第174話 最後のレベル

 残り9日。


 久々にゆっくり眠れたおかげで、身体がいつにも増して軽く感じる。


 最近まで常に隣で眠っていた妻の姿を想像すると、悲しみが溢れそうになる。


 ベッドを降りて、彼女の服と並んで飾ってある自分の服に着替え、小さく「行ってきます」と呟いて外に出ると、ルリくんとルナちゃんが出迎えてくれた。


「おはよう」


「「おはよう~!」」


「今日も行こうか!」


「「うん!」」


 二人と一緒に屋敷からゼラリオン王国の王都に向かった。




「わあ~黒いドラゴンちゃん久しぶりに見るね~」


「そうだな~」


 ゼラリオン王国のAランクダンジョンのフロアボス『ダークドラゴン』だ。


 その圧倒的な強さを誇るダークドラゴンは、遠目ながら強烈な気配を放っている。


「さて、二人ともいいかい?」


「問題ないよ」「もっちろん~♪」


「よし、では――――行こう!」


 俺の合図とともに、ルリくんが真っ先に飛び出す。


 両手から目を細めても見えない極細の糸が空中に美しく広がっていく。


 ルリくんが真っすぐダークドラゴンを通り過ぎて行くと、広がった糸がダークドラゴンに絡んで地に落ちた。


 続いてルナちゃんは両手に数本の真っ黒い短剣を取り出してダークドラゴンの翼に目掛けてなげつける。


「ルー!」


 ミャァアアア!


 ルーの全身から強烈な雷が現れ、ダークドラゴンを襲う。


「ぷぅっ!」


 ラビも気合が入っているようで、短い手を腰に当ててドヤ顔を決めている。


「ラビ。俺達もやるか」


「ぷう!」


 緑色に輝く剣を抜いて、ダークドラゴンに向かって前に繰り出した。


 ラビの気合たっぷりの掛け声とともに、大きな風属性の魔力が俺の剣にまとわりつく。


「合体奥義! 風神斬!」


 俺の魔力も上乗せして、剣に纏う風の魔力をはじき出す。


 風を切る甲高い音が響き、美しい爆風がダークドラゴンを飲み込んだ。


 ルリくんとルナちゃんの糸による連奏も相まって、ダークドラゴンはあっという間に消えていった。




 - 職能『転職士』のレベルが10に上がりました。-


 - 新たにスキル『先見の明を持つ神話』を獲得しました。-


 - スキル『先見の明を持つ神話』及び固定スキル『限界を越えし神威』により、全てのスキルのリミットが外れます。-




 あはは…………今まで自分が倒してレベルが上がった事がなかったけど、ミリシャさんのアドバイスで、もしかして最後は自身の手で倒したらどうかとのアドバイスを貰った。


 気晴らしではないけど、仲間達も頑張ってくれているので、僕もAランクダンジョンのフロアボスを倒しに来たのだ。


 その予測通りという事になる…………長かった準備・・が終わって遂に到達したんだな。


「みんな。ありがとう。やっとレベルが10になったよ」


「わ~い! ソラお兄ちゃん~!」


 ルナちゃんが真っ先に俺にダイブして来る。


 すぐにルリくんも来てくれて、三人で喜びにひたる。


 カール達にも『念話』を使って伝えて、みんなでパーティーを開く事が急遽決まった。




 ◇




「「「「乾杯~!」」」」


 隠れ家の屋敷に広がる歓声。


 次々と各部隊のリーダー達がやってきて祝いの言葉を伝えてくれる。


 頑張ってくれたのはみんななのに、俺ばかり祝われてちょっと申し訳ないと思ってたけど、カールから胸を張って貰った方がいいと言われて素直に従ってる。


 彼らからすれば、俺は一生の恩人だというけど、恩は十二分に返して貰えた気がするけどな。


 それはともかく、みんなの嬉しそうな顔をフィリアに見せられないのは少し残念である。


 帰ってきたら、みんなで最高のパーティーを開いて出迎えてあげたいな。



「おめでとう」


「ありがとうございます。お父さん。母さん」


 ここ最近ずっと二人で行動している両親。


 母さんは大陸中なら自由に歩けるようになったと喜んでくれて、お父さんの隣にいる事を望んだ。


 俺としても、両親がずっと一緒にいてくれるのは嬉しい。


 二人と何気ない会話を楽しんでいると、大量の黒猫達が俺に飛び掛かり、俺の背中やら腕やら足やらにくっついた。


「みんな!?」


「ソラくん~おめでとう~」


 頭の上は恐らくアンナかな?


 その中、一匹だけ違う雰囲気の黒猫がやってきて、テーブルの上に乗り、ずっしり構えて俺を見つめる。


「えっ!? まさか!?」


「ふむ。良い構えになったんじゃな」


「サバト様!?」


「うむ。人の食べ物も悪くない」


 闇の触手を伸ばし、器用に食べ物を食べている黒猫はサバト様の声にそっくりだ。


「ひとまずおめでとう。まさか、思いもしない力を開花させたようだな?」


「はい……! この力ならサバト様の力になれるかも知れません」


「うむ。期待している。決戦・・は9日後の正午から始まるだろう。最も長い一日になるだろうから全員で覚悟を決めておけ」


「かしこまりました」


「では、私は食事を楽しむとしよう」


 意外にも食事を気に入ってくださったようで、大勢の黒猫達とともに、美味しそうに食べ物を食べ始めた。



「いや~まさかサバト様がいらっしゃるとは思わなかったな」


「本当だよ。びっくりした」


「くっくっくっ。びっくりしたソラの間抜けな表情を見せてあげたかったぜ」


「……絶対助け出すから。そうしたらいくらでも見て貰うよ」


「おうおう~離れていても妬けるわな~」


「カールだって一緒じゃん」


「そうだな。ミリシャさんがあんなに楽しそうに笑ってくれると俺も絶対守りたくなるよ」


「守ろう。世界を。俺達が生きたこの地を」


「ああ」


 決戦前の最後の宴会を楽しんだ。

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