第132話 対決、転職士と伯爵
◆とある伯爵◆
「あれがアクアソル王国の新しい力か」
「…………伯爵様。今でも遅くありませ――――」
「よい。ここで死ぬ運命ならそれもまた仕方ない事だ」
「………………最後までお供します」
「悪いな。お前にはずっと助けられっぱなしだな」
「いえ、伯爵様の隣に立てるだけで光栄でございます」
「つくづく俺は仲間には恵まれているな。この家柄さえなければ……あの子も…………」
「ここは何があってもお守ります。だから……この戦いが終わればご令息様に……」
「…………間もなくだ。間もなく……………………会えるまで死ぬわけにはいかないからな」
「はい。その意気です。必ずやここを勝ち抜きましょう!」
伯爵と飛竜隊隊長は目の前にいる二人の敵を睨みつけた。
◇
「――――リントヴルム伯爵」
思わず、口でその名が零れる。
「如何にも。俺がリントヴルム伯爵である」
燃えるような赤い髪と瞳がとても印象的で、風体から放たれている威圧感はどこか魔女のアンナを思わせるほどだ。
「お前がリーダーだな?」
「はい」
「…………一騎打ちを申し込む」
「伯爵様!?」「ソラ! ダメよ!」
伯爵の言葉に彼の隣にいた男と、フィリアがすぐに反応する。
ただ、どこかで彼と対峙しなくてはならないと思う。
「いいですよ」
「ソラ!」
俺はフィリアを手で制止する。
「ルブラン。お前は女の方を任せる」
「…………かしこまりました」
「ガーヴィン! お前は決して手を出すな!」
直後、伯爵の後方から大きな雄叫びが聞こえ、大きな飛竜一体が飛んだ。
本当に飛竜なのか? と思えるくらいに大きい。
「フィリア。自分の命を優先にね」
「…………うん」
伯爵と俺を残し、フィリア達がその場を後にする。
「一騎打ちの申し出を受け入れてくれて感謝する」
「いえ、戦う前に一つ質問しても宜しいでしょうか?」
「それほどかしこまる必要はない、我々は敵同士なのだからな」
「…………どうして他の戦いに参戦せず、いまさらアクアソル王国を攻め立てるのですか?」
「………………帝国軍としてアクアソル王国を攻めるのに違和感を感じるのか?」
「はい。とても違和感を感じます。帝国とはいえ、エンペラーナイトに手柄を譲ったのには理由があると思いましたから」
「…………」
伯爵は一度目を閉じて考え込む。
「もし、お前が俺に勝てたら教えてもよい」
「…………分かりました。俺も負けるわけにはいきませんので」
「それはこちらとて同じだ」
鋭い目線が僕に向き、彼は自身の愛剣を抜く。
髪と瞳と同じ色の紅蓮色に染まっている刀身が姿を現した。
「我が愛剣『オーバーロード』だ。これからお前を切り裂く剣でもある」
「…………」
俺も自分の剣を抜く。
ガイアさんから貰った最高級の剣。
その刀身は翡翠色に輝いている。
「ほぉ……中々良い剣だな」
「はい。鍛冶師の仲間が俺達との仲間になった時にくれた証なんです。彼が今までの生涯をかけて作った最高の剣です」
「そうか…………お前も良い仲間に囲まれているのだな」
「ええ。だから負ける訳にはいきません」
「では、どっちが仲間を大切にするのか、試させて貰う!」
伯爵の足元に炎が燈る。
――――来る!
「ラビ! ルー!」
急いで召喚獣達を召喚し、飛んでくる伯爵を警戒する。
――――速いというよりは、凄まじい速度で飛んでくる。
今まで戦ったタイプとは全然違うタイプで、炎に押されて飛んでくる感覚だ。
ラビの風魔法で一瞬速度が遅くなった隙に、ルーの補助魔法を受けて伯爵の横面に攻撃を仕掛ける。
速いけど振りが大きい伯爵の移動には慣れないが、直線的な移動が多いので対処はそれほど難しくない。
正直、これならフィリアとの稽古の方が十倍はしんどい。
「スキル、精霊降ろし!」
身体に風の精霊を宿わせる。
精霊騎士のスキルで、精霊を宿らせる事で、もう一つ身体を動かせる感覚になれる。
例えば、手をもう二つ動かせるようになる感覚で、さらにその手から魔法を撃てるのだ。
速い伯爵の移動を多方面から風魔法で軌道をずらしていく。
本来の移動よりも着地地点をずらして、伯爵に疲れを蓄積させる戦法だ。
その時、伯爵が後方に大きく飛ぶ。
赤い刀身の剣を横に大きく構える。
――――大きい技が来る!
「ラビ! 全力バリアだ!」
「ぷいぷい!」
俺の身体にラビのバリアが張られるのを感じる。
「ルー! 水魔法をぶつけて!」
ミャァァァ!
「武装スキル! 絶炎斬!」
伯爵の刀身に大きな炎が纏われ、周囲の大地が震える威圧感を放つ。
彼の剣の振りと共に、剣から爆炎の攻撃が放たれた。
直後に上空のルーから大量の水魔法が爆炎に降り注ぐ。
炎と水がぶつかり合い、爆音を響かせた。
「ラビ! 今だ!」
ラビに風魔法で俺の身体を前進させる。
これは伯爵が炎で自身を押して飛ぶのを真似た形で、空を飛んでいる時に使っている魔法と同じ魔法だ。
「スキル! 精霊斬撃!」
剣に眩い光が灯り、伯爵に叩き込む。
大技を放った直後だというのに、伯爵は軽々と止めた。
すぐに剣から風魔法が発動し、伯爵を襲うが、伯爵の刀身から大きな炎が広がり風魔法を全て防ぎ切られる。
あの一瞬でここまで対応出来るなんて…………それにあの剣をここまで上手く使えるからこその強さを感じる。
その後、いくつもの剣戟をお互いに繰り出し、剣を交える。
数分なのか、数十分なのか、はたまた数時間なのか。
俺も伯爵も既に満身創痍で息が荒い。
ただ俺にはラビとルーがいる。
伯爵の剣に灯る炎も最初に比べると随分と小さくなってきてる。
このまま勝ち切りたい。
その時、伯爵が左手に小さな水晶を取り出した。
その水晶から大きな炎が溢れ、剣に纏いつく。
ただ――――本人の身体に焼け傷を増やしていた。
「負ける訳にはいかない。俺には守らねばならない人々が沢山いる。ここで負けたりはしない!」
伯爵の最後の大技の剣戟を飛んでくる。
俺も全力で剣に魔法を覆い、伯爵の剣にぶつけ合う。
――――――その時。
上空から二人の影が落ちてくる。
男が伯爵の剣を、女が俺の剣を防いだ。
周囲に伯爵と俺の魔力の風が広がるのが見える。
そして、俺の目の前に信じられない光景が広がった。
「え…………どうして…………お父さん? お母さん?」
その二人は久しぶりに会う両親だった。
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