第126話 双剣聖の実力

 アクアソル王国の砦前で二人が対峙する。


 片方は帝国最強騎士の一人『エンペラーナイト』。


 もう片方は俺達『銀朱の蒼穹』のサブマスターのフィリアだ。


「初めまして、アクアソル王国軍の騎士団長のフィリアです」


「っ!? アクアソル王国に貴様のような女がいたとは……」


「女だと思って舐めてかかると大怪我するわよ?」


「ふん。我は帝国最強の一人、『エンペラーナイト』のグンゼム・ギラオースだ。まさかアクアソル王国がこれほど魔法使いを揃えているとは思わなかったが……ここで貴様らの首を落とせばいいだけの事だ」


「ふふっ、あなた如き・・にそれが出来ると?」


 『エンペラーナイト』のグンゼムを挑発するフィリア。


 見事に挑発にかかったグンゼムは、剣を抜いてフィリアを襲う。


「それが出来るか、出来ないかは、これで証明してやるよ! 貴様は我の玩具にしてやろう!」


 普通の長剣よりは細い刀身がフィリアを斬り付けるが、剣は空を斬る。


 グンゼムはすかさず次々剣戟を繰り出すが、一向に当たる気配がない。


 少しずつ後ろに下がりながら避けていたフィリアだったが、次の瞬間、フィリアの左足がグンゼムの腹を蹴り飛ばす。


「がはっ!?」


 思いのほか強かったようで、人形のように吹き飛んでコロコロ転がるグンゼム。


 止まった先で口から血を吐く。


「まさか一撃で終わりではないでしょうね?」


 さらに挑発するフィリア。


「ふ、ふざけるな!!」


 現実が受け止めきれず、目が真っ赤に染まったグンゼムが叫ぶ。


 どうやら挑発に乗りやすい性格らしい。


「剣聖皆伝『剣聖降臨』!」


 周囲の空気が歪んで見えるほどにグンゼムの威圧感が膨れ上がる。


 剣聖レベル9で覚えるという皆伝スキル。


 片手剣を持っていると、身体能力が絶大上昇する技で、効果時間は30分ほど。


 再使用までは数時間休むデメリットがあるが、それをものともしないほどに絶大な効果である。


「これで貴様を一瞬で片付けてやる!!」


 剣聖の皆伝スキルも相まって、凄まじい速度でフィリアに斬り掛かる。


 しかし、フィリアは全ての攻撃を打ち返す。


 一歩ずつ下がってはいるが、勢いよく斬りつけるグンゼムの攻撃は一切かすりもしない。


 自分に酔いしれているグンゼムは、大きな笑い声をあげながら、ずっと斬り続ける。


「ひゃーははははっ! いつまで耐えられるかな! 貴様は我の奴隷にしてぐちゃぐちゃに――――」


「『エンペラーナイト』って、つまらないわね」


「――――は?」


 楽しそうに斬り続けていたグンゼムの左手が宙を舞う。


「利き腕はまだ残してあげたわよ。さあ、全力で来ないと利き腕も落とされるよ?」


 自分の左腕を見つめたグンゼムが信じられないように、見つめると声にならない声で叫んだ。


 そんな姿を冷ややかな視線で見下ろすフィリア。


「私の身体はソラのモノよ。貴方なんかの玩具にはならないわ」


「き、貴様! ゆ、許さんぞぉおおお!」


 残っている右手で剣を斬りつけてくる。


 フィリアは片手で持っていた剣の柄で強く打ち付けると、グンゼムが大きく後ろに吹き飛ぶ。


「まさか、手で足りるなんて思わなかったけど、せっかくだから両方使ってみようかな」


 土煙から呆気にとられたグンゼムをよそに、フィリアは右手にもう一振りの剣を召喚する。


 成長するフィリアの双剣は、既に次の段階に進んでおり、フィリアの身体と一体化していて、いつでも召喚出来るようになっている。


 両手に双剣を持ったフィリアからは、今まで感じた誰よりも強い威圧感を放った。


 後ろに控えている俺達にすら届く圧倒的な威圧感。


「な、なんだそれは! 双剣だ!? ふ、ふざけるな! その威圧感は…………貴様は……貴様は! あのローエングリンと同じ頂にいるということか!?」


「ローエングリンが誰かは知らないけど、これが現在のアクアソル王国の力なのは間違いないね。まあ、選択が違えばアクアソル王国に向く・・力だった知れないけれどね」


 フィリアがその場から消える。


 瞬きすら許さない速さで、グンゼムを通り過ぎた。


 そして、時間差を置いてグンゼムの命がその場で消えた。






「フィリアちゃんがあんなに強くなるなんて…………」


「そうですね。アインハルトさんのおかげです」


「いやいや、あれは全て彼女の努力だ。俺はただ剣術を見せただけに過ぎない。本当に恐ろしい才能だ」


 アインハルトさんがどこか嬉しそうにそう話す。


 職人は才能ある若者に自分が培ったものを伝授した時、嬉しくなるとガイアさんが言っていた。


 きっと、アインハルトさんもそれに近い感情なのかも知れない。


「ミリシャさん。次はワンド街に攻めるんでしたよね?」


 事前に考えていた作戦。


 元々『エンペラーナイト』が出陣していない事を想定していたけど、こうして出陣してきた上に、彼はもういないので脅威ではなくなった。


「そうね。まだワンド街の領主が姿を現していないから、このままにはしておけないわね。ワンド街に一度攻めて、あの作戦を実行するわよ」


「分かりました! 予定通り進めましょう!」


 俺達はそのままシュランゲ道を進み、ワンド街に急行した。

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