第52話 証拠探し

「ゲシリアン子爵の許可の元、これから屋敷の捜索をしますので、執事及びメイドさん達は全員・・食堂に集まってください」


 ゲシリアン子爵邸に入ったエイロンが筆頭執事のシランに告げる。


 シランは無表情のまま、メイドと執事を一か所に集めた。


 当のゲシリアン子爵は、屋敷に入れず、屋敷前で待機しているが、自信満々だった表情から一転して、不安な表情をしていた。


 それもそのはずで、寧ろ自信満々に答えたソラの事で不安を覚えたのだった。




 ◇




「恐らくは普通の場所に証拠はないはず。俺の予想だと、地下な気がする。ラビ。地下にが通っている場所を探ってくれ!」


「ぷぅー!」


 敬礼ポーズをしたラビは、その後、鳴き声をあげて風魔法を使う。


 風魔法が屋敷の色んな場所に放たれた。


 暫く待っていると、


「ぷぷぷ!」


 ラビに連れられ、俺達は子爵の書斎に入った。


 書斎の本棚に向かってラビが指を指す。


「ラビ。この裏ね?」


「ぷぷ!」


「よし、この本棚を探ろう」


 本棚を触っていると、一つだけ取れない本があった。本というよりは、棚本体のような感触。


「この本。動かしてみるよ」


 本を押し込むと、本棚がグググっと中に動き、扉のように開いた。


 中には地下に続く階段があり、秘密階段のようだ。


「ソラ。下から静かな殺気を感じるわ。気を付けてね」


「分かった。ラビ。バリアをお願いね」


「ぷー!」


 ラビの防御魔法で俺達の周囲に魔法が掛けられる。


 そのまま階段の下に降りていく。


 降りた先に部屋があり、降り立った瞬間、短剣が数十本投げられた。


「ぷー!」


 短剣にラビが反応して、風魔法で投げられた短剣が飛ばされる。


 俺達はその先で待っていた男を睨んだ。


「お久しぶりです。シランさん」


 向こうに無表情のまま、美しく立ち竦んでいるシランさんが待っていた。


「…………まさか、貴方様がだったとは……」


「先に仕掛けたのは、そちらでしょう?」


「…………そうですね。ここは一つ、最後まで抗わせて頂きます」


「残念です」


 シランさんの動いた瞬間、フィリアも動く。


 お互いに目にも止まらぬ速さで剣戟がぶつかり合う。


 シランさんは恐らく盗賊系の職能だろう。


 次第にフィリアに押され、傷が増えていった。


 そして、最後に腹を大きく斬られ、その場に倒れ込んだ。


「…………これほど強いとは……さすがにクランに認められる実力です……」


「……シランさん」


「…………はい」


「…………お待たせしました」


「………………感謝申し上げます……」


 感謝を口にしてシランさんは気を失った。


 急いでシランさんを縛り、傷を回復させて、中に入って行った。




 実はシランさんはゲシリアン子爵を止めて欲しかったんだと思う。


 その証拠に、山賊についてとても・・・詳しく教えてくれた。


 あまりの詳しさに違和感を覚えたが、ずっと無表情だったシランさんの瞳は、悲しみに溢れる瞳に変わっていた。


 俺達がトーマスさんに出会ってなかったとしても、既に作戦は決まっていた。シランさんのおかげで。


 だから俺はずっと疑問だった。


 ここに来るまで。



 俺達に投げられた短剣は、全く勢いがなかった。


 更に、剣聖であるフィリアと正面切って戦えば、確実に負ける事も知っていたはずだ。


 それなら、もっとやりようもあったはずだ。


 例えば、証拠隠滅の為に、ここを崩壊させるとか。


 恐らくゲシリアン子爵からそういう命令を受けているはずだ。


 だから、彼は命令に従い、俺達を正面切って戦った。


 負けるのを知っていての行動に間違いないだろう。


 だからここでゲシリアン子爵を止めたいと思う。いや、止めないといけない。


 これ以上被害を広げない為に。




 こうして、俺達はシランさんを通り抜けて、地下の扉を開いた。


 長い廊下と沢山の扉が見えるが、その扉の中の部屋が貧相な部屋なのは、外からでも分かるほどだ。


 更に、この廊下に充満している匂い・・


 それは…………






 血の匂いだった。




 ◇




「くっ! 何故エイロン達は出てこない! そろそろ捜索も終わりだろう!」


 ゲシリアン子爵のイライラした言動が既に複数回にも渡っていて、焦っている様子が多くの人に映っていた。


 屋敷に入ろうとする子爵を、冒険者ギルドの者が入口で防ぐ。


 その繰り返す姿が異常に映る者も沢山いた。


 その時。


 一人の男がゲシリアン子爵の前に現れた。


 美しい金髪とすらっとした体型は、誰が一目見ても美しいと思えるような男だった。


 その男を見たゲシリアン子爵は、


「あ、貴方様は!?」


「…………ゲシリアン子爵。ここまでの一部始終を見させて頂きました」


「!? も、申し訳ございません! こ、これは――」


「結構。全ての結果・・は彼らが出てくれば分かる事でしょう。ゲシリアン子爵。決して違法・・はありませんね?」


 鋭い視線がゲシリアン子爵に向く。


 その冷たい視線にゲシリアン子爵が身を構える。


 今までの不安そうな表情以上に、不安な表情を見せる。


 ゲシリアン子爵は、男の質問に答えられず、顔に冷や汗が流れ出す。


 その時。


 屋敷の扉が開いた。

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