第131話 飛竜隊の罠
フィリアの双剣が空を切り裂く。
こちらに飛んできた火炎が真っ二つに割れて、俺達の周囲に炎が広がっていく。
上空からの炎が終わり、その先に黄色い飛竜一体が悠々と空を飛んでいた。
「こんなに早く見つかるなんて驚いたよ」
「もしかして飛竜を使い、上空から見張っているのかも知れないですね」
「そうね……ごめんなさい。私の注意不足だったわ」
「いえ、ミリシャさんも初めての対戦ですから。ここからどうするかを考えましょう」
「ええ。ルリくんとルナちゃんは肆式を連れて、街にいる飛竜を強襲してちょうだい。恐らく飛べない飛竜もいると思うから、空に飛んだ飛竜は対応しなくていいわ」
「「はい!」」
ミリシャさんの指示で、ルリくんとルナちゃんはすぐにその場から消え去る。
俺の影の中に隠れていた肆式のメンバーも続いて消えていく。
「シヤちゃんは地上の気配を探って、フィリアちゃんは上空からの攻撃を防いでちょうだい。カールと私、ラビ、ルーで飛竜を落とすわよ!」
「「「はい!」」」
ルーの魔法により強化されたカール達の魔法が上空の飛竜に放たれる。
素早い飛竜だが、ラビの風の魔法で上手く避けられず氷の槍に貫かれて落ちていった。
ワンド街から次々飛竜が空に飛ぶのが見える。
ざっと50騎くらいか?
ただ、意外にもこちらに攻撃を仕掛けてくるよりは、ワンド街の上空に留まり、火炎ブレスをあちらこちらに放ち始めた。
【ミリシャさん! 思っていた以上に防衛よりだったよ!】
ルナちゃんの報告念話が届く。
あの攻撃はルナちゃん達を狙った攻撃だったのか。
【一旦離れてちょうだい! 思っていたより、指揮官が有能だわ!】
【はい!】
「困ったわ。エンペラーナイトなんかよりも何十倍も強い相手ね…………このまま力で押し切るのも出来るけど…………う~ん、ちょっと作戦を変えなくちゃね」
ミリシャさんが悩んでいる間に、俺達は山の上に移動し、ワンド街を眺める。
上空には護衛の飛竜が展開しているが、こちらに攻めては来ない。
こちらの出方を待っているのか?
それならよほどの対応力に自信があるのかも知れない。
ただ、飛竜とはいえ、ずっと飛んでいられる訳ではない。
その証拠がワンド街から飛び立っていない飛竜にある。
全員が飛べたら攻めて来たのだろうからね。
その時、ワンド街の外、帝国側に一際目立つテントが見えた。
【ミリシャさん。ワンド街の外にテントと飛竜が数体いますね】
【う~ん、恐らく飛竜隊の隊長がいる場所なんだろうね……攻めるなら今かな?】
何となくだけどあれも罠な気がする。
【ソラくん。一つ、提案なんだけど、そこから見えるテントには恐らく彼らの隊長がいるはずなの。彼らがワンド街からこちらに攻めてこないのは、正面でぶつかれば負けると知っているから。だから現状は時間を稼ごうとしていると思う。そうすればこちらの食料事情で向こうに軍配があると思われているだろうからね】
こちらに『アイテムボックス』が使える事は相手は想像もしてないはずだ。
そもそも『アイテムボックス』というスキルを持つ者は限りなく少ない上に、基本的に戦場に立てるほど強い者はいない。
【前回の戦いで飛竜隊が出てこなかった事や、シカウンド地域の戦争時に出てこなかった事で伯爵軍として個別に動いている可能性がある。それにあんなに飛竜を連れて攻めて来ずにいるという事は、恐らくソラくんを誘い出してると思われるの】
【えっ!? 俺をですか?】
【ええ、指揮官はよほど頭が回るという。それならワンド街と言わず、テントに布陣していた方が暗殺されにくいし、街ごと燃やす戦法だって取れたはずなのに、敢えてワンド街に主力を残してテント側だけ薄くしたという事は、こちらの主戦力を呼び寄せているのだろうね。正面では勝てなくても個なら勝てると思っての事よ。私の提案は、敢えてこの挑発に乗ること。恐らく飛竜隊を攻めて行けば全滅させられるわ。でも少なくとも被害も出るのは間違いない。それならば相手の挑発に乗り、それを打ち破って伯爵にこちらの力を見せつけるのも良い手だと思う】
ミリシャさんがそう予想するなら間違いないだろう。
確かに言われた通り、現状があまりにも怪し過ぎると感じる。
ここは主戦力だけで、相手の隊長を落とせばこちらの思い通りに出来るならば、その方が良いかも知れない。
「フィリア。一緒に来てくれる?」
「はい。私は貴方の剣。どこまでもお供します」
フィリアが片膝をついて、騎士の誓いを口にする。
アインハルトさんに教わったんだろうか。
「ありがとう。これから俺とフィリアで相手の隊長を落としに向かう!」
俺とフィリアがワンド街の向こうに見えるテントに向かって走り抜ける。
予想通り、上空の飛竜隊からの攻撃は一切ない。
そして、俺達は遂に飛竜隊の隊長がいると思われるテントの目の前に辿り着いた。
そこには一人の男が腕を組んで、もう一人の男がその隣に立ち、俺達を待っていた。
「ソラ。あの人…………」
「…………強いね」
遠くから見えるその人は、視界に入るだけで肌がぴりぴりするほどの強者だ。
丘の上から俺を睨む燃えるような赤い瞳が見えた。
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