第143話 シュルト再始動

 孤児達が集まっている屋敷。


 ルリとルナはその高い隠密スキルを使い、二人一緒に孤児達が集まっている屋敷に潜入していた。


 屋敷の中には孤児達だけでなくいかつい男どもが安っぽい酒を口にしている。

 

 子供達はまとめられ、みすぼらしい格好で固くなった安いパンと川の水が与えられている。


 そんな姿にルリとルナは苛立ちを覚えるが、そのまま状況を眺める。


「おい! ガキ! 今日も上納金がないじゃねぇか!」


 大人一人が子供を蹴り飛ばす。


 飛ばされた子供を、他の子供が庇い何とか大きな怪我がないようにしている。


 日頃から受けているからこその対策なのだろう。


「もっと取ってこいよ! 今度は許さんからな!」


「「「「はい…………」」」」


 そんな彼らに固くなったパンを数個投げつけた大人達が高笑いをしながら部屋を後にする。


「ノエルくん、大丈夫?」


「あ、ああ。大丈夫」


「…………」


 子供達の中に少し大きい身体を持つ二人。


 先程蹴られたノエルとシイナの二人だ。


「シイナ。みんなにパンを分けてやってくれ」


「う、うん」


 投げられたパンは既に一か所に集められていた。


 ここにいる孤児達の深い絆を感じられる。


「みんなありがとう。これからパンを分けよう」


 孤児達も大きく頷いてパンをちぎり始める。


 その行動にも慣れを感じる。


 みんなが腹いっぱい食べれるはずもない量に、ノエルは悔しそうに拳を握る。




 その時。


 外から唯一光が差し込んでいる窓際に物音がする。


 全員が窓に視線をやると、そこには天使をも思わせる可愛らしい女性が一人、降り立った。


「初めまして。声は決してあげないでね~」


 可憐な声が部屋に響く。


 そして、子供達は何かを直感した。


 ――――ようやく天使様が来てくださったと。


「は、初めまして」


「貴方がこの中のリーダーかな?」


「はい。ノエルといいます。こちらはシイナです」


「し、シイナと申します」


 ぺこりと挨拶をする。


「私の事は『シュベスタ』と呼んでね」


「シュベスタ様……」


 目の前は真っ黒い衣装に身を包み、顔は不思議な黒いベールを被っていて全く見えない。


 その姿はどちらかと言えば――――死神にも見えてしまうが、彼らにとって彼女はまさに天使に見えた。


「貴方達はどうしてここにいるの?」


「はい…………僕達はこの街から生まれた孤児なんです。住宅区にも居場所がいなくて、気付けば大人達に連れられ毎日盗みを働いています…………シュベスタ様は僕達が悪い事をしたから罰を与えに来たのですか?」


「ふふっ、私はそんな存在ではないわ。こうして顔を隠していても貴方達と同じ人よ?」


「シュベスタ様が……人…………」


「どうしてここから逃げないの?」


「…………いつも逃げたいと思ってます。でもここから逃げる場所がないんです。この街から一歩外に出れば砂漠が続いています……逃げ場などどこにもないんです……」


 悔しそうに涙を流すノエルとシイナ。


 ずっと逃げたいと思っているからこそ、彼らは涙を流した。


「確かにこの街から出るにはそれなりに覚悟が必要だったね。ただ、私も貴方達をただ助けることは出来ないの。でも一つだけ、今の状況を打破出来る方法があるよ」


 全員が涙を拭い、シュベスタを見つめた。


 今まで自分達に救いの手を差し伸べた存在などいなかった。


 目の前のシュベスタもそうかも知れない。


 だけど、彼女を天使だと思ったみんなは、どこかで彼女を信じたくなった。


「私達は『シュルト』という集団だよ。一言で言えば、私達は暗殺集団だと言ってもいい。私達はずっと仲間を求めているの。私達を共にを撃ち、仲間を守るためにも自ら剣を取る必要があるの。みんなの生まれた苦境に同情するつもりはないよ。でも私達の仲間には同じ苦境の人が沢山いるから、もし貴方達にその気があるなら、『シュルト』になれる機会を与えます」


 そう話したシュベスタは、彼らの前に小さな短剣を人数分渡す。


「この短剣には強力な痺れ効果が付与されているの。これで斬りつけられた者はすぐに身体が動かなくなるから、この短剣を使って、私達からのミッションを一つ遂行して貰いたい」


「やります!」


 他の子供も手をあげた。


「いいわ。貴方達と同じ苦境の子供達がまだ沢山いるはずなの。彼らを纏めて欲しい。やり方に関しては好きなようにやっていい。でも後悔しないようによく話し合って作戦を決めてね」


「はい!」


「本当なら食事とかもあげたいけど、それはまた今度ね」


「大丈夫です。絶対認めて貰えるように頑張ります!」


「ええ。でもこれだけは忘れないで。いつも私達が見守っているから、貴方達は好きなように試してみなさい。怖がる必要はないから」


「はいっ!」


 短剣を渡したシュベスタは、一つ大きな果実水を残してその場を後にした。


 子供達は果実水をひと口ずつ飲み、残りを隠す。


 彼らの瞳には、未だかつてなかった希望の光が灯っていた。

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