第175話 今日も広がるカレ虐の輪

『『キャラが被ってます!!』』


「声まで被ってますよ」


『メミはオンリーワンで世界一素敵な妹なんです。キャラ被りなんて許されません』


『わ、わたしだって! こんなに可愛いVTuberなんですよ!? キャラ被りなんてダメです!!』


『つまり、あんたら2人はモブってことね』


『『あがっ!? モ、モブ──ッッ!?』』


『間違いないわね。2人揃ってモブみたいな反応だもの』


『『ぐは──ッッ』』


「ナーちゃん、ナーちゃん。ちょっとは手加減してあげてください。メミさんもカレンちゃんも致命傷を負ってます」


『あら、この程度で? それこそモブって証じゃない』


『こ、これが圧倒的な個性を持つが故の“強さ”ですか。さすがはメミの憧れる安芸ナキア先生です』


『確かに! 確かにナキア先生ほどの個性は持ってないですけど、それでもわたしだって頑張ってるんです!!』


「そうですよ、カレンちゃん! カレンちゃんはとても頑張ってます! それは誇れることです!!」


『そうですよね、アズマさん!! 頑張ってきたから、ブイクリ所属VTuberのママにもなれたんですよね!?』


「あ、それは俺が頑張ったからですね」


『アズマさん!? なんで梯子を外すんですかぁ!?』


「メミさん。これが配信前にお伝えしたノルマです」


『なるほど。これが噂に聞く一日一カレ虐ですか……』


『何を伝えてるんですか!? というか、引かれてませんか!?』


「高尚な趣味と言うのは、時には人から理解が得らないってことですね」


『低俗な趣味の間違いですよね!?』


「ということで、ノルマもこなしましたし、改めて本日の配信を始めましょうか」


『メミの記憶が正しければ、配信が開始してすでに30分ほど経っていると思いますが』


「オープニングトークってやつですね。充分に盛り上がったんじゃないでしょうか?」


『アニメ一本分以上の時間を話しててオープニングも何もないんじゃないかしら』


『むしろオープニングだけで30分って大分詐欺なんじゃ……』


「モブは黙っててください」


『なんでですかぁ!? なんでわたしにばっかりそういうこと言うんですかぁ!?』


「趣味、……ですから」


『そんな感慨深そうに言っても許されませんよ!? それにわたし知ってるんですよ! アズマさんはただタイトルコールをしたくないだけじゃないですかぁ!!』


「……なんのことでしょう」


『誤魔化し方が下手すぎて、メミびっくりです』


『そんなに嫌がるものでも無いと思うのだけれど?』


「じゃあ、ナーちゃんがしてください」


『断るわ』


「ほら! ナーちゃんだって嫌なんじゃないですか!!」


『いいえ。そんなことは無いわ。私が断るのは、そう! ここで断るのが安芸ナキアだからよ!』


『『お~』』


「はいそこのモブ2人! ただのファンにならないでください!」


『『モブって言わないでください!!』』


「お~。見事なシンクロニシティ」


 ……俺と親子なんて言ってないで、カレンちゃんとメミさんで姉妹設定とかにした方がいいんじゃないか?


『私からすれば、今一番モブなのはズマっちね』


「……なんですと?」


 それはちょっと、聞き捨てなりませんなぁ?


『だってそうじゃない。ちっぽけな羞恥心から進行役を放棄してグダグダと喋るばかり。あなた、何のためにこの配信をしているの?』


「ぐ……っ」


 せ、正論が、正論が突き刺さる──ッ!!


『私から言えるのは、そう。……男のプライドほどくだらないものは無いってことかしらね』


「……どういう意味ですか?」


『カレンがあなたのキャラデザをしたのがそんなにイヤ?』


「誤解!!それ誤解を招きますから!!そういうことじゃないですから!!」


『そう? じゃあ早くタイトルコールして頂戴。正直、ズマっちがやるのが一番おもしろいわ』


「ぐっ、この……っ」


 正論で刺してきてたかと思ったら、急に私利私欲を出して来たなぁ!?

 それでこそ安芸ナキアって、ちょっと感心しちゃったよ!?


『あら、言いたいことがあるならちゃんと言って頂戴。そうしないとリスナーにも伝わらないわよ』


『そうですよぉ。そんなのでブイクリのライバーとしてやっていけるんですかぁ?』


『全く。やっぱりメミがしっかりしないとダメですね。本当にしょうがないパパです』


「だからパパじゃないですってば──ッ!!」


『確かにそうですね。こんなヘタレな人がパパだなんて、恥ずかしくてお兄ちゃんたちに顔向けできませんね』


『アズマさ~ん、早くしてくださいよぉ。わたし待ちくたびれちゃいましたよぉ』


 こいつら……っ。

 ここぞとばかりに煽ってきやがって──ッ!!

