第144話 孤児達の試練

 シュベスタから短剣を預かった子供達は鳴りを潜める。


 遠くから大人達の足音が聞こえた。


「おいガキども! 仕事の時間だぞ!」


 扉が勢いよく開き、強面の男が大声を出す。


 子供達は暗い顔のまま立ち上がり、男についていく。


 ノエルは大人達の人数を数える。


 全員で8人。


 いつもの面子が全員揃っている。


 彼らは何らかの集団に所属しており、自分達を担当している大人達だ。


 暫く歩くと、路地裏に連れて行かれ、大人達2人を残し、6人が向こうに消えていく。


「作戦開始」


 ノエルがそう呟く。


「あん?」


 2人の大人がノエルに注目する。


 その瞬間、後方から忍び込んだ子供2人に『激麻痺の短剣』で斬られ、その場に倒れ込んだ。


 すぐに言葉を交わすことなく、16人いた子供達のうち、12人がその場から離れていく。


 残り人数倒れた男達を周りにある縄を使い、動けないように縛っておく。


 この縄は盗みをする際に使うための道具でもある。


 金持ちを転ばせて、その隙に盗むというやり方だ。


 最近ではその派手さから数人は捕まる事になるので、あまり使わずに取って置いていた。


「ノエル兄ちゃん、ここは終わったよ」


「よし。このままこいつらを隠して、次にいこう」


 そのまま裏路地を戻り、元々の自分達のアジトに戻る。


 アジトに戻ると、別の男が酒を飲んで眠っていた。


 すかさず男を麻痺させて、同じように縛り上げる。


「あったよ!」


 一人の女の子が紙を手にして声をあげた。


 金目のために文字を教えられた子供達は紙に書かれた場所を読み解く。


「ここが怪しいと思う」


 ノエルが指差したのは、とある宝石屋の名前だ。


「うん。ここはいつも警備が厳しいからね。では宝石屋以外を回って行こう」


 それから子供達は紙に書かれた場所を一つ一つ回っていく。


 どの建物の中にも飲んだくれの大人が数人いたが、全員『激麻痺の短剣』の相手にはならない。


 それというのも、ずっと盗みで鍛えた忍び足や身軽な子供達の力でもあった。


 それぞれの建物には子供達と同じ苦境の子供達が沢山いて、ノエル達の説得に喜んで従い、ノエル達は次第に勢力を増していく。


 既に100人にも及ぶ人数になった頃、向こうからまた同じ数の子供達がやってきた。


「シエル。上手くいったんだね」


「うん! ノエルくんも上手くいったんだね」


「ああ。では最後はこの宝石屋だな」


「宝石屋…………ここって…………」


 シエルの表情が曇る。


「もしかしたらここに子供達はいないかも知れない。でもそれを確認するのも僕達の使命だから。頑張ろう」


「うん! みんな! これから急いで作戦会議をします! あまり時間がないので、こちらに集まって!」


 ノエルが持って来た果実水が入っている水筒を回して飲みながら、宝石屋を襲う計画を立てる。


 正面で騒ぎを起こし、中に入る組を分けて、いよいよ作戦実行の時間となった。


 最初に数人の子供が入口を守っている衛兵に声を掛ける。


「お兄ちゃん~遊んで~」


「わいわい~」


「なんだガキども! あっちにいけ!」


 何の躊躇もなく蹴る衛兵だったが、その蹴りが見事に空振りする。


「あはは~下手くそ~」


 子供達の挑発に顔が真っ赤になった衛兵が怒り出す。


 その隙を突いて、隠れていた子供達が次々中に入って行く。


 衛兵に追いつかれた子供達が殴られる直前に、『激麻痺の短剣』を持った子供が鎧の隙間から短剣を指して衛兵を麻痺させる。


 倒れ込んだ衛兵に子供達は大きな声をあげて周りの人々の注意を引く。


「衛兵お兄ちゃん!? どうしたの!?」


 どんどん人が集まり、その隙に子供達はその場を後にして宝石屋に入って行く。


 宝石屋の前には急な騒ぎに人集ひとたかりが出来てしまった。




 ◇




「ノエル。上の階にはいなかったよ」


「お兄ちゃん、下の階を見つけたよ!」


「分かった。みんな、これから下の階に行くよ。もし敵がいても心配しないで、剣持ちに掛れば一撃だから、それまで全員で足止めするんだよ」


 みんな大きく頷いて返す。


 既に200人にも及ぶ子供達が宝石屋の地下に降りるが、誰一人足音を立てない。


 スキルがなくても、今まで培った忍び足の実力だ。


 しかし、彼らはまだ気づいていなかった。


 この店を守っている人数が限りなく少ないことに。




 どんどん地下に降りていくと、一際広い場所に出られた。


 その時、待っていたとばかりに一人の男が拍手をする。


「いやいや~まさか子供達が反乱・・を起こすなんてね~」


 既に地下に降り立った子供達を囲うかのように大人達が現れる。


 その手には長剣や槍、斧など、たった一瞬で子供達を跳ねるに足りるだろう。


 そんな現状にノエルは息を呑んだ。


 まだ諦める訳にはいかない。


「お前が僕達を虐げたやつだな!」


 ノエルの叫び声が木霊する。


「虐げたとはまた随分な言い分だな? 俺はただ行く宛のない孤児達に仕事を与え、食事を与えたはずなんだが…………最近の子供は恩義という言葉も知らないのか?」


「あれが恩義なはずがないだろう! 盗みで多くの仲間が捕まって、多くの仲間が殴り殺されてるんだ! あれのどこが施しだというんだ!」


「がーははははっ! 孤児のくせに人権を求めるとはね~お前達はな、大人達の指示を聞くただの動物なんだよ! そんなクソ汚いガキどもが俺様の反逆など許されるはずがないだろう! おい! 今すぐこの汚物どもを斬り捨てろ!」


 ノエル達に向かい、嫌らしい笑みを浮かべた大人達がその手に武器を持ち一歩ずつ近づいた。

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