第125話 第一次アクアソル王国戦争開始
「小国を攻めるのに、あれだけの大軍で来るなんて、面白いね」
「意思だけで反旗を
「そうね。向こうはもう戦う気満々で構えているものね~」
ミリシャさんの言う通り、こちらに攻めてくる帝国軍は完全武装はもちろんのこと、いつでも攻めれるように攻撃態勢をとっている。
これなら降伏勧告もこないわけだね……。
「アインハルトさん。向こうに
「ミリシャ殿。了解した」
すぐにアインハルトさんが弐式の召喚獣であるスレイプニルに乗り込み、帝国軍に向かう。
向かってきたアインハルトさんが帝国軍にまさかの降伏勧告をすると、弓矢が飛んできた。
言うまでもなく、交渉決裂だ。
まさか、ここまで来てこちらの降伏勧告を受けるはずもないよね。寧ろそうなったら驚きしかない。
弓矢を振り払ったアインハルトさんが可愛そうな人達を見る目で帰って来た。
「ミリシャ殿。見事に交渉は決裂しましたぞ」
「そうね! じゃあ、アクアソル王国
ミリシャさんの合図で、砦にいるアクアソル王国の兵士に太鼓の音が鳴らされる。
シュランゲ道にアクアソル王国の太鼓の音が鳴り響く。
それを聞いている帝国軍が鼻で笑ってるのが、ここからでも見える。
次の瞬間。
潜んでいたシュランゲ道の両山脈の上部にアクアソル王国の兵士服装の弐式と肆式のメンバー達が姿を現した。
帝国軍は少しだけざわつくが、あんな高い所から下に出来る事は限られている。
こちらが何かをするまでに、帝国軍は既に防御魔法を展開した。
対応の速さにミリシャさんも舌を巻く。
ここまで大軍を連れてきたのなら、少しくらい油断しても良いと思うんだけど、全くの油断も隙間もない。
「まあ、こちらは予定通り進めるだけなんだけどね」
ミリシャさんの次なる合図で、両山脈上部にいるメンバー達が大魔法を展開させる。
あの人数の大魔法なだけあって、もはや特大魔法にも匹敵するというか、それ以上かも知れない。
空中に展開された数々の大魔法に、帝国軍から悲鳴が聞こえる。
「こちらの降伏勧告を無視したのは帝国軍だからね? では、発射の合図を!」
ミリシャさんの指示で発射の合図が鳴り響く。
空から凄まじい数の大魔法が帝国軍を襲う。
彼らを守っていた防御魔法は一瞬で壊れ、多くの兵が魔法に飲み込まれる。
何も出来ない帝国軍達は、ひたすら後ろに逃げ回るが、元々狭い道もあり後ろに詰まっている自軍の兵達に阻まれ、次々と魔法に飲み込まれ姿を消し去った。
【そろそろ後方から魔法が飛ぶから、撃ち落として!】
ミリシャさんの念話指示から数秒後、帝国軍後方からこちらと同等の大魔法が、山脈上部にいるうちのメンバー達に向かって放たれる。
ただ、すでに読んでいたこちらは、その魔法を魔法で撃ち落とす。
魔法が使える人数はこちらが圧倒しているようで、撃ち落としても有り余る魔法が次々帝国軍に降り注ぐ。
シュランゲ道は未だかつてないくらい惨劇が広がっていて、敵ながら表情を崩すしかなかった。
「ソラくん。顔をそむけてはいけないよ。私達はこれからもアクアソル王国のために帝国と戦う身だからね」
「……はい」
覚悟は決めたはずだけど、目の前の一方的な蹂躙劇には、心が痛む。
だからといって、正面から殴り合いたいとは全く思わない。
こちらの被害がないのが一番だ。
ただ、逃げる人々を撃つのはどうしても良い気持ちはしない。
それに…………もし撃たなかったら、今度は彼らがこちらに剣を向ける事も知っている。
だから、逃げる敵にも魔法を放つ非情さも持つべきだ。
「そろそろ速馬が突っ込んでくるわ。近接部隊対策の太鼓準備!」
数十秒後、予想通り帝国軍の中から、馬に乗って突っ込んでくる部隊がいた。
数百という数から、『エンペラーナイト』が管理している部隊だと思われる。
「防衛開始!」
ミリシャさんの合図で太鼓の音が響き渡ると、砦で待機していた弐式と肆式メンバーの近距離職能がメインの部隊が姿を現す。
前回の戦争では、黒い服を身に纏い『シュルト』を演じてくれた肆式のメンバーも、今はアクアソル王国の白青の軍服を身に纏っていて、とても似合っている。
全員が一斉に砦の外に出ると、こちらに突っ込んできた騎兵を一方的に蹂躙し始める。
こちらの圧倒的な力に、相手騎兵は一人も砦に辿り着けなかった。
さらに後方には相も変わらず魔導士隊による大魔法が放たれて歩兵はほぼ半数を失って、残り半数も攻めては来れず、逃げる始末だった。
しかし、逃げる歩兵達がシュランゲ道から出る事は叶わない。
何故なら――――シュランゲ道のワンド街に向かう道を『銀朱の蒼穹』の最強の執事とメイドが阻んでいたからだ。
騎兵が数をほぼ失った時、奥の方から一際大きな威圧感を持った騎兵が一人出て来た。
他の馬とは違い、その大きさからも只者じゃない事が分かる。
そんな馬に跨っていたのは、キツネ目で短い黒髪をなびかせて、怒りの表情でこちらを睨んでいた。
「やっとお出かけだったわね。アインハルトさんには悪いけど、フィリアちゃんの力を試させて貰うね?」
「問題ありません。フィリア嬢の力なら相手の力を測る事など造作もありません。フィリア嬢。決して油断せずにな」
「はい! みんな! 行ってきます!」
忘れものがあったと言わんばかりに一度俺に振り向いた彼女は、小走りでやってきては、周りの目を気にもせず、唇を重ねる。
スレイプニルに乗り込んだフィリアは、『エンペラーナイト』に向かい走り去った。
「あらあら~戦場だというのに、妬けるわね~」
ミリシャさんの言葉に、緊張ばかりの戦場が一瞬笑い声に包まれた。
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