 ああ~……、死ぬっほどやりたくない。やりたくないけどこの2人に煽られてるのもムカつくんだよなぁ──ッ。


「え~、ということで、ですね。本日の企画は、え~、つまりですね~」


『さっさとしないよ』


「ああもうわかりましたよ! 今日の企画はその名も『ママと一緒 ~アズマとメミのはじめての配信~ 』です!! ああ、やだ! やっぱりにやりたくない!!」


『なんでそんなこと言うんですかぁ? すっごーーーーーっっっっく楽しそうな企画じゃないですかぁ』


「そりゃカレンちゃんはそうでしょうね!?」


『大丈夫でちゅよ~。アズマきゅんの配信が上手くいくようにお手伝いしまちゅからねぇ~。だからまずはわたしのことを『カレンママ』って呼んでください』


「絶対に嫌なんですが!?」


『えぇ~、そんなこと言っちゃっていいんですかぁ? せっかくブイクリのマネージャーさんが考えてくれた企画なのに、そんなこと言っていいんですかぁ?』


「この……っ」


 おい誰か。この女の口を塞いでくれないか?


『ふぅ、このままパパに任せててもしょうがないので、ここから世界一出来た妹であるメミが引き継ぎます。お兄ちゃんたち、ちゃんと褒めてくださいね? えっとですね、つまり今日の配信は、帰省です。実家帰りです』


『え?』


『はぁ?』


「……なんですって?」


『やれやれ。皆さんの鈍感っぷりはラブコメ主人公を越えますね。いいですか? メミがわかりやすく説明しますから、よ~く聞いててくださいね。メミのママはナキア先生です。そしてメミのパパがアズマさんです』


「パパじゃないです」


『パパは黙っててください』


「パパじゃないので黙りません」


『では無視して進めます。時には無情な決断も出来る。やっぱりメミは素晴らしい妹ですね』


 黙ると言う決断をしてくれたら、最高に素晴らしかったんですけどねぇ? それは出来ない相談ってことですね。


『メミのパパのアズマさん。そしてそのママはカレンさん。つまり、カレンさんはメミのおばあちゃんと言うことですね』


『おば──ッ!? え、おば──ッ!?』


「あぁ~~~~~、なるほど」


『その説は、……ありね』


『無いですよ!? なんでアズマさんもナキア先生も納得してるんですか!?』


「料理、うまいですし」


『あのホッとする味は、実家に帰った感あるものね』


「胃袋に染み渡りますよね」


『おふくろの味よね』


『お、おお。まさかそこまで納得されるとは思わず。メミ、ビックリです』


『いやいやいや、納得しないでくださいよ!! 待ってください! 見てください! わたしの姿を!! こんなに若くて可愛いんですよ!? おばあちゃんって見た目じゃないですよね!?』


『今度差分を描いてあげるわ』


「死んだおばあちゃんが若返った姿で生き返って、子供たちには何も知らせないままに、過ごせなかった楽しい時間を過ごしてるって設定はどうでしょう?」


『最後の別れ際に本当はおばあちゃんだったってことがわかるのね』


「ラストはお墓参りのシーンで終わりですかね」


『……泣けるわ』


「絶対にエモいですよね」


『ちょちょちょ!! 勝手に設定を作らないでくださいよぉ!! というか、それだとわたし一回死んでるじゃないですかぁ!!』


「新しく自分をやり直せる。これぞVTuberの醍醐味ですよね」


『社畜から転生してる人が言うと説得力が違いますねぇ!? って、そうじゃなくてですね!? 嫌ですよ、わたし。おばあちゃんなんて!!』


『ですが、おばあちゃんになれば、名実ともにパパのママになれますよ』


『失うものが多すぎます!!』


『……ワガママですね』


『なんで初対面でそこまで言われないといけないんですかぁ!?』


『……ふむ』


「メミさん?」


『パパがカレ虐にハマる理由がわかりました。これは、……病みつきになりますね』


「でしょう?」


『意気投合しないでください!! 『でしょう?』ってなんですかぁ!?』


「って言われましても。ねぇ?」


『はい。これはしょうがないとメミも思います』


『もぉお、やだぁあ──ッ!!!!!』


 ん~、カレンちゃんの悲鳴は今日も最高だ──ッ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る