第164話 実家
精霊王の泉から外に出て、森の中に入ったと思ったらすぐに村が一つ出て来た。
村と言えるだろうかと思えるくらいには広くて、沢山の人が集まっていた。
それに当たり前と言わんばかりに、人々の肩や頭の上に精霊が乗っているんだな。
「イザベラ!?」
一人の女性が走ってくる。
「お母様!」
二人はすぐに抱き合い、涙を流した。
お祖母さん……だろうね。母さんと同じ髪色でとても優しそうな人だ。
「セレナ!? 貴方も帰ってきたの!?」
「お母様……少し事情がありまして」
「お帰りなさい」
「っ……ただいま……」
お祖母さんはセレナさんも抱きしめると二人を連れて目もくれず奥にある家に入って行った。
「母が忙しくですまないな」
「いえいえ! とても優しそうな方で嬉しいです」
伯父さんは村人達に事情を簡潔に伝えて、詳しくはまた説明するとして俺達を家に招いてくれた。
◇
「キール? そちらの方は?」
「こちらは『精霊眼の真開眼者』のソラ様だ」
「っ!? だから精霊達の姿が見れるのね! これは大変失礼しました。エスピルト民として……感謝……を…………精霊眼?」
平伏したお祖母さんが不思議そうな表情で頭をあげる。
まさか、急に身体を下げるとは思わなくて、俺の方が驚いてしまった。
「お母様。私の子供です」
「っ!? イザベラの息子!?」
お祖母さんが俺と母さんを交互に見ながらアタフタする。その姿から母さんとそっくりなんだなと
「初めまして。ソラといいます。精霊眼に関してはたまたまなので、頭をあげてください。お祖母さん」
お祖母さんはそのままがばっと起き上がると目もくれず、俺を全力で抱きしめてくれる。
嬉しいという気持ちが全身から伝わって来て、母さん同様に本当に自分のお祖母さんなんだなと、嬉しくなった。
一通り俺の仲間達も紹介すると、フィリアの時には母さんとお祖母さんが同じ驚き方をして、みんなが笑い出す程だった。
二人にそれぞれ両手を握られて「うちの息子をよろしくお願いします」「うちの孫をよろしくお願いいたします」と言われたフィリアがアタフタしていて、とても可愛いなと思ったのは内緒だ。
紹介が終わると、お祖母さんからとある部屋に招き入れられると、不思議な小さい板が立てられていて、普段匂った事がない香りが広がっていていた。
「本当は生きているうちに会わせたかったんだけどね。こちらがソラくんのお爺ちゃんの墓なの。ぜひ挨拶にと思ってね」
墓!? 凄く小さいな……。
「ん……? あれ? 初めまして?」
墓と言われた木の板の前に座ると、木の板の前に小さな精霊が腕を組んで座り込んでいて、俺を見つめていた。
「初めまして。お前が俺の孫か」
「ええええ!? お爺ちゃん!?」
「ええええ!? 貴方!?」
「ええええ!? お父様!?」
「うむ。如何にも」
まさか……お爺ちゃんまで精霊になっているとは。
「精霊に愛されたエスピルト民は亡くなっても精霊になるんだけど、殆ど記憶もなければ姿も変わるのだけれど……」
母さんも驚いたようで、そう話した。
でも、母さんも人の姿だし、記憶もあるからね?
「その娘にその父というわけね……はぁ、貴方。久しぶりね」
「うむ。久しいなカミラ。わしも最近目を覚ましたからな」
「ふふっ。貴方らしいわ。これはもう線香をあげる必要が無くなったわね」
「うむ。わしはこうして生きているのだからな。それはそうと孫よ。名は何という」
「はい。ソラといいます」
「うむ。良い名だ。あの男がしっかりと育てたようだな」
「あ……それは…………」
「うむ?」
「あはは……」
リビングに戻り、みんなが席に着いて、お祖母さんの膝の上に精霊になったお爺ちゃんが座り、みんなの準備が終わった時点で、俺の事を話し始めた。
最初から母さんの怒りメーターは振り切って「あの人……許さないんだから!」と怒ってるとお祖母さんに宥められる繰り返しだった。
ここまでの軌跡を数時間に渡り説明が終わる頃、外で何やら騒ぎが起きる。
気になってみんなで外に出てみると、
「ソラ! 母さんが怒っているので今すぐエスピルト民の村に来てくださいってなんだ!? 母さんってどういう意味なんだ!」
と大声をあげながら巨大飛竜ガーヴィンの背中から降りたった。
とすぐに、母さんが目の前にいくと、「貴方! そこにお直りなさい!」と大声を上げると勢いなのか、その場で正座になるお父さん。
その後、母さんからがみがみ言われるが、お父さんは全く聞いていないね。
大きな涙の粒を流しながら、がみがみ言う母さんを愛おしく見つめていたのだから。
「イザベラ。ソラを守ってくれて本当にありがとう」
「……いえ。私のわがままで貴方をずっと困らせてしまいましたから、本当にごめんなさい」
「いや、俺がもっとしっかりしていれば、ああいう結果にはならなかったと思う。もう済んだ事を言うつもりはないが、本当にすまなかった」
深く頭を下げるお父さんに対して、母さんも「こちらこそ」と頭をさげる。
あの頃、母さんの願いでお父さんの戦いが長引いたのを気にしているのだろう。
その日、初めて俺は家族という輪に入る事が出来た気がする。
今まで家族の事はあまり考えてこなかったけど、心の休まる場所だと思えた。
「フィリア」
「うん?」
「帰ったら、式をあげようね」
「…………うん。嬉しい」
繋いだ手からフィリアのぬくもりは、家族以上の大切な人である事を感じられた。
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