第177話 誰か! うちの同期に『会話』を教えてやってくれ!!

『はじめまして! 鳳仙花ムエナです!!』


『メミはメミです。お兄ちゃんたちの自慢の妹、兄ノ女未です。今日はよろしくお願いします』


『うん! よろしく!! すっごい礼儀正しいね!!』


『鳳仙花さんは元気いっぱいですね』


『ムエナでいいよ~。同じブイクリのライバーなんだし、そんな遠慮しないでよ~』


『いえ、それは無理です』


『え?』


『もうすでに緊張で吐きそうです。そろそろ配信終わりにしませんか?』


『まだ始まったばかりだよ!?』


『無理ですダメなんですごめんなさい。メミはダメダメな妹なんです。ああ、このままじゃお兄ちゃんたちにも叱られちゃいます』


「それだけは無いと思いますよ」


『パパ遅いです、何してたんですか』


「『最初はメミひとりで頑張ります』って言ってたから黙って見守ってただけですが!? というか、パパじゃありません!!」


『娘がこんなになるまで放っておくなんて、パパはひどいパパです』


「開始30秒で吐きそうになるなんて誰が想像出来たと思うんですか? むしろもうちょっと頑張って欲しかったんですが……。あと、いつまでパパって呼び続けるつもりですか?」


『いつまでも何も、パパはメミのパパですし、いつまでもパパと呼び続けますよ』


「では俺はそのたびに否定し続けましょう」


『ですがいつか気づいてくれると信じてます。パパがメミのパパなんだって』


「そんな日は一生来ないので、諦めてください」


『いいえ、そういうわけにはいきません。これはパパが諦めてメミのパパだと認めるのが早いか、メミがパパと認めさせるのが早いかの勝負なのですから』


「どっちにしろ俺の負けじゃないですか! そんな勝負は成立しません!!」


『ち、バレましたか』


 っとに、油断も隙もあったもんじゃないな。


『わ~、2人って本当にそんな感じなんだね~。噂通りというか、配信を見てた通りだ!』


「え、ムエたん俺たちの配信見てたんですか?」


『そりゃ見るよ~。なんてったって2人ともカワイイ後輩なんだよ?』


『鳳仙花さん。鳳仙花さんからも言ってください。パパはメミのパパなんだって』


『どんなお願い……?』


「初対面の先輩に引かれてるじゃないですか……」


『大丈夫です。いつものことですから』


「メミさんは反省をしない悪い子ってことですか?」


『いえ、メミはいい子です。ですよね、お兄ちゃんたち?』


『圧圧! 圧あるよ!! そんなのでいいの!?』


『大丈夫です。お兄ちゃんたちはメミに怒られたりするのが好きなヘンタイさんたちなので。お兄ちゃんたち、今日は鳳仙花さんもいるんですから変なことを言ったら、めっですからね?』


『独特だなぁ~』


『ふっ、大先輩もメミのユニークさには舌を巻くしかないみたいですね。さすがはメミです』


『おもしろい子だなぁ~。ねぇねぇ、メミちゃん。メミちゃんはどうして妹なの?』


『へぁ──ッ!?』


「あ……」


『あ、あれ……?』


『…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』


 なっが~~~~い沈黙の主は、当然ながらメミさんです。


『あっと、その、聞いちゃマズかった……?』


「まあ、反応の通りと言いますか。とりあえず俺は今までそこだけはツッコまないようにしてきました」


『すぅー、なるほどね? わかった! 今の質問は無し!! ごめんね、答え難いことを聞いて』


『い、いえ、答え難いということはありませんが……。ただ、そうですね。メミがどうして妹なのか、ですか……。これはまさしくメミのアイデンティティに迫る深い問いですね。ごくり……っ』


「どんな反応ですか……」


『しっ! パパはちょっと静かにしていてください。メミは今まさしく、自分自身と向き合う瞬間に立ち会っているのです。深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのですよ!!』


