カレンif もしもあの子と付き合っていたら~甘くていつも通りな俺たちの日常~
びっっっっっくりするぐらいぐっすりと眠っていた。
朝方に目が覚めた気もするけど、横を見てすぐにまた目を閉じた、……ところまでは覚えてるんだけど。
「……」
とりあえず、今何時だ……?
別に予定があるわけじゃないから、いつまで寝てようが構わないんだけど、そこはまあ、なんて言うか生活リズムとかあるわけだし。
と言いつつもう15時近いんだけどね……。本当にVTuberになってから生活リズムがしっちゃかめっちゃかになってる……。母親に知られたら何て言われるか……。
「……起きるか」
さすがに、と呟いた声に応えるように、微かに声音が聞こえる。
……起こしたか?
そう思いつつ視線をやれば、そこには微かに寝息を立てるカレンちゃんの寝顔がある。
いつもは明るい笑顔に彩られているその表情も、今は穏やかに目を閉じている。
「……んぅ」
あ~……。やっぱりいいなぁ、これ。
目が覚めた時に隣にいてくれるって実感を持った瞬間が、もしかしたら一番幸せなのかもしれない。
このままもう一回寝るか~、とも思ったけど、直前に確認した時計を思い出し起きることにする。
何しろ昨夜記憶にある時間からたっぷり12時間は経過しているのだ。
「……」
だけどもうちょっと、なんて思ってしまう。
カレンちゃんの可愛い寝顔が横にあるので、あとほんの少しだけ見ていてもバチは当たらないだろう。
柔らかそうな頬に閉じた瞳。いつもとは違った雰囲気に、だからこそ逆に触れたくなってしまう。
少しだけなら、と布団から手を出そうとした瞬間、──それに触れてしまった。
柔らかく温かい感触。存在感のあるカレンちゃんのおっぱい。
途端に昨夜のことを思い出し、なんて言うかまあ、生理現象とは別の意味で昂ってしまったというか何と言うか……。
「……」
「……ん」
「……っ」
「……あっ」
「──ッ!?」
「……すぅ」
「……~~」
え、寝てるよね!?
寝てるんだよね!?
な、なんかこう、寝相にしてはすり寄って来てると言うか、……勘違いだよね?
「ん……っ」
……っあ~~~~~、そのキス顔はダメでしょう!?
ちょ、ちょっとぐらいなら……?
──いやいやいやッ!!!!!!!
ダメだ、良くない!! それはさすがに良くない!!
さすがに寝てるところを襲うような真似はよくない!!
「……」
「……す、ぅ」
「……っ」
名残惜しい。とっても名残惜しい。
だけどこれ以上カレンちゃんの顔を見てたら、本当に手を出す気がするので、──起きます。
そっとね、そっと。
カレンちゃんを起こさないようにそ~っと体を起こす。
で、まあ、とりあえずあくびをひとつ。眠気覚ましというか、煩悩を振り払うためというか。そんな感じで。
「んっ」
「──ッ!?」
いや、え? 寝てる、よね……?
本当に勘弁してくれ。そんな風に太ももを触られたらさ、ね? 煩悩を振り払うも何もないわけでして。……とりあえず水でも一杯飲むか。
そしたら顔でも洗おう。
「……ふぁあ。ん~」
あくびは出るし、まだまだ寝起きといった感覚は抜けない。
それでも朝方のぼんやりした目覚めとに比べれば、意識もはっきりとしている。そしてそれに伴って、身体の芯からぐるぐると鳴る音が聞こえてくるようだった。
……腹減ったぁ。
それはそうか。最後に食べたのは昨日の夕飯で、その後はまあ、多少お酒飲んだりして、色々と体を動かして、で、この時間まで飲まず食わずだもんなぁ。
あ! というかさ! 食パン切らしてるんじゃないのか?
朝はパンと牛乳がマストって、もう朝じゃないんだけど……。何だったら夕方に片足を突っ込んでるんだけど……。
でもなぁ、やっぱり寝起きは絶対にその組み合わせがいいよなぁ。
……まあ、無ければ買いに行けばいいか。こういう時、コンビニまで歩いて3分もかからない家の立地のありがたみを感じる。
「……起きちゃうんですかぁ?」
「……起きてたんですか」
「えへへぇ」
ぎゅーっと腰回りに抱き着いてくる感触。
いや、あのね? 今その辺に触るのやめてくれない……。せっかく収まってきたのに、また臨戦態勢になっちゃうから!!
