第136話 アポローン王国救出作戦開始

 空飛ぶ馬車の窓から下に広がっている大地を見ると金色に光る大地が広がっている。


「ソラくん。それは砂漠っていうのよ」


「サバクですか?」


「砂漠は一帯が乾燥し続けている場所だよ。一帯が全部砂で出来てるの」


「砂! 確かに金色に光ってますね」


「そうよ。しかし水がないのもあって、非常に暑くなっているわ」


「そうなんですね? ここはまだ涼しいですね」


「まあ、空だから涼しいけど、降りると暑いと思うわ」


 ミリシャさんから砂漠を教えて貰い、広がる黄金の海を眺める。


 どこかアクアソル王国の麦畑を想像させる。


 麦畑も金色に輝いていて、空の上から見る分には砂漠もそん色ないほどに綺麗な景色だ。


 飛竜馬車で旅行が出来るようにしたらメンバー達も喜ぶかな?


 俺達はそのまま砂漠を進み、とある町に降り立った。




 ◇




 町の広場に飛竜で降り立つと、周りの兵士達が長い槍を構えてこちらを威嚇し始める。


 降りる際に飛竜による威嚇が功を奏し、向こうからの攻撃は一切ない。


「帝国軍がまた何のつもりだ! また我々を痛めつけるつもりか!」


 一人の兵士がそう叫ぶ。


 それもそうで、ここから見えるほどに、広場の周囲には怪我をしている兵士が沢山座り込んでいる。


 彼らは恨みが込められている視線でこちらを睨みつけていた。


「我は帝国のリントヴルム伯爵という! これからこの町を占領させてもらう! 拒否する者は問答無用に切り捨てる! 全員武器を捨てろ!」


 お父さんの声が町中に響く。


 あまりの迫力に、周囲の兵士達はその場で武器を捨て始めた。


「帝国軍との戦いで怪我をしているのでしょうか?」


「だろうな…………」


 お父さんも慣れているようで、慣れた手付きで部下達を使い武器の回収を行った。


「メイリちゃん!」


「はいっ、ソラ様」


 俺の影に入ってここに来てくれた弐式を呼ぶ。


「ここにいる兵士さん達を治してあげて」


「かしこまりました!」


 メイリちゃんが弐式のメンバーを連れて広場の周囲に座り込んでいる兵士達を治して回る。


 回復の途中で大怪我している兵士もいるらしく、お願いされてメイリちゃん達が当たってくれた。




「ソラ様! こちらの珍しい食材をどうぞ!」


「ソラ様! こちらは砂漠からしか取れない布でございます! 納めてください!」


 町の住民達が沢山の物を持って広場にいる僕のところにやってきた。


 どうやら兵士達を治してあげた事と、町中の住民達に大人しくして貰う代わりに食事を振る舞った事のお礼らしい。


 現在、僕達『銀朱の蒼穹』は、人数も相まってアクアソル王国内で内職と共に、大量に料理を作って貰う仕事も進めている。


 『アイテムボックス』には大量の食事が入っているので、こういう大変な時に振る舞える強みを感じる。


 住民達の歓迎ムードに、既に武器を奪われ何も出来ない兵士達も少しずつ心を開き始めた。


 『銀朱の蒼穹』のメンバーで、町の壊れた壁や家を急いで片づけたり、戦いの跡を片付けて、兵士達もそれを手伝い始めたのだ。


 その日は、いきなりの占領だったが、町の内部は平穏に包まれる事となった。




 『銀朱の蒼穹』幹部のテント内。


 僕達は次の行動について相談を始める。


「この街は帝国に一番近い町だ。ここから東に向かった所に大きな街があり、南に向かった所には小さな町が多数点在している。ここを足掛かりに東を攻めるべきだと思う」


 ここら辺の地理はお父さんが一番詳しいので、説明してくれる。


「伯爵様が仰っていた最強のエンペラーナイトはどこに向かったかまだ分からないのですよね?」


「ああ。ただ予想するにアポローン王国の王都であるアポリオンに向かったと予想される」


「王都アポリオンですね……ここから南東側に進んだ場所でしたね。まずは東の街を経由して、更に南東側にある街を経由しないと辿り着くのは難しいと…………」


「そうだな。まあ、飛竜で飛んで行く手はあるが、飛竜達も休息が必要だろうから、無理に行くのは良くないだろう。ただ時間がないのも現状だな」


 お父さん曰く、エンペラーナイトの一角であるローエングリンという人が単独でアポローン王国に戦いを挑みに向かったそうだ。


 元々ローエングリンは単騎で動くのを好んでいて、あまり騎士を従えないそうだ。


 先日の戦いでは騎士を率いたが、アポローン王国の徹底防戦に苦しめられたみたい。


 最強を誇るローエングリンでも、アポローン王国を守る7人の守護騎士達を全員相手するのは身が持たなかったそうだ。


 帰って来た帝国軍の話から、守護騎士の半数が大怪我を負っており、ローエングリンはこれを機にアポローン王国に単騎で戦いを挑んでいると推測される。


「では、ここで私の意見を述べさせて貰うわ。このままでは私達が占領しながら向かうにも日数が掛かってしまう。それだとローエングリンが先に王都を攻めてしまうかも知れない。そこで提案なんだけど、こちらを三つに分けたい。一つは主力としてこのまま東のエンケージ町を占領する部隊。一つは速さを活かして南の町々を調査しながら困っている人達を助ける部隊。最後はフィリアちゃんを中心にごく少人数で王都に真っすぐ向かう部隊に分けましょう」


 ミリシャさんの意見に反論せず、僕達はそれぞれの部隊を分けて向かう事となった。


 殆どの戦力で東の街を占領する。


 これは帝国にアポローン王国と戦っている事を示すための絶対条件となる。


 お父さんや僕としてはアポローン王国と事を構えたくはないけれど、帝国の目を騙すには仕方のないことだ。


 南の町々は弐式と肆式の混合メンバーで、アサシンを主軸に構成しているメンバーで向かって貰い、リーダーは肆式リーダーのカーターくんが率いる。


 王都に向かうメンバーは僕、フィリア、ルリくん、ルナちゃんの計4人。


 そして、僕達を運んでくれるのは、お父さんの相棒である飛竜ガーヴィンだ。

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