第157話 アポローン王国戦争終結

「ソラ~!」


「フィリア!」


 地平線の向こうから凄まじい速度で走ってくるフィリアはそのまま俺の胸に飛び込んだ。


 大陸最強と謳われているエンペラーナイトの最強ローエングリンとの戦いから帰ってきたという事は、きっと勝ったという事だろう。


 それにしても全身が傷だらけのフィリアを見た時には、心臓が止まりそうだった。


 急いでサブ職能を聖職者に変えて、俺に抱き付いているフィリアの傷を癒す。


「フィリア。お帰り」


「うん! ただいま!」


 フィリアがこんなに甘えてくるなんて、一筋縄ではいかず、壮絶な戦いだったに違いない。


 本当に……帰って来てくれてありがとう。




 お父さんのリントヴルム家の鎧を着ていた帝国軍からの魔法攻撃が鳴り止んで少しの時間が経過している。


 恐らくルリくんとルナちゃんのおかげかも知れない。


 急いで帝国軍陣地に来てみると、無数の屍が横たわっていた。


 それも綺麗に一撃で斬られている。


「ソラお兄ちゃん!」


 向こうから『シュルト』の衣装を身にまとったルナちゃんがやってきた。


「ルナちゃん。お疲れ様~。制圧ありがとう」


「ううん! それよりも急いで城に戻りたいの!」


 仮面で素顔は見えないけど、少し緊迫した様子。


 きっと城にも一筋縄ではいかない何かがあったのだろうか。


 急いで馬車を取り出し、ラビにお願いして空を飛んでもらう。


 その間にフィリアには予備のシュルト衣装を着衣して貰った。




「ルリ!」


「ルナ!」


 降りてすぐにルリくんに抱き付くルナちゃん。


 雰囲気からして、何かあったのは間違いないんだな。


「ルリくんもお疲れ様」


「ソラ兄さんもフィリア姉さんも無事で何よりだよ」


 するとルナちゃんが少し怒りっぽくなる。


「ルリこそあんな危ない事したんだからねっ!」


「あはは……大丈夫。こんなにピンピンしているんだから」


「ルリくん? こちらには何があったの?」


 ルリくんから王城であった事、ルナちゃんがいた事を教えてくれた。




「本当にみんな無事で何よりだね……今回の戦いが一番厳しい戦いだったかも知れないね」


「帝国の転職士のせいなんだものね。でもこちらの勝利のおかげで、あとはミリシャ姉の方が終われば、大陸も平和になるね!」


 当初の予想だと、帝国軍が秘密裏に攻めて来るのは知っていたけど、今回は転職士の件もあり、それがあまりに早すぎた。


 元は挟み撃ちにするつもりだったが…………まあ、終わった事をどうこう話しても意味はない。これからの事を悩まないとな。


 フィリアにはここであった事をミリシャさんに報告して貰い、俺はルリくん、ルナちゃんと一緒に城に向かった。




 ◇




「其方が『シュルト』の頭領か」


「初めまして。私が『シュルト』の団長を勤めさせて頂いております『ヒンメル』と申します」


「そうか……此度、其方達の活躍で我が国は無事に危機を乗り越える事が出来た。まず感謝を伝えよう」


「ありがとうございます」


「次は報酬の件だが、緊急時の事もあり、出来うる報酬は支払おう」


「それなら後日私達がお世話になっている方と直接話し合って頂きましょう」


「ふむ。其方達を従えた者か……」


 既にアポローン王国は半数以上がリントヴルム軍に支配されているはず。


 交渉は全てお父さんに任せるべきだと思った。




 ◇




 戦いから十日が経過した。


 アポローン王国を侵攻したリントヴルム軍――――もとい、俺達『銀朱の蒼穹』の軍は次々街を占拠した。


 ほぼほぼ無傷で手に入れるため、十日という期間を要した。


 既に王様には現状を伝えているので、王都から兵を派遣することなく、今回の戦いは全て決着が着いた。


「久しいな。太陽の王よ」


「久しぶりですね。爆炎の伯爵殿。まさか貴方様がいらっしゃるとは……」


「ああ。俺もこういう形でここに来るとは思いもしなかったさ」


 二人は昔から親交があると聞いていたけど、思ってた以上にフレンドリーなんだね?


「せっかくなら、その後ろのメンバーも紹介してくださいますか?」


「ああ。こちらは『シュルト』の団長の『ヒンメル』だ。彼らには色々助けて貰っている。その力は太陽の王も知っておろう?」


「ええ。彼らには命とこの国を救って貰いましたから」


「こちらは『銀朱の蒼穹』というクランで、未だBランクのクランだが、その中身はSランククランでも最上位の力を誇るクランだ」


「ほぉ…………聞いた事があります。『革命のクラン』をここで拝めるとは、中々」


「紹介はこれくらいにするとして、ここからは交渉といこう」


「ええ。我が国は可能な限りそちらの要求をのみましょう」


 そこからミリシャさんも混じり、3人での交渉が進んだ。





 まず、アポローン王国の全土は正式的にリントヴルム領として発表する事に。


 帝国に関わる税金は全てリントヴルム家――――『銀朱の蒼穹』が持つ事になった。


 代わりにアポローン王国内の全ての物流は『銀朱の蒼穹』が担うようになったのだが、これにはまた理由があって、『シュルト』として成敗したドブハマだが、彼が大貴族として成り上がったのには理由があり、ドブハマ家だけが知っている秘密の通路を使い、各町の物流を掌握していた。


 ドブハマ家の失墜により、アポローン王国内の物流は深刻なダメージを追ったのだが、ドブハマ家との戦いの報酬として王国内の物流の権利を『シュルト』が確保し、それを『銀朱の蒼穹』に譲渡した形となった。


 このことにより『銀朱の蒼穹』には莫大な利益を産むという事で、『銀朱の蒼穹』から『シュルト』には一定の印税を支払う形となった。まあ、形ばかりで『銀朱の蒼穹』も『シュルト』も一緒なんだけどね。



 二つ目は、アポローン王国の全ての狩場及びダンジョンの利用権利を手に入れた。


 これで『銀朱の蒼穹』として『シュルト』として堂々と狩りが行える。


 アポローン王国内の魔物は狩場の環境が悪いのもあり、素材が上質なモノが多いので、こちらも莫大な利益を産みそうだ。



 三つ目は、一つ目で得たアポローン王国内で『銀朱の蒼穹』の商売の承諾の件の延長なのだが、利益に対する税金を全て免除してもらう事になった。


 王国側はそれでいいのかと思ったけど、実は今日までドブハマは物流の力を使い、法外な値段で売りさばいていたそうだ。それに比べれば『銀朱の蒼穹』が提示した各食料等の値段は激安になり、住民達の生活が潤うからと『銀朱の蒼穹』の税金は全て免除される事となった。



 最後に四つ目は、王国で現在行われている研究について、全て教えて貰う事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る