第41話 ムンプス町

 俺達はセグリス町から馬車に乗り込み、西に向かってセグリス町を発った。


 目標はゼロリオン王都。まずは世界の広さを見たいからだ。


 そして、馬車の中。



「ミリシャさん。職能ないんですよね?」


「え? え、ええ、そうね」


「もし良かったら、欲しい職能がありましたら付けますよ?」


「へ?」


 ポカーンとしてるミリシャさん。


「ミリシャさん。ソラは『転職士』。職能を与える事が出来るんですよ」


「あー! そ、そう言えばそうだったわね! クランマスター史上初の『転職士』だったものね……すっかり忘れていたよ」


「ミリ姉! うちのソラは凄いんだからね?」


 フィリアが自慢げに言う。


 それもこれもみんなのおかげなんだけどね。


「戦闘に慣れていないのなら支援職でもいいかも知れません。おすすめとしては『召喚士』『付与術師』『回復士』あたりですかね~『魔法使い』になってカールと一緒に魔法を使ってもいいかも」


「お、ソラ、中々良いアイデアだな! 魔法使いがいいかも知れないな」


「カール、魔法使いはカールだけでいいでしょう! 私のおすすめは回復士かな?」


 カールとフィリアの言い合いが始まった。


 二人のそういう姿も久しぶりに見るので微笑ましい。


「ソラくん……?」


「はい?」


「今の職能って……全部中級職能なんじゃ……?」


「あ、そうですよ。俺は中級職能まで転職出来ますから」


 それを聞いたミリシャさんが更に驚く。


 そんなに驚く事なのだろうか?


「中級職能を与える事が出来るなんて……それを知られたら色んな所から攫われるわよ……?」


「え? そんなにですか?」


「それもそうよ。中級職能持ちだけでも貴重なのに、選べられるなんて……しかもしれっと『回復士』や『魔法使い』も入っているし…………ソラくんのパーティーが強いのも少し納得したわ」


「ミリ姉! ソラの強さはこんなもんじゃないからね!」


「えっ!? まだあるの!?」


「うん! それはまたの楽しみに!」


 いたずらっぽく笑うフィリアがまた可愛い。



 その後、カールはフィリアから「ミリ姉から回復されたら嬉しくないの?」と言われ、一瞬で「回復士でお願いします!」と答えていた。




 ◇




 馬車はセグリス町の西側にある『ムンプス町』で止まった。


 本日はここまでらしいので、俺達は『ムンプス町』で三日ほど滞在する事にして馬車乗り場を後にした。


 その日はそのまま泊まり、次の日、折角だからミリシャさんのレベル上げも兼ねて、狩りに出掛けようという話になり、ムンプス町から南にあるムンプス森にやってきた。


 冒険者ギルドで聞いた話では、Dランクの魔物が三種出るようだ。


 最初に見かけたのは大きな栗鼠で、カールの魔法一撃で沈んだ。


 次に現れたのは小型狼で、狼というよりは可愛らしい犬だったけど、鋭そうな歯にすばしっこい動きで、Dランクの中では中々に強いらしい。更に群れで動く為、ビッグボア以上に怖い相手のようだ。


 イロラ姉さんが小型狼に向かって走り、舞うように小型狼を通り過ぎると、小型狼達が全員倒れた。


 最後の三種目は動きが遅いけど、硬い事で有名なゴーレムだった。


 目の色を変えたアムダ姉さんが「発勁!」と唱えながらゴーレムを数回殴ると、ゴーレムは成す術なくその場で崩れた。


 …………いつの間にメンバーがこんなに強くなって驚いた。


 その日は、ミリシャさんの回復魔法を試しつつ、ムンプス森で旅費稼ぎがてら魔物を大量に狩った。


 大量の魔物を積んだ台車を引いていると、ムンプス町の町民達が驚いた目で見てくる。


 俺達はそのまま冒険者ギルドに全部買取をお願いして、酒場で食事にした。




「ソラくん達の強さを疑ったわけじゃないんだけど……本当に強いんだね」


「僕も驚きました。メンバー全員、とても強くなりましたね」


「ふふっ、それも全部ソラのおかげね!」


「そんな事ないよ! 俺だってフィリアがいなかったら、ここまで来れなかったからね」


「えへへ」


「え~ん、ソラくんが私達の事が全然・・役に立ってないって言った~」


「えええええ!? アムダ姉さん!? 言ってませんよ! アムダ姉さん達のおかげですからね!」


「「「あははは~」」」


 と、俺達が楽しく食事をしていると。




「ここはおままごとの場所じゃねぇぞ! ガキはさっさと帰って母ちゃんのおっ――――」


 向こうから俺達に向かって大声を吐き出す酔っ払いがいたんだが、喋っている途中に、フィリアが胸の紋章を見せつける。


「へぇ…………私達『銀朱の蒼穹』がおままごと……ね?」


「あ、あ、は?」


 フィリアの目だけで魔物を倒せそうな冷たい視線がおっさんを襲う。


「ひ、ひぃ~!」


 転げ落ちたおっさんは酒場から逃げ出すように去って行った。



 騒がしかった酒場が静寂になった。


 周りが俺達の紋章を見ると、少しバカにしていた声もすっかり無くなった。


 『クラン』というモノの影響力がここまで大きいんだと、改めて知る事ができた。

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