五章後半『魔女』

第167話 魔女の国

 結婚式から四日後。


 久しぶりの安寧を噛みしめながら楽しい時間を過ごした俺達は、アンナの案内で遂に魔女の森に向かう事となった。


 もしもの時のために、『銀朱の蒼穹』の主力メンバー全員で向かう。が、アンナ曰く魔女王様には相手にもならないと言われた。


 うちらの中で最も強いアンナがそう言うんだから、間違いないんだろうけど…………もし魔女王様に襲われる事があれば、アンナと身を挺して守ってくれると言ってくれたのが嬉しかった。


 不安な気持ちを抱きながら、俺達は荷馬車に乗り込み、いつもの空の旅を始めた。




「ラビちゃんは凄いね~」


「ぷいっ~! ぷいっ~!」


 母さんに褒められるとラビは全身で喜びを表す。


 精霊王でもある母さんから褒められるのは、普通より嬉しいのかもね。


「この広大な森が…………魔女の森」


「そうだよ~女王様が~治めてる~」


 大陸で最も入ってはいけない場所というなら、間違いなく魔女の森だ。


 魔女の森に入るくらいなら死んだ方がマシという格言があるほどに、我々からは恐怖の場所なんだよな。


 そんな森を上空から進めていくと――――木々の上を物凄い速度で走りながら俺達と同じ速度で奥に走っている無数の黒猫達が見える。


「仲間達~歓迎してくれてるよ~」


「か、歓迎か…………ちょっと怖いけどね」


「怖くないよ~女王様からソラくんは傷つけないようにって~大丈夫~」


 それってつまり、俺以外は興味がないって事だよね……。


 もしあの無数の魔女達と対峙したらとんでもない事になりそうだ。


 見てる感じ、こちらに敵意をむき出しにしているわけではないし、どちらかと言えば、アンナが興味があるモノを見つけた時に猫のように全力で追いかけてくる感じと似てる。


 もしかして、魔女ってみんなこんな感じなのだろうか?


 暫く空を旅して森の奥にある大きなお城にたどり着いた。




 ◇




「みんな~こっち~」


「あ、アンナ! 猫のままだと誰が誰だか全然分からないよ!」


 目の前に数十匹並んでいる黒猫達が一斉に俺を見る。


 いや……そんな不服そうな目で見られても……みんな同じ黒猫にしか見えないからな。


 一匹の黒猫が光に包まれると、すぐに人型になる。


「これでいい?」


「ありがとう」


「じゃあ~こっち~」


 アンナと数十匹の黒猫達に誘われて、俺達はお城の中に入って行く。


 お城の中は他の国でも見れるようなお城で、多少違う調度品が置かれてはいるが基本的には人族のお城とあまり変わらない。


 道には真っ赤な絨毯が真っすぐ続いていて、その上をみんなで並んで歩く。


 これだけ大勢の人が歩いているのに、歩く音が一切聞こえないのがまた不気味さを駆り立ててる気がする……。


「ここだよ~みんな? 女王様に失礼のないようにね~? 特にフィリア」


「私!?」


「何があっても口を開かないで~」


「う、うん……」


「反論も禁止~声も出さないで~喋れるのはソラくんだけ~いいね?」


「分かった」


 他のメンバーも事前に聞いていたから、頷いてアンナの言葉を承諾する。


 魔女王様が会いたいのは、あくまで俺だけで、本来なら誰も連れて来れないけど、俺とアンナのお願いでみんなを連れて来れただけだからな。


 物凄く巨大な扉を黒猫達が闇の触手を伸ばして開いてくれる。


 鉄の塊が動く重苦しい音が周囲に響くと、アンナが真っ先に中に入って行く。


「女王陛下~ただいま~」


「お帰り、アンナ」


 アンナの声に続いて厚みのある女性の声が聞こえる。


 俺達は緊張のあまり息をのんで中に入って行く。


「初めまして。ソラと申しま――――っ!?」


 挨拶の途中、見上げた・・・・魔女王様の顔を見た俺は驚いてしまい、言葉が途切れてしまった。


「お前がソラか~ふぅん~後ろにいるのは精霊王なのかい?」


「初めまして。サバト・アヴァロン様。新しく精霊王に就任したイザベラと申します」


「ほぉ……名前を持つという事は、生前の記憶があるんじゃな?」


「その通りでございます」


「くっくっくっ。面白くなってきたわい」


 母さんの挨拶で我に戻った俺は再度魔女王様を見つめる。


 まず俺が想像していたのとは違い、非常に大きい・・・


 俺の数十倍モノ大きさの身体を持っていて、見上げなければ、顔を見る事も出来ない。


 その身体の大きさからなのか、伝わってくる圧倒的なの雰囲気が伝わってくる。


 寧ろ周囲の空気が常に彼女に怯えて震えていると言っても過言じゃないくらいに凄まじい迫力がある。


 そして最後はその姿。


 彼女の顔は普通の人ではなかった。


 普通の人のような顔付きなのだが、通常の目2つ以外・・にも6つの目があり、左右に4つずつ目が存在する。


 しかし、そのどの瞳も色と瞳孔の形が全部バラバラだ。


 こう言うのは忍びないが、その姿だけで恐怖を覚えるほどに、彼女は恐怖の象徴そのものだった。


「し、失礼しました」


「くふふ。わしを見て動じるのは良くある事じゃ。しかし、わしのを真っすぐ見つめるか…………さすがはを持った者じゃな」


 魔女王様にますます興味を持たせてしまったようだ。

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