第130話 第二次アクアソル王国戦争開始

 アクアソル王国戦争が一時期終わりを迎えて数日。


 『銀朱の隠れ家』も正常に運用が出来て、アクアソル王国は『銀朱の蒼穹』と交流を交わしている。


 どれも順調ではあるが、今まで多く訪れていた観光客が激減した事に、王都民からは心配な声が上がっていたのも事実だ。


 この数日、王都民達の仕事の斡旋が急務だったので、シヤさんとも色々相談して決めたのは、取り敢えずの処置として内職を勧める事にした。


 本来なら安賃金の内職だが、そこは物品搬送にお金がかからない『銀朱の蒼穹』だからこそ、その余った分を彼らの給料にあてがうと、意外にも今までの職よりも遥かに多い収入になっている。


 それが噂になり、今ではアクアソル王国の王都民のほとんどが内職をやってくれている。




 俺達は一度レボルシオン領に戻り、それぞれの日常を送りつつ、帝国の状況を探っていた。


 このまま平和に行けばいいと思っていたのだが…………。




【ソラ様! 緊急事態です!】


 俺達に向けて新たに発足した伍式のリーダーであるアルハくんから念話が届く。


 緊張が籠っている声に、何か良くない事が起きそうな気配を感じる。


【アルハくん、どうしたの?】






【帝国軍が…………帝国軍が攻めて来ました!】


 俺達はレボルシオン領からアクアソル王国の王都まで出来る限りの速さで向かった。




 ◇




 アクアソル王都の上空。


 空を埋め尽くす数の飛竜が飛んでいる。


「ほぉ…………アクアソル王国は意外にも素晴らしい戦力を揃えているな?」


「まさか、広範囲バリアをこれほど持たせるとは、思いもしませんでした」


「ルブラン。君は優秀だが時折相手を過小評価するのはよくないぞ。アクアソル王国があのグンゼムに勝ち、帝国軍を殲滅しているというなら、これくらいの戦力は揃えているのは当然といえば当然だろう」


「たしかに…………あの弱小国が力を付けたのが信じられず、そう判断してしまいました。申し訳ございません」


「よい。俺も自分の目で見るまでは正直信じられなかったからな」


 二人の男は、飛竜の火炎ブレスが王都を覆っているバリアで守られている光景を見ながら話し合う。


「しかし、こんなに頑丈なバリアをどうやって維持しているのでしょう」


「ふむ。魔導士が複数人いるのだろう」


「魔導士が複数人!?」


「ああ、情報によれば、先の戦いで空が複数の色に染まったと聞いている。それは間違いなく複数の魔法なのだろう。それにあのシュランゲ道の端からワンド街まで見えるほどなら大魔法に違いない。それを複数使えるってことは魔導士が複数いてもおかしくないと踏んでいる」


「とてもじゃないですが信じられない予想ですね…………しかし、現状を目の当たりすると信ぴょう性が増すという事です」


「ああ。さて、このままではこちらの戦力が疲弊しそうだな。一度飛竜をワンド街に引かせるぞ」


「はっ!」


 男は笛を取り出して強く吹く。


 飛竜部隊は王都への攻撃を止め、男の下に戻って来た。




 ◇




 俺達が王都に着いた時には、既に戦いが終わっていた。


 もしもの時の為、肆式の多くをアクアソル王都に残して行ったのが幸いした。


 アインハルトさん曰く、もし彼らがいなかったら、今頃王都は火の海になっていただろう。


 まさか…………帝国に飛竜を操る部隊がいるとは思いもしなかった。


 大量の飛竜がやってきては、王都に炎の攻撃を試みたそうだが、一時間ほど続き、ワンド街方面に消えて行ったそうだ。


「恐らくだが、帝国の飛竜隊といえばリントヴルム伯爵だろう…………」


「リントヴルム伯爵?」


 初めて聞く名だ。


「帝国でも最強騎士と双璧を成すと言われている伯爵で、本人の強さはもちろんだが、彼だけが扱う事が出来る飛竜部隊は最高戦力となっている。もし彼らに反逆した国がいるなら、たちまち全ての町が火の海に包まれてしまうだろう。そういう意味では最強騎士よりも厄介な相手になる」


「それは厄介な相手ですね」


「そうだな。さてこれからどうするのかね? こちらとしては、向こうに攻め入る手もあるが……」


「ソラくん。私もアインハルトさんに賛成よ。このまま相手の攻撃を待っていても向こうの思うつぼだわ。それならこちらが先手を取るのもいいと思う」


「分かりました。では防衛部隊と強襲部隊に分けましょう」


 ミリシャさんの迅速な対応で、弐式メンバーの殆どを防衛に回ってもらい、肆式メンバーと強襲をかけることにした。



 なんとなく、ワンド街の方を見つめると不安な気持ちになる。


「ソラ。大丈夫。もしもの時は私が何とかするから」


「フィリア…………ああ。でも無理はしないでね?」


「うん」


 そして、俺達はいつもの馬車で空を飛び、ワンド街近くを目指した。




 ワンド街は戦時中な事もあり、遠目でももぬけの殻に見える。


 元々この街の産業がアクアソル王国頼りなだけなのもあって、この街の利点は既に何もないので、住民達も移住しているはず。


 現在は広場や道々に黄色い飛竜が沢山見える。


 あの飛竜達が例の飛竜達か……。


 最悪の場合、アンナにも戦って貰う事になるかも知れないな。


 ――――と思っていた時。


「危ない!」


 フィリアの声がして、上空から真っ赤に燃える火炎が俺達を襲ってきた。

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