第138話 王都アポリオン

 ガーヴィンの頑張りのおかげで、空の上からではあるけど地平線の向こうに大きな街が見え始めた。


 間違いなくアポローン王国の『王都アポリオン』だろう。


 ガーヴィンの風貌では目立ちすぎて攻撃されかねないので、ここら辺で地上に降りることに。


 まだ王都までは遠いけど敵対されないためにはこうするしかないかな。


 久しぶりにフィリア達と一緒に道沿いを歩いていく。


 最初に占領した町から衣服を貰い、砂漠用の衣服に着替えている。


 砂漠は日差しが強いので、全身を隠す衣服が流行っているそうだ。


 だから僕達も今は目の部分しか見えていない。


 似た衣服だと誰が誰だか全然分からなさそうだ。


 さらに言うなら隠れるには絶好の条件でもあるか。


 ただ、ミリシャさん曰く、何らかの方法でそれぞれの人を管理する方法があるのではないかと予想している。


 それもあるので、ちゃんと正面から入る方が良いと思われる。


「それにしてもルーのおかげで涼しいね~」


 フィリアの言う通り、ルーが水魔法を展開してくれて涼しさを感じる。


 僕達がルーを褒めるとルーも嬉しそうに声をあげてくれる。


 そして、なぜラビがドヤ顔をするのか。


 段々大きくなっていく街の広大さにアポローン王国の大きさを肌で感じる。


 更に砂漠周囲には殆ど人を見かけないが、王都へ続く道には意外と人が多い。


 背中にコブが出来ている馬を引いている人が多くて、荷物を背負わせる為の馬みたいだ。


 道沿いを歩き、街の入口まで辿り着くと衛兵達が一人一人から許可書を確認していた。


 次々確認が進み、僕達の順番になった。


「ん? 見ない顔だな?」


 目しか見えないのに顔を覚えているの!?


 とミリシャさんの予想通りか。


「はい。ゼラリオン王国から商売に来たんです」


「そんな遠くから?」


「はい。最近向こうのクラン様が活躍なさって、帝国も楽々通れるようになったんです」


「ほぉ! 革命のクランだったかな?」


「そうです! おかげで商売も楽になりまして~」


「ふむふむ。ただこちらの街に入るには許可証が必要で、無ければそれなりの通行料を払う事になるがどうする?」


「はい。以前通った町で村長さんが良くしてくださって、こちらの許可証があれば入れると思ったんです」


「どれどれ…………ほぉ! あの町の村長からの許可証とはまた珍しい。よほど良い商売をしているのだろう。さあ、入ってくれたまえ」


「ありがとうございます!」


 衛兵さん達に通され、街の中に入って行く。


 ゼラリオン王国や帝国とは違う形式の家々が並んでいる。


 壁は砂の色で、形的にはアクアソル王国に近く四角い家が多い。


 屋根の上に洗濯物が干されている家が殆どで、家は大体1階建てだ。


 二階建てはお店や、街の奥の家が多い。


 道を進み、広場に向かうと人々が大いに賑わっている。


 店を開いて物を売る者。


 遠くから来て、中間卸し業者と商談を頑張る者。


 より安いモノを買おうと値段を比べている者。


 美味しそうな肉串を頬張る家族。


 どれも人情味が出ていて、他の国との違いは全く感じない。


 ただ…………。


「この街も多い・・ね」


「そうだね。帝国に近いモノを感じるな」


 道を一歩逸れた場所に、獲物を狙うかのごとく目を光らせている子供達が見える。


 子供達だけでなく、大人も混ざっていて、彼らが同じグループなのは明白だ。


 ただ、衛兵が至る所で目を光らせているので、そう簡単には出て来れずにいる。


「とにかく現状を見るに、まだあの人は付いてないみたいだね」


「だな。ルナちゃん、ルリくん。兵達の状況を見て来てくれる?」


「あい~」「うん!」


 二人が人波に紛れ込む。


 僕達はそのまま道を進み、高価なモノが売ってそうな通りに入っていく。


 行き来する人は随分と減ったが、衛兵の数は倍ほど多い。


 それくらいこの通りが高価なモノが売られている通りという事で理解出来る。


「フィリア、あの宿にしようか」


 高級そうな宿屋を指さす。


 これもパフォーマンスの一つで、隠れて僕達を見ている人達にそれなりに金を持っている風を装う。実際は持っているけどね。


「うん!」


 フィリアが嬉しそうに僕の手を引いて宿屋に入って行く。




「いらっしゃいませ」


「十日ほど連泊したいのですが」


「かしこまりました。当店では先払いになりますが宜しいでしょうか?」


「構いません。仲間があと二人いるので、4人で泊まれる部屋でお願いします」


「はい。ではこちらの中から選んでくださいませ、こちらとこちらなら4人で泊まれます」


 店員さんが見せてくれる絵には階数と部屋の広さや詳細、サービス内容まで書いてある。


「意外と安い・・ですね?」


 そう話すと店員さんの表情が一瞬驚く。


「これは失礼しました。こちらは上の階層になっておりまして、景色や防犯に力を入れておりまして、この額になりますが…………」


「あ、ここいいね」


「うん! この部屋がいいな!」


 フィリアもノリノリで選んだのは、最上階のスイートルームだ。


 その額だけでもとんでもない額で十日も泊まると中々の額になる。


 ただ、『銀朱の蒼穹』の現状を考えれば大した額でもない。


 アポローン王国の王都で活動するには丁度いい。

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