第11話

『ヨクモソンナコトヲォォォ!!』



体内に取り込んだグリーンガード構成員を盾に、手を出せないニクスバーンに一方的に火炎やビームを浴びせ続けるジャイアントゾンビ。

その卑劣な戦法は、地上で見守っているスカーレット達からもよく見えた。



『人質かよ!卑怯な奴だ………ッ!』



馬であるシックザールからも、それは卑劣な戦法に見えたらしく、不快さを隠そうともしない。



『どうにかならないのか?!』

「ネクロマンサーヘッドさえ破壊できれば、ジャイアントゾンビは崩壊する、でも………!」



スカーレットの言う通り、あのジャイアントゾンビはネクロマンサーヘッドにより、ゾンビとグリーンガードの構成員が縛り付けられている状態だ。

ネクロマンサーヘッドさえ破壊できれば、結合は崩れ、取り込まれたグレンダや構成員も元に戻る。


だが、その為にはネクロマンサーヘッド「だけ」を正確に破壊する必要がある。

ジャイアントゾンビの内部に取り込まれている以上、外側から破壊しなくてはならないが、どこに攻撃を浴びせようと構成員の盾を出してくる事は見るに明らかだ。



『お前の剣でどうにかならないのか?』

「無理よ、いくらヴァイパースティングでも、人質を避けて中枢を攻撃するような制度は………」

「………万事休すか………!」



打つ手のない状態に、スカーレットも、シックザールも、ナガレも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


眼前には、ジャイアントゾンビの攻撃に押されるニクスバーンの姿。

いくら、ドラゴンをも倒したスーパーロボット・ニクスバーンだとしても、このままでは危ないだろう。


皆が諦めかけた、その時。



「………ブーケ?」



ブーケトスだ。

骨の蹄をカタカタと鳴らし、青い炎の鬣を揺らし、追い詰められるニクスバーンを見つめる。



『………ぼくが、いく!』

「ブーケ?!」



気がつけば、ブーケトスは走り出していた。

追い詰められるニクスバーンに向かい、一直線に駆け抜ける。


あんな巨大なジャイアントゾンビ相手に一頭で何ができる。

普通ならそんな考えが浮かぶ所だが、それ以上にスカーレット達の目を捉えて放さない物があった。



『なんて走りだ………!』



それは、同じ競走馬であるシックザールにはよく解った。


つい先程、アスファルトの地面を駆け抜けたシックザールだが、それでも細心の注意を払っての行動であり、全力ではない。


だが、ブーケトスはどうか。

アスファルトの上を、それもニクスバーンとジャイアントゾンビの戦闘によりぐちゃぐちゃに乱れた上を、ターフの上と変わらない速度で駆け抜けてゆくのだ。


反射神経、パワーバランス、スタミナ。

そのどれを取っても、並外れた物を持っていると言える。


もし、ターフの上を駆けていたなら、どれだけの速さを叩き出しただろう。

少なくともシックザールには、あれに届く自信はない。



『いま………いま、いくよ!』



そして、ブーケトスは光になった。

光輝く流星となり、空に飛び立つ。

そして空駆けるペガサスがごとく、光のオーラとなって、ニクスバーンへと飛び込んだ!



