』させるべきだと謳い、次から次へと命を洗脳・・していく。


 それは隣人と戦わないように、手と手を取り合って生きていこうとする『亡き光の神』の意志であった。


 だが、新しく生まれた『光の神』がその目的を成せるなら、敵に全く容赦はせず、世界はまた違った意味での恐怖が訪れる事となる。


 それを止めようと『闇の神』と『新しい光の神』が対峙し、戦いとなった。


 数年にも及ぶ神々の戦いで大地は疲弊し、大きかった大陸はいくつにも分断されてしまった。



 このままでは神々の戦いで世界が滅んでしまうと思った『闇の神』は、自身の全ての力を使い、『封印の地』を作る。


 その中には自身が愛した人族といくつかの種族を残し、自身はその生涯を終えたのである。


 そうやって生まれた『封印の地』には『新しい闇の神』が生まれる。


 こうして『新しい闇の神』と『新しい光の神』の戦いは今でも続いているが、『闇の神』が残した『封印の地』のおかげで、世界は完全に分裂し、封印の中と外で分かれて、平和が訪れたのである。

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