第158話 禁忌の研究

 帝都。宰相の屋敷。


「…………そうか。我々・・は負けたのだな」


「…………」


 宰相の前に現れた人物を見て、宰相は自信の負けを確信した。


「良いだろう。これを渡そう」


「それは?」


「お前達が勝った褒美だ。使い方くらいは知っているだろう。さあ、この首を刎ねるがよい」


「…………」


 彼の手が一瞬で剣を抜き、宰相を通り抜ける。


 宰相は痛み一つ感じることなく、その生を終えた。




 長い間、帝国を支えていた宰相の死は多くの帝国民や貴族達に大きな悲しみを負わせる事となったのは言うまでもない。




 男は宰相が最後に残したを持って、屋敷の地下にある宝物庫に向かった。


「……なるほど。そういう事…………ん? これって!?」


 男が思わず声をあげた物は、溢れている宝物ではなく、一冊の本だった。




 ◇




「初めまして」


「は、初めまして。よろしく……セレナっていうわ」


 『シュルト』の衣装のまま、『フロイント』と『シュベスタ』と『アンナ』と一緒にアポローン王国の研究棟にやってきた。


 俺達を前にした研究員さんの顔が少し引き攣っている。


「こちらでは魔女王様が『禁忌』と定めている研究を行っていると聞いております」


「…………ええ。そうよ」


「今回の戦争の報酬として、その研究内容を教えて貰えると聞いております」


「王様からも言われたわ。ここで行っている『禁忌』について…………説明するわ」


 彼女は俺の前で一枚の紙を取り出す。


「どうしてこれが『禁忌』なのかは分からないけれど、この技術は昔から存在していた事なの。この技術の名前は――――――『ドロップ改造』と呼ばれている技術さ。貴殿らが知っているかは分からないが、アポローン王国の大半は砂漠が続いている。そのせいで、ここら辺で狩りを行うのも普通の土地よりも余程難しいと言える。さらにその中から『食材』をドロップする魔物は数が限られているのさ」


 ここまで来る間、続く砂漠は嫌というほどに見ているし、そこから魔物を倒すだけでも苦労するだろうなとは思う。


 ただ、今の王都には様々な肉が売られていたのだが…………もしかして、それが『ドロップ改造』によるものか?


「私はこの国を何とか貧困から救いたくてね。ずっと研究を続けていたのさ。それで見つけたのが――――この『ドロップ改造』だよ」


 紙には『ドロップ改造』について、詳しく書かれていた。


 『ドロップ改造』が出来る魔物と出来ない魔物が存在していて、その差は倒れた時に消えるか消えないかの差だそうだ。


 しかし、そのにも疑問が残る。


 そもそも消える魔物と消えない魔物の差が分からないのだ。それにどちらも生まれ方は同じだ。


 エリアと呼ばれている場所に、一定時間で自然と生まれるのが魔物だ。


 倒れた時点から一定時間が経過すれば生まれるので、消えない魔物をそのまま放置して狩り続けた場合、大量の亡骸が溢れる事となる。途中で腐っていきはするが、ここに制限というのは存在しない。


 消えるタイプの魔物は、基本的に『素材をドロップする』。


 その中でも必ず落ちるモノを『通常ドロップ』と呼んでいて、ときおり落ちるモノを『レアドロップ』と呼ぶそうだ。


 例えるなら、レボルシオン領にある『ハイオークの平原』にいるCランクのオークだが、オークの通常ドロップは『オークの牙』というモノで、それなりの強度があるので安価な武具用素材でもある。そしてレアドロップは『オークの心臓』と呼ばれている赤い石で、この石には特別な力の鋼鉄製武具を修復してくれる非常に有用な素材だ。


 と、そんな感じで多くの魔物は通常ドロップとレアドロップの2種類のを落とすのだが、この『ドロップ改造』を使い出来るのは、通常ドロップ品を変化させる事だ。


 研究データからレアドロップ自体を変更させることは出来ないそうだ。


「では、次は実戦でやり方を説明するわ。ただしこれだけは覚えて欲しい」


「魔女の女王様と敵対する覚悟ですね?」


「ええ。その通りよ」


 セレナさんは俺の方に乗っている黒い猫を見つめた。




 ◇




 王都から北に進んだ場所に砂漠から岩地帯に変わる場所がある。


 ここはアポローン岩地帯と呼ばれている場所で、多くの狩人で賑わっていた。


 出て来る魔物は4種類と豊富でどれも最弱のEランク魔物の4種類で、みんなが一番求めている魔物のスコーピオン。サソリ型魔物で、非常に動きが遅く、攻撃も遅いのでまず当たる心配もない。倒した際にドロップするのはお肉だそうで、これが王都の一番の食材となる。


 その他にも戦いにくいが、空を飛ぶコンドル。鳥型魔物でこちらも倒すと肉が手に入るのだが、基本的に空を飛ぶので大した強さではないが、弓使いの狩人や魔法使いがいないとあまり相手しない。他はハイエナと呼ばれている犬型魔物。こちらは爪や牙のドロップ品のみだ。最後はゴーレムと呼ばれている魔物で、こちらもEランクなのだが、少し特殊で物凄く堅いが魔法には凄く弱く、動きはほどほど動いてないように見えるほどに遅いので、非常に弱い。


 何か不思議な羅列の言葉を唱えると、セレナさんの案内でエリア中心部に向かう。


 中心部に着いた彼女はまたもや不思議な詠唱を唱えると、中央に見た事もない宝石が現れた。


「禁忌~女王様怒る~」


 それを見たアンナが猫のまま、俺の耳元でささやく。


 なるほど…………『禁忌』と呼ばれている理由は、この宝石を取り出す事が問題なのか。


 澄んだ青色に光り輝いている宝石――――名前を『クリスタル』というそうだが、セレナさんがそちらに手をかざすと魔物の絵が4枚浮かびあがり、そこに不思議な言葉が並んでいた。


「ここの言葉は『精霊語』と呼ばれている言葉で、書き換える事でドロップ品を改造出来るのさ」


 なるほど。この『精霊語』とやらと覚える必要が――――――


 その時。俺の頭の中に不思議な言葉が聞こえる。


 ――――「&$%”’$%”’$”&#」


「っ!?」


「!? ヒンメル? どうしました?」


 片足を崩した俺を心配したフロイントフィリアが声を掛けて来る。


「……………………精霊語」


「精霊語?」


 俺の視界に映る謎の文字が何故か理解出来るようになった。


「っ!? ヒンメル。目の色が……」


「目の色……?」


「ええ。貴方の瞳に金色の不思議な文字が浮かび上がっています」


 俺自身の目は自分では見えないのだが、俺を見るセレナさんは大きく動揺し始めた。アンナと共に。






――――『四章後書き』――――


 日頃『幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。』を読んでいただき、心より感謝申し上げます。


 四章はいかがだったでしょうか? ソラくん達にとっては大きな山場の山場な四章でしたが、新しい仲間も出来たし、ソラくんの出生の秘密も明かされる事となりました。

 次章の五章はより深く、とある事に迫る章となります。(恐らく五章は全ての章の中では一番短いと思います。本来なら四章の続きなんですが、四章が長くなりすぎてしまいそうなので分ける感じです)


 そして、その後に続く六章――――ではなく、最終章となります!

 最終章ではムフフな展開から、とんでもない驚きの展開の続きや、カッコイイソラくんを見れると思いますので、お楽しみにしてください~!

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