第156話 双剣聖と最強【後編】
◆フィリア◆
「フィリア~! 待ってよ~!」
まだ幼さが残るソラが私を追いかける。
最初に出会った時は、可愛らしいけど、時々男らしくて私を庇ってくれるような男の子だった。
あれから何年たったのだろうか…………。
ソラ…………ごめん。
私、ここで…………。
――――「
頭の中に、不思議な声が聞こえる。
私に今にも当たりそうな爆炎が目の前まで来ているが、周囲が灰色に時間が止まっている。
貴方は誰?
――――「我はお前の中に住まう者なり」
私の中に……住まう者?
――――「古くからの盟約により、いま覚醒を果たした」
盟約……? 覚醒……? それが私とどう関係あるの?
――――「お前が生まれたその時から、我と姉の盟約は果たされる」
姉……? 貴方のお姉ちゃんなの?
――――「さよう。我は姉との盟約を果たすべく目覚めたが、我は盟約を果たせなかった」
果たせなかった……? どうして?
――――「全ては
やま……と?
――――「さよう。だが、我には盟約を果たす義務がある。今しばし猶予をやろう。お前に死なれては盟約は果たせられない。故に、我の力を貸そう」
力…………それがあれば、私はソラを守れるの? 目の前の強大な力を倒せるの?
――――「十分であろう。お前の中にいる我の力を思い出すが良い。さあ、目覚めるのだ」
不思議な声が私の頭の中を木霊していく。
目の前で燃え上がる爆炎。
ぶつかる寸前。
私の中の新たな力が解放される。
「――――――――」
直後に周囲を吹き飛ばす爆風が鳴り響く。
私が両手に持つ双剣が本来の赤い光と白い光を放ちながら、虹色の光が覆っている。
「なっ!? 何故生きている!?」
「残念だったわね。あと一歩だったけど、私は死んでないよ」
彼が大剣を構えるが、不思議と先程とはまるで違う感覚に陥る。
周りの全ての動きが遅く感じるのだ。
全速力で彼の前に飛んでいく。
彼が構えるよりも早く、一瞬で着いた。
「なっ!?」
驚く彼もまた遅い。
ゆっくり彼の大剣を叩いてみると、私の感覚とは違い、彼が後ろに大きく吹き飛んでいく。
「さあ、二回戦の始まりね」
「く、くそが! 何なんだそれは!」
「みんなを、ソラを守れる力。もう私は誰にも負けない」
「くそったれが! 最強は俺様だ! 勇者奥義! アルカディア!」
「――――『切断』」
右手に持つ剣が空を斬る。
すると彼の大剣に纏っていた炎が引き裂かれる。
「!?」
「その技はもう効かないよ」
「勇者奥義! リベリオン!」
「――――『封印』」
左手に持つ剣を地面に突き刺す。
こちらを襲う真っ黒い稲妻が全て剣に吸われていく。
抜いた真っ白い剣を前に突き出す。
「『解放』」
彼が放った黒い稲妻と同じモノが放たれる。
直撃した彼は大きな声をあげながら、倒れ込んだ。
「その攻撃、意外と痛いのよ? どう? 自分で当たった感じは」
「が、がは…………」
「私は絶対に負けない。ソラを守れるなら何でもする。だから、ここで貴方の命を狩らせて貰うわ」
「や、やめ――――」
彼が言葉を言い切るまでに、私の剣が彼の首を通り過ぎる。
数秒後、静かに首が落ちた。
◇
◆ローエングリン◆
なんなんだあの力は!
俺様は勇者だぞ!
胡散臭いと思った転職士とやらとアイザックに騙されて転職を試みて、それが成功してここまでの力を手に入れたのに、どうしてたかが剣聖如きに負けるのだ!
あの女は俺様の頭を切り落として背を見せる。
くっくっくっ。
勇者が持つ奥義は全部で5つ。
普段の攻撃に特化したアルカディア、リベリオン、アブソリュート。
だがそれ以外に上位奥義があと二つある。
これは出来れば使わないでいたかったが……死んでしまっては仕方がない。
勇者の上位奥義の一つ『エインヘリアル』。
一度のみ発動するが、それは死んだ時に一度だけ生き返るという奇跡のような奥義だ。
ただ、これは生涯一度しか使えない。
俺の身体が『エインヘリアル』で蘇っていく。
あの女を仕留めるには絶好のチャンスだ。
勇者最終奥義『スーパーノヴァ』。
全ての魔力を周囲に放つ、絶大な効果を持つ消滅魔法だ。
くっくっくっ。
死ね!
勇者最終奥義、スーパーノヴァ!
俺様が復活して全回復した魔力をありったけ乗せて、周囲に真っ白い光を放つ。
この光は全てを飲み込み、消滅させるんだ!
ぎゃーはははは!
あの女のこれでお終い――――――
「勇者は生き返るスキルでも持っているのかしら……しかも全回復しているのね」
「は、はあ?」
「勇者最終奥義スーパーノヴァ。伝説に謳う最強の攻撃スキルだったよ。でも残念ながら私にはこの力があるから」
女は左手に持つ真っ白い剣を前に見せる。
俺様が放ったスーパーノヴァがことごとくその剣に吸い取られていく。
「貴方と戦えた事。誇りに思うわ。――――――――さようなら」
女の声と共に、俺様は――――二度目の――――――――――。
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