第53話 地下の真実

 俺達は地下にある全ての部屋を一つ一つ開けていった。


 案の定、中には傷だらけの人ばかりで、扉を開ける度に心の底から怒りが込み上がってきた。


 それは俺だけでなく、メンバーも同じ思いで、みんな拳を握りしめていた。


 そして、とある部屋を開いた。



「ひぃ!?」


 中にはやせ細っている女の子が、倒れている男の子を抱きしめて泣いていた。


 俺を見つめた女の子は全身から震え出していた。


「あ、あの……も、申し訳、ご、ございません……る、る、ルイが…………まだ傷が癒えなくて、その……罰なら私が受けますから、ど、どうか、許してください……」


 大きな涙を流して嘆願する彼女の姿に俺は言葉が出なかった。


 ゲシリアン子爵…………許せない…………。


 女の子が抱き締めている男の子は、女の子よりも傷が深く、息も浅いように見えた。


「っ!」


 冷静に分析する場合ではなかった。


 俺は急いで、自分の職能を『回復士』に変える。


 急いで彼の前に行ったのだが……。


「ご、ごめんなさい! ほ、本当にもう厳しいんです! わ、私が全部受けますから! お、お願いします!」


 まだ誤解しているようで、俺の前を塞いだ。


 全身を震わせて涙を流しながら、訴える彼女に俺も涙を止める事が出来なかった。


 俺は、彼女の頭を優しく撫でた。


「大丈夫。俺は君達の味方だよ。決して君達を傷つけたりはしない。その子は急いで治療しないと危ないから、俺に任せてくれないかな?」


 俺が撫でようと手を伸ばした時、反射的に身を構えた彼女は、数秒頭を撫でられるまでずっと目を瞑って身構えていた。


 俺の声を聞いた彼女は恐る恐る目を開けた。


「ねぇ? 本当に急がないと、その子を助けられないかも知れないから、だからお願い。俺にその子を治させてくれないかな?」


「ほん……とうに? ルリを傷つけない?」


「ああ。約束するよ。絶対に助けてみせる」


 彼女は更に大きな涙を流した。


「お、お願いします! な、何でもしますからルリを……ルリを助けてください!」


「ああ! 任せてくれ!」


 俺は急いで、男の子の身体に手をかざした。


「ヒーリング!!」


 本来なら詠唱を唱えないで省略した場合、威力が半減する魔法だが、俺の転職士の力で二倍の効果を持つ為、詠唱を無視しても本来の威力で魔法が使える。


 俺の手から溢れ出る淡い緑色の光が男の子を包んだ。


 男の子の傷がみるみる治っていく。


「る、ルリ!! お願い! 私を置いて行かないで!」


 女の子の悲痛な声が俺の心にもぐさりと刺さる。


 溢れる涙を何とか堪えながら回復を続ける。


 男の子の傷が全て癒えた頃、小さく寝息を立てながら眠っている男の子を見て、安堵の吐息を吐いた。


「うん。これなら大丈夫だと思う。あとは安息が必要だから、ゆっくり休ませよう……とその前に」


 今度は女の子に回復魔法を使う。


「えっ? わ、私も?」


「ああ。俺は君達の味方だ。だから心配しなくていい。それと、これからはここにいなくても良くなったから」


「えっ? …………私達もう痛くならない?」


「ああ」


「毎日鞭で打たれない?」


「あ、ああ……」


「ご飯とか水も……飲める?」


 俺は何も言えず、ただ涙を流し彼女を抱きしめた。


 彼女も次第に泣き声をあげ、俺の胸の中で大泣きした。


 俺も我慢する事が出来ず、一緒に声を出して泣いてしまった。


 暫く一緒に泣いていると、次第に声が小さくなり、女の子は俺の胸の中で眠りについた。


 彼女の傷も全て癒えたので、一旦部屋で眠らせて、他の負傷者の回復に回った。




「ソラ……」


「…………フィリア。ごめん。俺…………子爵を許せそうにない」


「…………うん。私も」


 俺とフィリアは静かに眠っている男の子と女の子を見つめた。


 眠っている時も、自然と身体を丸めて眠る二人に、悲しみと越え、怒りに支配されそうになる。


「ソラくん!! こっちに来て!!」


 廊下の奥からアムダ姉さんの声が聞こえた。


 急いで向かうと、最後の部屋の中に、短い黒い髪の綺麗な女性がうずくまっていた。


「……ソニアさんですか?」


「……」


 女性は名前を言われると少し反応を見せる。


 既に目から光を無くした彼女は、少し顔をあげる。


「ソニアさん。ここで何があったかまでは聞きません。ですが、これだけは分かってください。貴方が逃がしたトーマスさんのおかげで、この場所を見つける事が出来て、多くの人々を助ける事が出来ました。それも全てソニアさんのおかげです。だから……どうか自分を誇ってください。貴方が頑張った事を俺達全員が知っていますから」


 俺の言葉を聞いていた彼女の目には、段々涙が溢れた。


 アムダ姉さんが彼女を抱きしめると、ますます泣き出した。


 暫く泣いた彼女を連れ、俺とフィリアで女の子と男の子を出して地下を後にした。


 そして、ゲシリアン子爵が待っている屋敷前に向かった。




 ◇




「ゲシリアン子爵…………私は貴方の事を信用していたのですが……とてもそうは見えませんね」


 ゲシリアン子爵邸の前で待っていたゲシリアン子爵に、金髪の男性が残念そうに話した。


「い、いえ! こ、こ、これはなにか誤解が……」


「……あの目を見て、誤魔化せるとでも?」


 二人が見つめる先には、怒りに支配されたソラ達が見えていた。

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