「アズマさん、我慢してましたねぇ」
「何のことでしょう」
「ん~? ふふふ」
「……あの、放してください」
「え~、どうしよかっなぁ~」
「今、本当にマズいんで」
「マズいって何がですかぁ? ちゃんと言ってくれないとわからにですよぉ。どこか触ったらいけないところでもあるんですかぁ?」
「……わかっててやってますよね」
「わかんなぁい」
いや、わかってるよね!?
絶対にわかってるよね!?
「ねぇねぇ、教えてくださいよぉ」
──このメスガキがッ!!
その絶妙に触ってるようで触ってないような指先をやめるんだって、あ、ヤバい……。このままだと本当にヤバいかもしれない。ていうか、このままだと収まりがきかくなくなるから──ッ!!
「きゃ」
「起きます」
「え~、本当に起きちゃうんですかぁ~」
残念そうな声を上げるカレンちゃんの腕を外し、後ろ髪を引かれる思いがありつつも、ベッドから抜け出す。
「さすがに寝過ぎましたから。というか、起きてたなら言ってください」
「敬語ヤダー」
「いやいや、ヤダー、じゃなくてですね」
「もうちょっと寝ててもいいじゃないですかぁ。……あ、そうだ」
うわ、今絶対ろくでもないこと思いついたな!?
もういいや、さっさと洗面所に行こう。顔だ、顔を洗うんだ。そうすれば冷静になれる!
「アズマさぁん。こっち見てくださぁい」
「や、俺はこれから顔を洗いに行くので」
「ちぇ~。せっかくいいもの見せてあげようと思ったのにぃ」
「ろくでもないものではなくて?」
「ひどぉい。傷ついたから抱き着いちゃいます」
「──ッ!?」
「えへへぇ。背中おっきぃ~」
「あの、動けないんですが」
「……ダメですかぁ」
「そんながっかりした声を出されても」
「わたしはもっとアズマさんとイチャイチャしてたいんですよぉ」
「昨夜たくさんしたじゃないですか」
「寝たらリセットです」
「初耳です。そのルール」
「アズマさんはわたしとイチャイチャしたくないんですかぁ?」
「…………」
「アズマさぁん」
「……したいですよ」
「やったぁ! じゃあ、」
「ですが、今はそれ以上にお腹が空いてます」
「え~」
「カレンちゃんだって昨夜から何も食べてないじゃないですか」
「む~……。じゃあ、お腹いっぱいになったらイチャイチャしてくれます?」
「……その後は配信の準備じゃないですかね。カレンちゃんだって18時からコラボの予定あるって言ってましたよね?」
「少しぐらいいいじゃないですかぁ。今、何時だと思ってるんですかぁ?」
「15時」
「え」
「15時です」
「……え?」
「15時です。俺たち、たっぷり12時間は寝てました」
「……………………。──ッ!? そういうことは早く言ってくださいよぉ!!」
「俺より先に起きてたよね!? 気づいてなかったの!?」
「アズマさんの寝顔を見てましたから!!」
「他に見るべきものあるだろぉ!?」
「こんなことしてる場合じゃない!! 帰って配信の準備しないと!!」
「あ」
あっさりと俺から離れ、パタパタと洗面所に駆け込むカレンちゃん。
いや、うん。いいんだよ? わかるよ?
配信あるもんね。コラボ相手に迷惑かけちゃいけないよね。
でもさぁ、でも、その切り替えの早さは、ちょっと、……さみしいものがあるよね。
あれだけイチャイチャしたいとか言ってたのに……。
まあ、いいんだけどね!?
「わ、きゃぁあ!?」
「何何何!?」
「歯磨き粉がぁ──ッ!!」
「うわっちゃぁ……」
……何をどうしたらそうなる?
歯磨き粉ってそんなに盛大に飛び散るもの!?
「アズマさぁん」
「はいはい。片づけは俺がやるから、早く準備しちゃいな」
「ありがとうぉ」
ああもう、しょうがない!
こうなったら俺も切り替えよう。
まずは飛び散った歯磨き粉の片付け。そして顔洗って、コンビニに食パンを買いに行ったら飯だ。お腹が膨れたら、俺も今夜の配信の準備をしよう。
VTuberになって可愛い彼女が出来たのいいけど、2人して配信優先なのはまあ、これもVTuberだからなんだろうな。そういうものだ、しょうがない。
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