第176話 パパとしてのお願いは聞けないけど、同期としてのお願いなら
「いやぁ、今日は埼京さんと英さんとコラボ出来てよかったですよ」
『オレらもッスよ!! ずっとコラボ出来るの楽しみにしてたんスから!!』
『またしようぜ!!』
「ぜひしましょう!! 楽しみにしてますね!!」
『そッスね、そッスね!! またやるッスよ!!』
『じゃあ今日はこれぐらいで終わろう!! またな!!』
「はい!! 見てくれたリスナーさんたちもあざまるうぃーす!!」
『あざっしたー』
『感謝だ!!』
ふぃ~。相変わらず濃い2人だった~。
いやでも、配信もめっちゃ盛り上がったし楽しかったなぁ。
戸羽ニキやムエたんはもちろんだけど、埼京さんや英さんとも気軽にコラボしてる と、やっぱりブイクリに入ってよかったなぁって実感するよ。
ボチボチ他の先輩たちともコラボしたいけど、誘ったりしてもいいものなのか……?
後で堂島さんに聞いてみるか……。
「とりあえずシャワーでも浴びるかぁ」
配信終わりはシャワーでスッキリするに限るよなぁ。
っと、なんだ……? メミさんからチャット来てるけど……。
『パパはズルいです』
…………どういうこと?
「とりあえず、『パパじゃないです』っと。返信」
あ、すぐに入力中になった。
というか、チャット来たのも配信終わってすぐじゃん。
何か急ぎの用事でもあったか……?
『メミは怒っています』
『眠いんですか?』
『違います』
『違いましたか』
深夜2時を回ってるし、そうだと思ったんだけどな。
『どうしてメミが怒っているか当ててください』
『眠いからですか?』
『……当てる気ありませんね』
『眠いので』
『それでもパパですか。ちゃんとメミの相手をしてください』
『だからパパじゃないですってば』
『……じゃあ、同期として』
お?
なんだ? なんかいつもと雰囲気が違うぞ。
『わかりました。同期としてですね。メミさんが怒っている理由は、……準備していたサムネのデータが消えたからですか?』
『違います。違くはないですけど、今怒っている理由はそうじゃないです』
『違くはないってことは、消したんですか? データを』
『今はその話はしないでください。本当に怒りますよ』
あ、これは消したやつだな。
俺もたまにやるから気持ちはわかるな。頑張って作ったサムネのデータが消えると、本当に萎えるんだよな……。保存し忘れて消しちゃうとか、割とあるあるだし。
『じゃあ、なんでメミさんは怒っているんですか?』
『当ててくださいって言ってますよね』
なんか今日のメミさん、めんどくさいぞ……?
拗ねた時のナーちゃんよりはマシだけど。
『俺が先輩たちとコラボをしていたからですか?』
『……なんで当てるんですか』
なんでって、タイミング的にねぇ?
俺が埼京さんや英さんとコラボ配信を終えた直後にチャット来たし。
『埼京さんか英さんのどちらかが推しだったりするんですか?』
『違います』
『じゃあ、実は戸羽ニキが推しとか?』
『それも違います』
てっきり自分の推しと俺がコラボしてるからって理由かと思ったけど違うのか……。
じゃあ、そうだなぁ。
『俺ばっかり先輩とコラボしててズルいってことですか?』
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
おや?
