汝は預言者なりや?③
「あの御方に聞きました。1年後の8月、ボリビアでかつてない悲劇の紛争が起きることを。
都市サンタ・クルス・デ・ラ・シエラが炎に包まれ、何千もの家屋が焼かれます。たくさんのひとが焼け出され、命を失ってしまうでしょう。もしもこの未来が止められないなら、信じている皆さんはせめて逃げ出してください。振り返らずに逃げ出してください」――福音少女ニャナル、20X0年の預言より。
預言者としてめざめた羽海のその後の運命について語ろう。いまだかつて知りえない福音少女ルナ・ミルレフワーネスの永眠を預言した羽海は、いつもの通り学校へと向かった。クラスメイトから昨日の書き込みについて総スカンを食らうとも知らずに。
米
「星野さんがあんなタチの悪いこと書くなんて、何か嫌なことでもあったわけ? だいいち預言って何よ、福音少女でもないくせに!」
クラスの主要なグループからいきなりそう詰め寄られて
(あなたたちだって、いつも占いや未来予知のマネごとをしてへんなメッセージを送りつけてくるじゃない。忘れたとは言わせない。信じられないなら、最初から無視すればいい……)
なんて本音を言えるわけもなく、精一杯の作り笑顔で羽海は対応した。昨晩、階段から落ちて不思議な体験をしたこと。預言者になっていたことについて。非難していた女子たちはそれで少したじろぐが、よくよく考えれば信じるに足る証拠もない話である。半信半疑といった表情だった。
「……ルナが死ぬっていうの?」
まるで変人でも視るかのような視線で、他のクラスメイトたちは羽海と女子グループのやりとりを見守っている。そこへ羽海の親友である
「どうしてルナが死ぬなんて書いたの?」
そのレイカが、入ってくるなり怪訝な顔でそう問いかけた。そこで羽海はようやく思い至った、レイカがルナの大ファンであるということに。レイカは、ルナに影響されてカラオケで彼女の
「あの……」
ついつい口を噤んでしまう。今更ながら羽海はとても後悔していた。クラスに肩身の狭さを感じた。
「ねえ羽海、そういうのって趣味の悪いバカがやることだよ? 先生にもお説教されるかもね。だって、あまりにも度が過ぎてる。ヘイトスピーチは犯罪だよ」
レイカがあからさまに不機嫌であることは、長年の付き合いからすぐわかった。
「……ごめんなさい」
結局、羽海は謝罪するしかできなかった。実際、やりすぎの偽預言で逮捕される女性はいくらもいる。とりとめのない
「でも、わかるよ。私だって憧れたことあるもん、ルナみたいに、預言者になりたいってね。雰囲気や生き方だけじゃなく……本当に同じ才能が欲しいって思ったこともある。……普通のオンナノコには無理だけどね」
レイカは諦めたように諭した。そして
「いいわ、許してあげる。きっと寝不足だったのね」
といって優しい笑顔を羽海に対して向けた。
「いいの?」
「いいよ。あの投稿をすぐに消したらね」
しかし羽海は……【預言】を取り下げることはできないと静かに告げた。
「ごめんレイカ。……あれは消せない」
もしも預言者に
羽海のきわだった発言にクラスメイトたちはみな驚いたような表情を浮かべた。いちばん驚いたのはレイカだった。その後、むきになったレイカたちから浴びせられる'異端駁論'は、『昼も呪われよ、夜も呪われよ』と、破門者に浴びせられるなかば呪いのようだった。それも致し方なくて、全世界最大の
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