第10話

グレンダ・タンバリンは、そのハンバーガーのバンズのような顔を、ゆでダコのように真っ赤にして怒り狂っていた。



「よくも………よくも………よくも………!」



自分が正しいと心の底から信じている事。

そして、主張の為に動物性たんぱく質を一切取らない生活をしている故に、栄養不足によりストレス耐性が低い事。


故にグレンダは、自分の掲げる正義を否定された事が、非常に腹立たしかった。



「よくも………よくもそんな事を!!!」



怒りを噴火させたグレンダは、グリーンガード構成員を押し退けて、ネクロマンサーヘッドに近寄る。



「グレンダ様?!何を!?」



グレンダがネクロマンサーヘッドを掴むと、紫色の毒々しい光が広がった。

魔力を流し込まれているのだ。



「敵を滅ぼせ!!自然の為に地球の為に!!私に逆らう奴等を全て潰せぇぇぇ!!!」



だが、魔力だけでない。

グレンダの中に渦巻く負の感情。

自分の思い通りにならない目の前の現実への怒りも、ネクロマンサーヘッドに影響を与えていた。

そして。



ギシャアアッ!?

ギィィッ?!



街で暴れていたゾンビ達が、吸い寄せられるように集まってくる。

ネクロマンサーヘッドを掴んだグレンダも、まるで念力でも使ったかのように浮かび上がる。



「あ、あれは………ッ!?」

「ネクロマンサーヘッドが、暴走してる………ッ?!」



グレンダとネクロマンサーヘッドを中心に、まるで竜巻のように魔力が吹き荒れる。

そこに、街に広がったゾンビ達が集まってくる。



「うわああ!?」

「た、助けてェ!!」



グリーンガードの構成員達も、その魔力の渦の中へと吸い込まれてゆく。



「なんだアレは………!?」



グレンダとネクロマンサーヘッドを中心に、それは巨大な人型へと変化していった。

ゾンビを巨大化させて、肩から二本の刺を生やしたようなその肉の巨人は、まるで阿修羅像がごとく牛、豚、鶏の三つの頭を持っていた。



『ヨクモソンナコトヲォォォ!!』



ぐもったグレンダのような口調で吠える、50mもの巨大ゾンビ。

名付けるなら「ジャイアントゾンビ」とでも言った所か。

直球過ぎるが。



『ヨクモソンナコトヲォォォ!!』

「まずい!こっちに来る!」



グレンダの妄執の化身であるジャイアントゾンビは、その腐った肉のような腕を振るい、ハエ叩きのようにスカーレットやナガレを押し潰そうとした。



「させるかッ!」



瞬間、アズマが前に出た。

バーンブレスを構え、キンノスケから教えてもらった合言葉を叫ぶ。



「ゴー・ニクスバーン!!」



瞬間、爆発が起きたかのような魔力の炎が広がり、ジャイアントゾンビを弾き飛ばした。



『ゲフッ?!』



道路に倒れるジャイアントゾンビの眼前で、魔力の炎は形を成してゆく。

炎のような赤い色、武者のような装甲、鳳凰のような姿。


アズマ達はみだしテイカーズの、最後にして最強の切り札。

スーパーロボット・ニクスバーンが現れた!



