第165話 過去の真実
エスピルト民の村に来た日に僕達を歓迎してくれる宴会が開かれた。
初めて見る衣装で踊る村人達。どこか懐かしく初めて聴く楽器の音楽に心が躍る。
「あの楽器は精霊達に響く楽器でね。こうして祭りをしていると精霊達が喜んでくれるんだよ」
セレナさんが懐かしむように見つめながら教えてくれる。その通りで周りの精霊達も楽しそうに踊ったりする。
村人達が用意してくれた食事をご馳走になりながら、精霊と人が楽しむ祭りを堪能した。
◇
次の日の朝。
昨日は色んな出来事やらで疲れて泥のように眠ってしまったが、同じベッドの中で眠っているフィリアも同じみたいだ。
最近はこうして一緒に並んで眠る事も多くなったけど、今でもフィリアとこうして添えられる事が嬉しい。
「ん……」
「おはよう」
「ん……おはよぉ……」
少し眠たそうなフィリアの頭を撫でて、リビングに降りていく。
「おはよう」
「お父さん。おはようございます」
リビングから少し見える厨房をソワソワした雰囲気で見つめるお父さん。
きっと久しぶりの母さんの姿を少しでも長く見ていたいんだろうな。
「ソラ。これからはどうするのだ?」
「ん~ひとまず帝国がどう出るのか次第ですけど……」
「うむ。皇帝からはリンドヴルム領内の事は全て不問とすると言われたぞ。それに今の帝国はそれどころじゃないからな」
「それどころじゃない……ですか?」
「ああ。今の帝国は長年支えていた宰相が命を
お父さんが一冊の本を僕に渡してくれる。赤と黒で飾られたその本には題名は表記されていなかったが、とても嫌な雰囲気を感じた。
「ありがとうございます」
早速貰った本をソファーに座り、開いてみる。
っ!? こ、これは…………。
中に書いてある事に思わず唸り声を出してしまった。
「どうした? それほど凄い事でも書かれているのか?」
「…………はい。食後にでも話します」
「そうか」
ゆっくりと本の中身を確認して、それが本物かどうかを確認する。
何となくだけど、間違いなく本物だと思う。
本を読み終えた頃に母さん達が作ってくれた朝食がテーブルに並んだ。
意外にもお祖母さんの肩の上に乗って見守っているお爺ちゃんにクスッと笑みがこぼれてしまった。
朝食を終え、フィリア達とお父さん、母さんを集めて本の話を進める。
「この本には宰相が関わっている、とある一団のことが書かれています」
「とある一団?」
「はい。その名を――――――『精霊狩り』といいます」
「っ!? まさかその一団の名前が出るとはな」
「お父さんは知っているんですか?」
「ああ。エスピルト民や精霊を嫌っている連中だ。以前闘争になり全滅させたはずなんだが……」
「それがごく数人だけ生き残ったみたいです。それも非戦闘員ばかりが」
「…………なるほど」
「そして、宰相の
丁度その時に『精霊』と繋がりが深いエスピルト民と帝国内の辺境伯の結婚を知り、宰相の力を使い彼らは暗殺を企んだ…………それが母さんを襲った暗殺の黒幕のようです」
「…………あの一族だったんだな。大方予想はしていたが、証拠もなく追い詰める事も出来なかったのが悔しいな」
「でも暗殺集団はお父さんが追い詰めたのですよね?」
「ああ」
「この書によれば、その時に彼らも巻き込まれたそうで、最終的に宰相だけが残り、『精霊狩り』は終わり、宰相も苦悩を続けているのがこの本から伝わってきます」
本をお父さんにも渡して、中身を確認してもらう。
我々家族にとって、一番といっても過言ではない敵でもあった彼らは、既にお父さんの手によって復讐が遂げられているし、母さんは精霊になり、お父さんは深い悲しみに明け暮れ、僕はずっと一人で過ごしていたけど、それが無ければフィリア達にも会えなかったし、決して悪い事ばかりじゃないと思う。
もう終わった事をどうこう言い続けるよりは、これからの事だけに集中していきたい。
「ソラ~」
「アンナ? どうしたの?」
「ん~女王様から近々会いに来いって~」
「そうか…………」
エスピルト民の村で知った事なんだけど、本来精霊の姿を見る事が出来るのは精霊眼を持つ者のみで、エスピルト民でもごくわずかの人数しか持っていない。
僕が精霊眼を発現した事で、なぜか周りの精霊達が誰にでも見えるようになったようで、普段精霊達と接点のなかったフィリアやルナちゃん達にも見えるようになった。
おそらく、魔女王様が僕を呼んでいるのは精霊眼の開眼とも関係すると思われる。
僕達は大急ぎでアクアソルにある『銀朱の隠れ家』の地域に集まり、僕とフィリアの結婚式の件を進めた。
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