結婚

第166話 世界で一番幸せな二人

 戦いが終わり、魔女王様に会いに行く日まであと数日となった。あまり待たせ過ぎてしまって怒られるのも怖いからね。


 そんな僕達は休み間もなく、急いで結婚式の準備を進める。


 本当ならレボルシオン領で行いたいのだけど、お父さんや母さんの参加が難しいのもあり、『銀朱の隠れ家』があるアクアソル王国で行う事にした。


 準備を進める中、僕とフィリアだけは準備から追い出されて二人で遊んでいろとカールにめちゃくちゃ怒られた。


 自分の結婚式なんだから手伝う気でいたのにな……。


「ふふっ。不満みたいだね~ソラ」


「へ? い、いや、不満というよりは申し訳なさが大きいかな?」


「私達の事だものね。でもここは仲間達に任せるとしよう?」


「ああ。そうだな」


 フィリアとアクアソル王国の王都にあるベンチに座り、美しい海を眺める。


 綺麗な水が穏やかに流れる様子を見ているだけで、ここまでの疲れが癒されるかのようだ。


「そういえば、最初にこの街に来てから随分と時が過ぎてしまったね」


「そうだな。中々濃い毎日だったから、あっという間だったかな」


「ソラはお父さんやお母さんにも会えたしね~本当のお父さんとお母さんにもね」


「ああ…………本当に驚いてしまったよ。まさか両親が本当の両親じゃなくて、僕をずっと見守っていたなんてね」


「まさかソラが辺境伯様のご子息様だなんてね~」


「あはは……でも俺は俺だよ。正直あんなに凄い地位は要らないし、このまま『銀朱の蒼穹』のマスターだけで精一杯だから、これからも変わらないと思う」


「ふふっ。私も変わらず隣にいていいですか?」


 フィリアが首を傾げて下から僕を覗いて聞いてくる。とても――――可愛すぎる。


「も、もちろん! 寧ろこれからも俺の隣で末永くお願いします」


「うふふ。ねえ、ソラ?」


「うん?」


「もしもだよ」


「うん」


「もし、私が遥か遠くに行ったとしても、ずっと待ってくれる?」


「…………」


「待ってくれないの……?」


「待ってあげれない」


「そっか……」


「そんな時は、俺が君を見つけにいくよ」


「っ……」


「だから心配しないで? 俺はいつでもフィリアの隣にいるし、これからフィリアの旦那となって、どんな時も一緒に苦難を乗り越えるから。だからフィリアも俺の隣にいて欲しい」


「……うん! 絶対ね!」


 フィリアが俺の腕に抱き付く。


 そのぬくもりが、優しさが、肌を通じて伝わってくる。


「あれ? そういやさ」


「うん」


「俺達ってまだ成人してないのに結婚出来るのか?」


「あはは、ソラったらそこに気づくの遅いよ?」


「ご、ごめん……どうしよう……」


 まだ俺達は14歳で、結婚出来る15歳までは1年残っている。


 『銀朱の蒼穹』を運営しているからか、自分達が既に大人になっている気でいた。


「アクアソルではね。14歳から結婚が許されているんだよ?」


「え!? そうなの!?」


「うん! 私はてっきりそれを知っていたんだと思ってたよ~」


「し、知らなかった…………」


「ふふっ。まあ、本来なら年齢は守るべきだろうけど、いいんじゃない? 私達はそれくらい長い時間を一緒に過ごしたんだし」


「それもそうだな。それにもう遅い感じもするし」


「そうそう~カール達もそれを知って手伝ってくれてると思うよ? さて! 私喉が乾いたな~!」


 俺は大袈裟にベンチから立ち上がる。


「ははっ。姫様。どうぞお手を」


「くるしゅない」


 俺が出した手にフィリアの手が重なる。


「ではご案内致しましょう。姫様」


「ぷふっ」


「あははは~!」


 思わず二人で大声で笑ってしまった。






 ◇ ◆ ◇ ◆






 式場で大きなベルの音が鳴る。


 道の向こうにいるシスターグロリアが深い慈悲に染まった笑顔で俺を迎え入れてくれる。


「緊張しているようね」


「え、ええ……」


「ほら、後ろを見てごらん」


 一度大きく深呼吸をし、シスターに言われた通りに後ろを向く。


 美しい赤い絨毯じゅうたんが敷かれていて、その両脇に大勢の仲間や家族が座って俺達の幸せを祝ってくれている。


 そして、


 視線の先に、真っ白なドレスを身にまとった美しい金髪の女性がゆっくりと歩いてくる。


 恥ずかしそうに下を向いて、母さんの手に導かれてゆっくりとこちらに向かってきた。


 彼女が赤い絨毯に足を乗せ、一歩ずつ歩き出す度、席から見守ってくれる人々から色とりどりの紙吹雪を周囲に投げてくれる。


 綺麗な紙吹雪が空を舞う中、誰よりも光り輝いているフィリアが俺の元にやって来た。


「おまたせ」


「あ、ああ……さあ、お手を」


「お願いします」


 フィリアの手を引いて、登壇した俺達はシスターグロリアの前に立った。




「良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」




「「はい」」


 俺達の誓いが終わると、後方から大きな歓声があがる。


 ああ……本当にフィリアが俺の奥さんとなったんだな。


 嬉しさにちらっと隣のフィリアを見ると、フィリアも恥ずかしそうに俺を見ていた。


 そんな心から溢れる幸せに笑顔が零れて、きっと俺の顔はあまり人に見せられないくらい緩んだ顔になっている気がする。


 でもフィリアと結ばれた今日だけは、それでもいいよね。


 お父さん、母さん、沢山の仲間達に祝福されながら、俺とフィリアは夫婦となった。

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