チャットに入力中にはなってるけど、全然返信が来ない。
これはもしや……。
『当てちゃいました?』
『……そういうこと言わなくていいです』
『当たりだったんですね』
『そんなことは言ってません』
『当たりですね』
『決めつけないでください』
『当たりってことでいいですね?』
『どうしても当たりってことにしたいなら当たりでいいです。メミはよくできた子ですから、パパの言うことをちゃんと認めてあげることが出来るんです。聞き分けがいいって褒めてもいいんですよ?』
『褒めないですよ。だって図星じゃないですか。あと、パパじゃないです』
『そんなこと言ってると、いつかメミの出来の良さに感謝する日が来ますよ』
『そんなのとっくにしてますよ』
『え』
『デビュー前の配信で俺やブイクリが炎上しないようにリスナーさん──お兄ちゃんたちに話をしてくれてたじゃないですか。出来た子だなぁって思いましたよ』
『……そうですか』
『喜んでますか?』
『いいえ』
『画面の前でニヤついてるんじゃないですか?』
『全然そんなことないです』
『褒められて嬉しかったですか?』
『……まあ』
『素直でいいですね』
おや。また入力中で黙ってしまった。
まあいいや。
でも本当にメミさんはいい人だよなぁ。素直だし。
これがナーちゃんだったら変に意地張ってくるからなぁ。最近はそういうのも少なくなってきたけど、とは言え、ね? もうちょっと素直になってくれると嬉しいと言いますか、この間のママパパ問題もあったし、そろそろ照れ隠しで意地を張るのをやめてもいいんじゃないかとも思うわけですよ。というか、慣れてくれ。付き合っていると言う関係性に。
『今のチャット、スクショしてSNSに貼りますね』
『なんでですか!?』
突然なに!?
『あまりにもパパみに溢れていたので』
『やめてください』
『いえ、貼ります』
『絶対やめてください』
『もう遅いです』
『はい!?』
待て待て待て!! まさか──ッ!?
『本当に貼ってるじゃないですか!?』
『ふっ』
『しかも『パパが褒めてくれました』って!!』
『事実ですから』
『パパじゃないですよ!?』
『そう思ってるのはパパだけですよ。お兄ちゃんたちの反応を見てください』
ぐわっ、速攻でファンからのリプライが来てる!?
『これはパパ』『圧倒的パパみ』『もう認めなよ、パパだって』──いや、それは認めないよ!?
『よかったですね。お兄ちゃんたちからも着実にパパであることが認められていって』
『ひとつも良くないですが!?』
『ところで、世間一般では良きパパはカワイイ娘のために頑張ってくれるみたいですが、メミのパパはどうなんでしょうね?』
『世間一般では一方的に娘を自称して近づいてくる女性には近寄らないと思いますよ』
『メミたちはVTuberなので、世間一般では測れない尺度で生きていることを忘れてないですか?』
『先に世間一般って言い出したのはメミさんですよね!?』
『取れ高ですよ、取れ高』
『誰も見てませんが!?』
しかもチャットだぞ!? どこに取れ高があると!?
『じゃあ、今から配信始めましょうか?』
『それは勘弁してください』
ついさっきまで割と濃い目の配信してたんだったば……。
『しょうがないパパですね。聞き分けのいいメミはパパに無理はさせません。だから、その……、ねえパパ?』
『パパじゃありません。というか、素直に言ってくれればやりますよ』
『メミも先輩たちとコラボしたいです』
『はい』
『でも、ひとりじゃまだ怖いので、パパも一緒に来てください』
『素直にはなりましたが、パパ呼びは変えないんですね』
『パパから唯一のアイデンティティを奪うことなんて、メミにはとてもじゃないですけど出来ません』
『他にもあるので奪って貰って大丈夫です』
『ダメです。パパはメミのパパでいてください』
『そこまで頑なにならなくてよくないですか?』
『……パパがいなくなったら、緊張します』
『ん?』
『知らない人とコラボするとき、……ひとりだと緊張するんです』
……なるほど?
『じゃあ、この間のナーちゃんとカレンちゃんとのコラボも?』
『……緊張してました』
『そうだったんですね』
『嘘です』
『どっちですか』
『パパが一緒だったから緊張しませんでした』
『そうですか』
『そうなんです』
『でもパパじゃないです』
『いつか認めてもらいます』
『そのいつかは絶対来ないです』
『じゃあ、まずは先輩たちとコラボさせてください』
『そっちはまあ、わかりました。誰とコラボしたいとかありますか?』
『……女の人がいいです』
『女性でブイクリの先輩で、俺がコラボに誘える人って言えば……』
1人しかいないなぁ。
一応、堂島さんにも許可を取っておくか。
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