「ああ、うん。はい。何一つわからないけど、わかりました。あと、パパじゃないです」


『いえ、パパです』


「……自分と向き合ってるんじゃなかったんですか」


『自らと向き合いつつ、パパとも向き合う。両方とも出来るのがメミなのです。なぜなら出来る子なので』


 なんだろう。会話してるようでいて全く会話している感覚が無いんだけど……。

 こういうところキャラが立ってると言うか、我が道を行ってると言うか。ある意味尊敬できるところだと思う。


『メミは、メミが妹な理由……。なんでしょうか……。メミは生まれたその瞬間から素晴らしいい妹だったので、そこに理由はあるのでしょうか……?』


『そこまで深い質問じゃなかったんだけどなぁ~……。アハハ……』


「はいはい。ムエたんも困ってますし、哲学の時間は終わりしましょう。それか今度お兄ちゃんたちに相談してみるのがいいんじゃないですか?」


『む。娘が真剣に悩んでるのにパパは鳳仙花さんを優先するんですか?』


「それはそうですよ。だってムエたんは俺の推しですから。それに、俺はパパじゃないですし」


『それでもですよ? ひとりの女の子が真剣に悩んでるんですから、助けてあげたいってならないんですか? ほらほら、メミが悩んでますよ。とっても可愛いメミがですよ?』


「可愛い女の子? 誰がですか? あ、ムエたんですか。それは納得です。確かに今ムエたんも変な絡まれ方をして悩んでますもんね」


『いやまあ、それはそうなんだけどね……? 別にそこまで言われるほど悩んでるわけじゃないって言うか、他の話題に行かない? 初対面だし、お互いの好きな食べ物の話とかさ』


『待ってください。今のパパの言葉は聞き捨てなりません。問題はすでにメミのアイデンティティではなく、家庭崩壊へと移行しています』


『え~……。嘘でしょ? 続けるの?』


「あ、大丈夫ですよ、ムエたん。メミさんは多少無視してもへこたれないので。えっと、好きな食べ物の話ですか? う~ん。俺はやっぱり肉ですかねぇ。疲れた時に食べる焼肉って最高ですよね」


『それにはメミも賛成ですが、その前にパパに聞きたいです。鳳仙花さんとはどういう関係なんですか?』


『ど!? えぇ──ッ!? ちょ、何言ってるの!? ど、どういう関係って──ッ!? なんで!?』


『むむ。その反応は怪しいですね。やはりメミが今思った通り、パパをたぶらかしてるんじゃないですか?』


『た、たぶ──ッ!? いやいやいや!! 何言ってるの!? アズマさん!? 違うよね!?』


「…………さすがはメミさん。そこに気づくとはさすがです」


『いやいやいや!? ちょっとちょっとちょっと!! なんで肯定してるの!? 否定してよ──ッ!!』


「俺も最初は否定しようと思ったんです。ですが冷静によく考えてみると、ムエたんって俺の推しなんですよ」


『あ、うん。……あ、ありがと』


「つまりたぶらかされてるんですよ」


『言い方!! ねえ!! 言い方ってあるよね!? それじゃあアタシが悪い女みたいじゃん!!』


「ムエたんの魅力は犯罪的ですから、あながち間違っていないかと」


『ああ~~~~!!!!! 褒められてるって言うか、こういう時ファンってめんどくさい~~~~!!!!!』


「推しへの愛を否定することは出来ません」


『わかった!! そこは否定しなくていい!! だけどちゃんと誤解が無いようにして!! ね!? この流れはお互いよくないから!!』


『ふっ。その慌てよう、弁明の仕方。やはり鳳仙花さんはパパに近づく悪い女だったと言うことですね』


『いや、人の話を聞いて!? それだと誤解しか生まないよね!?』


「そうですよ、メミさん。ムエたんから俺に近づいたんじゃなくて、俺がムエたんの魅力に惹かれたんですよ?」


『だからアズマさんも!! やっぱり2人って似た者同士なんじゃない!?』


「それは無いです」


『当然です』


『あ、やっぱり違うかも。じゃなくて!! 2人ともちょっとは話を聞いて!!』


『安心してください、鳳仙花さん。パパと違って賢いメミはしっかりと話を聞いてました。つまり、パパが鳳仙花さんと浮気してたってことですね』


『違う!!』


「違いますから!!」


『安心してください、パパ。パパがどれだけバッシングを受けようとも、メミはパパの味方です。メミはちゃんとわかってますから。ああ、こんなパパにもしっかり理解を示すなんて、メミはなんていい子なんでしょう』


「いやいや!! だからちゃんと話を聞いてください!! 違いますから!! ムエたんとは健全に推しと推されの関係ですから!!」


『う~ん。それはどうなんだろう? だってほら、事務所の先輩後輩にまでなっちゃったし……。普通の推しと推されの関係とは違うと言うか、もうちょっと色々あるというか……、ね?』


「ムエたん!?」


 なんでここで梯子を外すの!?

 そこはちゃんと否定しておかないと大変なことになるよ!? 主に俺が!!

 だってほら、ナーちゃんから鬼のようにチャットが来てる!! ヤバいって!!


『ふっ。さすがは賢いメミです。またひとつ真実を解き明かしてしまいました。素晴らしい妹であり名探偵。それがメミです』


「迷探偵の間違いですよね!? それは!!」


 誰か頼む。この同期にちゃんと人の話は聞くことの重要性を教育してくれ!!

 あー、ヤバい!! とうとうナーちゃんから着信来た!! 今、配信中!! 出れないから鬼電はやめて!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る