第147話 地底ノ暁

「お帰り~」


 ルリくんとアンナが帰って来た。


 表情から王城での交渉は上手く行ったみたいだ。


 早速ルリくんから王城での交渉の件を詳しく教えて貰う。


 まだ本決まりではないけれど、これで王国軍と繋がりは持てそうだ。


 これならローエングリンの情報だったり、対策も考えやすいと思う。


 丁度ルリくんから説明が終わった時。


 フィリアが捕まっているアジトから俺達が隠れている場所の正反対側。


 複数人のが見え始める。


 慣れた足運びから普段から隠れるのを得意としているようだ。


「ルリくん。あの人達を追って貰える?」


「うん!」


 元からいなかったと思えるほどに、その場から消えてなくなる。


 アンナは黒猫のままアジト内に潜入し、俺も出来る限り気配を消して、彼らの動向を眺める。


 暫く様子を見ていると、一台の荷馬車がやってくる。


【そろそろ運ばれるみたい!】


 フィリアから念話が届いて、数分もしないうちにアジトから中が見えないように布が被せられた箱が運ばれてくる。


 その中にフィリアも入っているから、全部攫われた人だと思われる。


 荷馬車にアンナが紛れ込み、フィリアが入っていると思われる箱の中に入って行く。


 箱は全部で10個かな?


 乗せ終えたのか、荷馬車は待つ事なくその場を後にした。まるで何かから逃げるかのように。




 荷馬車が向かった先は、予想通りというべきか、とある大貴族の屋敷である。


 屋敷は厳重な体制で警備されていて、入る隙間は殆どない。


 人攫いを追いかけて来た一団もタイミングを見計らってはいるが、中々行動には出せていない。


 そこで、先に一団に接触する事にする。


【ルリくん。今から一団に接触するよ】


【了解!】


 森の木々の上に隠れている彼らに接触するために、俺はゆっくり森の中を歩いて行く。


 彼らからそれなりに距離を取っていたが、ある範囲に入っただけで彼らが反応を示す。


 きっと彼らの中に探索や警戒に有能な人物がいるのかも。


 俺が彼らの真下に近づくまで、彼らは一切動かずにいた。


 雰囲気的には全力で隠れているのかな?




「初めまして。私の名は――――『ヒンメル』と申します。ぜひ姿を見せて頂けますか?」




 数秒沈黙が続く。


 すると一人が木々の上から降りて来た。


 とても身軽そうな動きをしている。


「…………」


「初めまして」


「私達に何の用?」


「貴方達がどうしてここにいるのか。貴方達が何者なのか知りたいと思いまして」


 ほんの少し、他のメンバーからの殺気を感じる。


 ――――すると、闇に紛れて全員が雪崩れてくる。




「姫! お逃げを!」




 降りて来た女性・・に向かい言い放った彼らは、迷う事なく俺に武器を仕掛ける。


 たった一瞬で彼らの攻撃と言葉、彼女の驚く表情が交差する。


 次の瞬間。


 俺を襲った全員がその場で倒れる。


「っ!?」


「我が主に剣を向ける事は許されない」


 静かに降りて来た『ブルーダー』がそう呟く。


 あはは……ルリくん、こういう演技・・好きなのかな? とても様になっている気がする。


「全員痺れさせて貰いました。命に別状はありませんが、貴方が逃げたあと、彼らがどうなるかは想像出来るでしょう」


「っ! 言うことを聞くわ! だからみんなには手を出さないで!」


 諦めたように両手をあげる。


 逃げずに残ってくれて良かった。もし逃げられると交渉しにくいから。


 痺れさせた彼らを回復魔法で治してあげると、すぐに女性を囲う形で守りに入る。


 確か――――『姫』と呼んでいたよね。


「私達は『シュルト』という暗殺集団でございます。私が団長の『ヒンメル』、こちらがアサシンの『ブルーダー』でございます」


「…………私の事は『リサ』と呼んでください」


「リサ様ですね。早速ですが、ここで何をしているのですか?」


「私達は攫われた人々を助けに来たんです」


「攫われた人々?」


「はい。この街には平然と人を攫い奴隷にする連中がいます」


「ふむ……私も噂は聞いております。確か――――『地底ノ暁』ですかね?」


「ち、違うわ! 私達はそんな事はしません!」


 私達?


「では『地底ノ暁』は皆様なので?」


「……はい。私達です」


 彼女の答えが予想外だった事に少し驚いたが、何かしらの事情がありそうだな。


「聞いていた噂とはまるで違う雰囲気ですね?」


「それはきっと、ドブハマ家の所為だと思います。彼らは我々『地底ノ暁』の名をかたり、悪逆非道な行為を行っているからです」


 彼女の真っすぐな瞳から噓偽りとは到底思えない。


「分かりました。その言葉を信じましょう」


「ありがとうございます! それはそうと、ヒンメル様はどうしてここに?」


「我々は暗殺集団ではありますが、それなりの信念の下に動いております。『地底ノ暁』が噂通りの集団なのかを見極めたいと思っておりました。それを出しにして王国軍に取り入る予定だったのです」


「王国軍に…………」


「はい。我々にもそれなりの理由があって取り入りたいのです。それに――――」


「それに……?」


「既にドブハマ家は我々の仲間を多く傷つけました。私は仲間を最も大事にしておりますから」


「そうですか…………ですがこれで私達にも希望が出て来たという事ですね」


「希望?」


「はい。ドブハマ家の所為でこの国の民はずっと苦しんでいました。『シュルト』の皆さんの力ならばあのドブハマ家も何とかなるかも知れません。ヒンメル様」


「はい」


「『シュルト』は信念を持った暗殺集団と仰りましたよね? この街に巣くう闇であるドブハマ家の暗殺…………私から依頼させてください」


 そう話す彼女は、囲うメンバーの中から一歩前に出る。


 直後にメンバー達がその場から跪く。




「私、アポローン王国の国王の妹、ルグリッサ・アポローンより依頼致します」

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