エピローグ

翌日。


あんな事があった後で、覇王賞の開催は中止かと思われた。

だが、ファン達の想いと、事件を解決に導いたブーケトスの想いに答える為、覇王賞は予定通り開催された。



海上自衛隊によるファンファーレが鳴り響き、覇王賞の開始が宣言される。

ターフの上には、レースに出場する競走馬達がぞろぞろと姿を現した。



『夏の稲荷で争われる覇王賞・夏!今年も名馬達がここに集結致しました!』



観客席に押し掛けたファン達は、優駿の誕生を今か今かと待ちわびている。

その中には、予定通りスカーレットとアズマの姿もあった。



「頼むわよぉ!頼むわよぉ!シックザール!!」



馬券を握りしめて、ギラギラとした目でターフを見つめるスカーレット。

馬券の買えないアズマも、その隣で屋台のラーメンを食べながらレースを見守る。


あの後、マジックアイテムであるネクロマンサーヘッドを破壊してしまったが為に何らかの罰を受ける事になるのでは?と怯えていた二人。

だがナガレから聞いた話によると、緊急事態だった為に特例として許されるとの事だった。


これで、二人は何の心配をする事もなく、覇王賞に挑める。



『一番人気を紹介しましょう!シックザール!』



このレースで注目を浴びているのは、やはり紅蓮の戦騎シックザール。


これで勝てば無敗の三冠という偉業を達成するというのもある。

が、前日の事件においてスカーレット達をナガレの元へ送り届けたという事から、事件解決に一役買ったという事で人気を集めていた。


スカーレットも、そのよしみでシックザールの馬券を多く購入した。

街を満たした魔力も無くなり、言葉を発する事はない。

が、その姿を見ていれば、その強い闘争心はよく解る。



『この評価は少し不満か?二番人気を紹介しましょう、ニチリンソーマ!』



だが、レースの穴馬はシックザールだけではない。

去年の勝烈賞においてシックザールに敗北し、無念の引退となったファイバーウイング。

その、弟(母馬が同じ)である青鹿毛の貴公子。

黒き太陽こと、二冠馬「ニチリンソーマ」。


兄から受け継いだシャドーロールをマズルに巻き、収まったゲート越しにシックザールを睨み付ける。


来たか、シックザールは視線で答えた。

来たぞ、ニチリンソーマは睨み付けた。


………そして、最後の一騎。

注目を集める馬は、あと一頭いる。

それは。



『さあ、並んだ強敵を前に逆転はあり得るのか?!三番人気はこちら、ミドリスクライオー!!』



世にも珍しい、金の鬣の尾華栗毛の毛色を持つ、小さな小さな馬がいた。

それが「ミドリスクライオー」だ。


地方競馬の出身でありながら、その体躯に似合わぬ轟脚は語り草であり、今回がG1初出場でありながらも人気は凄まじい。


逆境ハンディキャップを持ちながらも、小さな身体で必死に走る懸命な姿から「小さながんばり屋」として多くのファンを得ている。

そして。



「………やはり似ているな、ブーケに」



その、ミドリスクライオーの馬主。

来賓用の特別席でレースを見守るナガレが言った通り、その姿はブーケトスとどこか被る。


それもそのハズ。

ミドリスクライオーの血統を遡ってゆくと、ブーケトスの妹である「タマモコ」に行き着くのだ。


それもあるが、小さな身体でひた向きに走る姿も、あの時もがいていたブーケトスにそっくりだ。



『各馬ゲートイン完了、出走準備整いました………!』



ある者は、三冠への期待。

ある者は、志半ばで倒れた兄の敵討ち。

ある者は、支えてくれるファンに答える為。


各々の願いを乗せ、今日もサラブレッド達は駆け抜ける。



『………スタートしました!!』



そう。

瞳の先にある、ゴールだけを目指して………。












我等、はみだしテイカーズ

第三部 完

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