第139話 王都アポリオン活動開始

「わーい! 広い部屋だ~!」


 帰って来たルナちゃんが早速ふかふかのソファーに飛び乗る。


 見た目から体重も軽そうなルナちゃんは、ソファーにほんの少し跳ね返り浮かび上がって座る仕草がまた可愛らしい。


「お帰り~」


 二人を迎えに行ってくれたフィリアと二人に冷えた果実水を渡す。


 砂漠では何よりも冷えた果実水がご馳走だ。


 部屋中を巡っているラビとルーの合体魔法で涼しい風に落ち着いた二人が報告を始める。


「一番の印象は、住民達が戦争にあまり興味がない事だね」


「興味がない?」


「うん。戦争が起きてたとしても国を守ってくれる王様と守護騎士7人を信じ切っているから、負けるとは思ってないみたい」


 なるほど……それほどに王様への信頼度が高いって事だな。


「今度は私~! 私が調べた場所は、フィリアお姉ちゃんが心配していた孤児達や裏側なんだけど、どうやら裏に大きな組織が存在していて、その組織が孤児達も裏側も牛耳っているみたい」


 大きな組織か。


「ソラ兄さんが危惧した兵達の多さは、ルナちゃんが言った組織に対抗するためかもね。市場にいた兵達は、帝国軍ではなく組織を気にしていたから」


「うんうん! 私が調べた方の兵士さん達も組織の動向を気にしてたよ~」


「二人ともありがとう。今後はその組織を調べながら、王国軍の現状と帝国軍のローエングリンの行方を追う事だね」


 三人も大きく頷いた。


「では明日から、ルリくんとルナちゃんには一緒にその組織を探って貰うね。僕とフィリアはローエングリンを中心に街内を探そう。アンナには悪いけど、王城をお願いしていいかな?」


「ニャー」


 いつも手伝ってくれると言って来るアンナだが、魔女である事が周りに知られてしまうと色々大変な事になると今までは防衛をお願いしてきた。


 猫姿となった彼女ならバレる事なく、色々活躍してくれそうな気がする。


 その日は宿屋でゆっくり休息を取り、明日からそれぞれ分かれて活動する事にした。




 ◇




 次の日の朝食を終え、アンナとルナちゃん達が早々に出掛けた。


 僕とフィリアもひとまず街の至る所を見て回る事に。


 僕達が泊っている宿屋は丁度貴族区と一般区の境に位置していて、ここから北側に貴族区、南側が一般区になっている。


 貴族区の先には大きなお城が見えるけど、帝国や王国のお城とは異質な感じの作りになっている。


 各国のお城はどちらかと言えば、三角の形を主軸に作られているので屋根部分が尖っているのに対して、こちらの国の城は丸い。


 あまり見慣れないその姿に、最初は違和感を覚えていたけど、アポローン王国ならではの作りなのだろうね。


 貴族区から逆方向には貴族区より数倍広い一般区がある。


 この街に着いてから真っすぐ歩くと大通りや広場があり、そこから進んだ先には多くの住宅区が広がっている。


 昨日はあまり見れなかった大通りに戻り、どんなモノが売られているか眺める。


 そこですぐに他の国とは違う光景を目の当たりにした。


 他の国と大きく違うのは、あまりにも豊富な種類を売っている事だ。


 例えば、食材。


 向こうではボア肉が主で、その他にもいくつかの種類の肉が販売されている。


 それに比べて、アポローン王国では多種多様なお肉が売られている。


 あまりにも色んな種類のお肉にどれがどんなお肉なのか全く想像も付かない。


 さらに言うなら向こうではボア肉が一番多く流通しているが、ここではボアのお肉は殆ど見かけない。


 きっとこの街の周辺で取れるお肉にボアはいないのかも知れない。


 お肉と双璧を成すかのように売られているのは、色とりどりの布だった。


 種類も多ければ、色も多い。


 特に女性が購入していて、ああいうモノが流行っていそうだね。


 今度大量に購入して、アクアソル王国で内職をしてくれている人々の仕事に追加してみても良いかも知れない。


 それにしても布の質がうちらの王国よりも遥かに高いんだな。


 暫く広場や大通りを歩き、買い食いをしながら珍しい文化を感じつつフィリアと楽しい時間を過ごす。


 最近は戦いが忙しくてゆっくりできておらず、腕に絡んだフィリアの肌の感触に幸せを感じる。


 この戦いが終わったら、今度こそちゃんとプロポーズをしなくちゃな。




「そこのカップルさん~占いはいかがですか~」


 澄んだ声が僕達の耳に届く。


 ――――まるで待っていたかのように。


 僕達の視線が自然と彼女に向くと、深いフードを被ってテーブルには水色の水晶を置いて、こちらに怪しい笑みを浮かべた表情で見つめる占い師がいた。


 フードの中から少しだけ外に出ている美しい緑色の髪と、口元しか見えないが若く綺麗な女性である事を示している。


 フィリアも気になったようで、僕の手を引き、テーブルに座る。


「いらっしゃい~銀貨1枚になります~」


 素早く銀貨を1枚取り出すフィリア。


 意外とこういうものに興味があるみたい。


「まいどあり~どんな占いをご所望ですか?」


「はい! えっと…………私達のこれからの事をお願いします」


「うふふ、かしこまりました。とても可愛らしいカップルさんですから、きっと素晴らしい道が待っているでしょうけど、ここは一つ、占わせて頂きます~」


 僕達のこれからの事か…………。


 うん。


 この戦いが終わったら、速めにプロポーズしよう。


 彼女は不思議な羅列の言葉を繰り返す。


 聞き慣れない言葉に戸惑いながら、彼女に注目する。


 水晶が短く光を発しても暫く言葉が続く。


 一旦目を開けた彼女は、頬に流れる汗をぬぐい、もう一度同じ事を繰り返す。


「…………」


「…………」


 何となく…………何となくだけど、彼女からの答え・・を聞きたくないと思ってしまった。

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