『ヌ、ヌオオオ!?』



瞬間、ニクスバーンから放たれる光。

邪なるものを払うような神聖な光。

負の感情とは対になる善意の光を前に、怯えるように手を翳すジャイアントゾンビ。



「こ、これは………ッ!?」



アズマも、変化を感じた。

サイコ・コントローラーでニクスバーンと繋がっているからよく解った。

ニクスバーンに、新しいプログラムが………本来は保有していない「武器」が、インストールされている。



『つかって、ぼくの、ちからを』

「君はッ!?」



アズマがシステム越しに聞いた声は、まさしくブーケトスのそれだ。

精神エネルギーとなったブーケトスが、ニクスバーンに力を与えてくれるのだ。



『あの、よこしまなものを、たおすちから』

「………誰も殺す事なくかい?」

『うん』

「………よし!」



なら、やる事は一つ。

ジャイアントゾンビに押されていたニクスバーンが、スックと立ち上がる。

そして、左手を相手に向けた。



「閃光よ、天馬となりて、今こそ汝の敵を貫かん………!」



アズマの詠唱と共に、ニクスバーンの左手に弓が出現する。

銀色に輝くその弓には、まるで中世の貴族が好むような、馬の装飾が施されていた。


ニクスバーンが右手を添え、弓を引くような動作をする。

すると、大気中の魔力が集中し、たちまち光の矢が形作られてゆく。



『ヨ………ヨクモソンナコトヲォォォ!!』



ニクスバーンが何をしようとしているか悟ったのか、ジャイアントゾンビは駆け出す。

ズシンッ!ズシンッ!と大地を揺らし、ニクスバーンが打とうとしている一手を止めようと走る。


だが、全てはもう遅い。



「スレイプニール………アロォォォーーーッッ!!」



優駿の弓矢、名を「スレイプニールアロー」。


ピシュゥンッ!!


という、星が光るような甲高い音と共に、光の矢が放たれる。

それは宙を裂き、空を裂き、ジャイアントゾンビの肉と人質として出したグリーンガード構成員をもすり抜ける。


そして、貫いた。

何重にも重なった肉の防壁を裂き、何重にも重なった人質を避けて、ネクロマンサーヘッドに到達する。



キャアアアアアアアア!!!!



悲鳴のような甲高い音と共に、ネクロマンサーヘッドが砕け散る。

中枢を失ったジャイアントゾンビは、全身が青いクリスタル状に変化したかと思うと、パリン!と割れるように砕け散った。


光の粒子が飛び散り、それはある物は焼き肉に、ある物はラーメンのチャーシューへと変わる。

ゾンビの母体となった、元の動物の肉の姿へと戻っているのだ。



「あ、あれを!」



戦いを見守っていたスカーレットが指差す。

ニクスバーンが握っていたスレイプニールアローが消滅すると同時に、一筋の光が天へと登ってゆく。


ナガレには解った。

あれは、ブーケトスだ。



「………ありがとう、ブーケ」



ナガレは、ただ一言礼をする。

ブーケトスのお陰で勝てたというのもあるが、彼から貰った「許し」のお陰で、ようやくナガレは、胸を張って前に進む事が出来る。


棺には、元に戻ったブーケトスの遺骨が、静かに佇んでいた。






………………






その頃、稲荷市のある時計台。

10mはあるそこに、まるでクリスマスツリーの飾り付けのように引っ掛かっている一団が。



「ふざけるなぁ!私達の方が正しいのに!何でこうなるんだ!!」



ギャアギャアと喚いているグレンダ・タンバリンと、グリーンガードの構成員達だ。

それまでならグレンダのご機嫌取りに必死になっただろうが、ジャイアントゾンビの一部にされた彼等には、もうグレンダに従う理由はない。



「黙れクソガキが!」

「ギャアギャア喚くな!耳障りなんだよこのブス!」

「パンケーキみたいな顔しやがって!」



口々に、グレンダに罵声を飛ばすグリーンガードの構成員。

それを前にしたグレンダは、そのパンのような顔を茹で蛸のように真っ赤にして、余計に喚き散らす。



「貴様らぁ!この私に、この私に向かって………よくもそんな事をぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



このグレンダバカでブスなガキが泣き叫んだ所で、もう誰も味方はしてくれない。

それだけ、こいつはやり過ぎたのだ。



………言う間でもないが、この後グレンダとグリーンガードの構成員達は、警察に逮捕される事となった。

いくら外国人の環境保護団体だとしても、こうなってはテロリストと大差ない。



こうして、グリーンガードの引き起こしたゾンビテロは、二人の勇気ある冒険者テイカーと、人間と馬の絆によって幕を閉じた。

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