第146話 アポローン王国とシュルトの交渉
【今一度、現状を整理してみよう。まず王城で噂になっている集団の名前は『
王城では『地底ノ暁』という集団を何がなんでも捕まえたいと、兵士達を動員して街を警戒しているのが現状だ。
ただ、アンナが調べてくれた話からすると、国の上層部である王様と7人の守護騎士は戦争のせいで大変で、基本的には提督と呼ばれている宰相のような人が主軸でこの集団に対応しているそう。
【ルナちゃんに頑張って貰った組織はどうやら『地底ノ暁』ではない。けれど、どこかの貴族に繋がりがあり、それは現在ルリくんが調べてくれる感じだね? たしか、アポローン王国でも由緒ある名家ドブハマ家が関わっているみたいね】
ルナちゃんによって壊滅した組織の中心は、街でも有名な宝石屋だ。
現在は隠れた地下に全員捕まっていて、店員達は店主が神隠しにあったと騒いでいる。
これに関してはこれからアンナが王城に行って、交渉の材料にするはずだ。
【それと現在フィリアが捕まっている組織が『地底ノ暁』の可能性が一番高いけど、フィリアの報告で彼らにも
リーダーと思われた男が口を滑らせ、自分達にはボスがいると話した。
まさかフィリアが捕まったふりをしているとは思いもしなかったのだろうな。
【それと最後にアンナが交渉を取り付けてくれたのは、どうやら禁忌を研究する研究員のようで、研究員はその女性たった一人なのもあり、とても高い地位にいると思われる。宝石屋の事はこの人に任せつつ、『シュルト』として話し合う予定だよ】
報告が終わり、みんなから【了解】と念話が届いて、それぞれの作戦に映った。
◇
とある豪華な屋敷。
「なんだと! マハミムが失踪しただと!?」
「は、はいっ! どうやら店からいなくなったそうで、店員達が大騒ぎで、既に宝石屋には王都軍が占拠した模様です!」
「ちっ……一体どこの馬鹿が俺様に喧嘩を売ったんだ……! 今すぐヘリオズを呼べ!」
「は、はっ!」
慌てて部屋を後にする執事。
「俺様に喧嘩を売った事……絶対に後悔させてやる」
そう話す男の周囲には、瞳に希望の一欠けらすらない傷だらけの女性が転がっていた。
◇
王城アポリオン、研究棟内。
「ニャー」
「来たわね」
研究棟最上階にある研究所に黒猫が一匹入って来る。
黒猫はすぐにソファーに座るが、その正面には前回にはいなかった男性が一人座っていた。
「本当に魔女だとは……」
男が驚いた声をあげる。
すぐに果実水を用意したセレナがテーブルにそれぞれ置くと、黒猫は可愛らしい女の子の姿になり、目の前の果実水を飲み始める。
その姿に男の額から一滴の汗が流れる。
目の前の本物の魔女に恐怖を覚えるには十分なのだ。
「アンナちゃん。今日は来てくれてありがとう。こちらはこの国でも王様の次に偉い人で、提督ミハイル様というの」
「初めまして。ミハイルと申す」
「アンナだよ~よろしく~」
急速に乾いた喉を潤すミハイルとセレナ。
息を整えて交渉に入る。
「アンナ殿。貴方達の事をお聞きしても?」
「うん~私達は『シュルト』っていうよ~暗殺集団と言えばいいかな?」
「暗殺集団…………」
一瞬身を構える二人。
「大丈夫。今のところは敵対はしない~」
「こちらには暗殺のために来た訳ではないと……?」
「うん~どちらかというと、依頼を受けに来た~」
「依頼!?」
「目的があって~こちらも王国軍と繋がりが欲しいの~」
「な……るほど…………」
「交渉する人がもう少しで来るから~」
「もう一人来るという事ですね」
「うん~私あまりお喋る得意じゃないから~」
緩い口調を聞いていた二人はどこか納得してしまう。
しかし、怪我人が多いとはいえ、守護騎士が守るこの城に、もう一人がそう簡単に入って来れるのだろうかと内心思う二人だった。
暫くして、研究所の正面の扉が静かに開く。
「ブル~ダ~こっち~」
扉から入って来た人に、二人は更に息を呑んだ。
魔女だけでもとんでもない存在なのに、入って来た
戦いに身を置いてないにもかかわらず、その佇まいから死神をも連想させる。
姿だけでなく、その実力からも二人は生きた心地が全くしなくなった。
扉が閉まったと同時に、ソファーに座ったブルーダーの速さに二人は反応すらできない。
「初めまして。アンナの代わりに交渉役を勤めさせて頂きます『シュルト』の『ブルーダー』と申します」
「っ!? わ、私はミハイルと申す。こちらは研究員のセレナだ」
「ミハイル様にセレナ様ですね。セレナ様に関してはアンナから聞いております。ではひとまずお土産をお渡ししましょう」
そう話すブルーダーは一枚の紙をテーブルにあげる。
何やら間取り図のようだ。
「こちらはドブハマ家が長年に渡り国を騙していた組織のアジトの見取り図になっています」
「これは……! 噂になっている宝石屋か」
「はい。ここから地下に降りて、多くの孤児達を監禁しておりました。現在、孤児達は私達『シュルト』が全員保護しております」
「孤児を保護か…………すまないが目的を聞いても?」
「孤児だからという訳ではありませんが、我々『シュルト』は仲間を募集しておりますので、彼らは我々の手を取った。という事です」
「…………そうか。孤児の件は了解した」
どの国でも孤児は歓迎されない。
ミハイルもまた孤児の存在などどうでも良いと思っているのだ。
だが、その孤児達の悪さを知っているからこそ、少し安堵する面もあった。
「では『シュルト』殿は我々王国に何を求めているのか聞かせて貰おう」
「はい。まずとある人物についての情報全て。ドブハマ家の
「…………既に
黒いベールで顔が見えないがブルーダーが小さく笑った気がした。
ブルーダーは数枚の紙を取り出す。
「こ、これは!? どうやってこれを!?」
「慣れておりますので」
「…………分かった。その証明書を少し貸して貰えるだろうか?」
「もちろんです。どうぞ」
「ありがたい。これで陛下を説得しよう」
「ありがとうございます。我々の団長である『ヒンメル』より、こちらも最大限の協力は惜しみませんと言伝を預かっております。よろしくお願いします」
「分かった。ご協力感謝する」
アンナとブルーダーが消えた後、ミハイルとセレナはその場で倒れ込むようにソファーに寄りかかる。
「これはとんでもない集団が現れたモノだな」
「はい……もしかすると、私達の研究にも首を突っ込むかも知れません」
「禁忌を守りし断罪者、魔女王サバト・アヴァロン。果たして『シュルト』とやらがどう魔女と繋がっているかは分からないけれど、今すぐに断罪されないのを見るとまだ安全だと思われるな」
「ですね。禁忌とはいえ、研究内容を聞いてくれたら断罪まではされないと思いますし……」
「セレナ殿。貴方はこの国の夢だ。どうか研究に勤しんでくれ」
「もちろんです。これも全ての民を救うため…………
「ああ」
二人は覚悟を決め、それぞれやるべきことに向かった。
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