「………どこのウルティマンだよ………」



外から見れば、炎に包まれたアズマがニクスバーンに変身したようにしか見えない事もあり、ナガレは思わず幼き日に見た変身ヒーローの名を呟いた。

奇しくも相手が巨大な異形の怪物=ジャイアントゾンビである事も、そのヒーローと共通している。


………ただ違う所を挙げるとすれば、それがテレビの絵空事ではなく、眼前で繰り広げられている確かな現実であるという事か。



「行くぞ!」

『ヨクモソンナコトヲォォォ!!』



稲荷市の都市を舞台に、二つの巨体がぶつかり合う。

両者がぶつかった途端に大地は揺れ、衝撃により付近のガラス窓はパリンと割れる。



「どうにか、人の少ない所に誘導しないと………!」



避難も完了していない街中で、ジャイアントゾンビと戦いを繰り広げるのは得策ではない。

まずはジャイアントゾンビを人のいない場所に持って行かなければ。


ニクスバーンは、両手でジャイアントゾンビを掴んだまま、宙へと飛び上がる。



「チェンジ!フェニックスモード!!」



まず、ニクスバーンの腰が180度回転する。

脚部が体育座りのように折り畳まれた。


次に、背中の折り畳まれた翼が開く。

翼はそのものがバーニアになっているらしく、翼の隙間からジェットが噴射される。


最後に背中の鳥の頭のようなパーツが起き上がり、頭に被さる。

頭部を軸に回転し、鳥の頭が前を向き、変形が完了した。


飛行形態・フェニックスモードへの変形が完了する。

ジャイアントゾンビを掴んだままなので、腕はそのままだが。



「行けぇっ!!」



空へと飛び上がる二体。

このまま、付近の山岳部まで飛んで行こうとした。

だが、その時。



『ヨクモソンナコトヲォォォ!!』

「うわっ!?」



ジャイアントゾンビの頭。

その、三つある顔の内、鶏の顔がニクスバーンの方を向く。

次の瞬間、鶏の口から火炎が吹き出される。


無論、ただの火炎ではない。

火属性魔法を体内に貯まったガスによって強化した、ドラゴンのそれと同威力の魔力の炎。

たまらず、ニクスバーンはジャイアントゾンビを離し、その場に落下してしまう。



ズドォォン!!



轟音と共に、ニクスバーンがビルに突き刺さった。

幸い、避難が完了していた為に、人的被害はない。


対するジャイアントゾンビは、上手い受け身で地面に降り立つ。

そして今度は、豚の顔を向ける。



『ヨクモソンナコトヲォォォ!!』



両肩の角から、バリバリと稲妻状のビームが放たれる。

泣きっ面に蜂といった感じに、それはニクスバーンをビルごと攻撃。

何度も火花と爆発が散った。



「この………調子に乗るなよ!?」



だが、ニクスバーンもやられてばかりではない。

瞬時にロボットモードに戻ると、次の手段に出る。



「ニクスカリバァーーッ!!」



ニクスバーンの碗部。

その、「袖」のようになった場所から、剣の柄のような物が飛び出す。

ニクスバーンがそれを掴むと、たちまち刀身が形成され、それはニクスバーンの剣となった。


近接戦闘用の武器「ニクスカリバー」だ。

対ロックゴン戦では使わなかったものの、ニクスバーンにも格闘用の武器はあったのだ。



「これでも食らえぇっ!!」



幸い、ニクスバーンのAIには、スカーレットから得た剣術のデータが反映されている。

それに相手は肉の塊のジャイアントゾンビ。

その中核を成しているマジックアイテム・ネクロマンサーヘッドを破壊すれば、たちまち崩壊する。


魔力の最も濃い部分目掛け、その刃を振り下ろそうとするニクスバーン。

だが。



『ひぃぃっ!』

「な………ッ!?」



その一撃が、放たれる事はなかった。

ニクスカリバーが振り下ろされようとした、その先。

ジャイアントゾンビが防御の為に構えた腕に、人間の姿が浮き出たのだ。


ゾンビ共々同化させられた、グリーンガードの構成員だ。



「そ、そうだ!あの中にはまだ人が………!」



アズマは気づいてしまった。

あの中にはグレンダだけではなく、グリーンガードの構成員達が、生きたまま取り込まれているのだ。

これでは、無闇に攻撃を仕掛ける事ができない。



『フンッ!』

「うぐううっ!!」



何もできないニクスバーンを、ジャイアントゾンビが蹴り飛ばす。

ニクスバーンの巨体が、ズシンッ!と地面に転がった。



『ヨクモソンナコトヲォォォ!!』



絶対的優位に立ち、手を出せないニクスバーンを嘲笑うように吠えるジャイアントゾンビ。

それが、単なる意味もない咆哮に過ぎなくとも、アズマは、そして戦闘を見守るスカーレット達は、こう言いたかった。


「それはこっちの台詞だ」と。

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