第174話 こういう小さな積み重ねが大事なんだよね

『相談って何~?』


『僕、もう眠いんだけど……』


『私も~。今何時だと思ってるの~?』


「午前10時ですが!?」


『いつも寝る時間だ』


『同じく~』


「……戸羽ニキとミチエーリさんの生活サイクルがめちゃくちゃ心配になったんですが」


 これだからVTuberは……。

 当たり前のようにこの時間から寝るって、さすがに引くんだけど!?

 ……まあ、俺も似たようなものと言えば似たようなものだけど。


「お二人に折り入って相談があります」


『それって今じゃないとダメなの? めちゃくちゃ眠いんだけど……』


『ふぁ~。起きてからじゃダメ~?』


「今お願いします。もう俺、どうしたらいいのかわからないんです」


『時間が解決するよ』


『お金の問題だよ』


「……俺、本当に真面目に相談したいんですけど」


 さすがにこればっかりは、あんまり茶化さないで貰いたかったり……。


『ごめんごめん。本当に眠くてさ』


『ふぁ。あ、ごめん。大丈夫だよ。相談って何?』


「……ナーちゃんとのことです」


『待ってて。コーヒー持ってくる』


『私、顔洗ってくる』


「あ、はい」


 ありがたいんだけど、本当にありがたいんだけど、そこまでガチ感出されると逆に相談しにくいと言うね……。

 もうちょっと気楽に話したかったんだけどなぁ……。


『お待たせ』


『いいよ~』


「あ、はい。ありがとうございます」


『いいよ、なんてったって可愛い後輩からの相談だからね』


「寝ようとしてましたよね!?」


『そんなことするわけないじゃないか。冗談だよ、冗談』


「時間が解決するって言ってたの、忘れてませんからね!?」


『身構えて聞こうとするとアズマも話難いかなぁ、って思ってさ。で、何があったの? もしかして別れたいとか?』


『そんなこと言い出したら許さない。絶対に』


「いや、こわっ!! というか、戸羽ニキ。それはさすがに冗談だとしても笑えないですよ」


『二度と言わないで』


『はい。すみませんでした』


「二度とですよ? 二度と言わないでくださいね?」


『はい。わかりました』


『まだ眠いんじゃない? コーヒー2リットルぐらい飲んだら?』


『それは僕が死ぬよね!?』


『ナキアを悲しませるような冗談を言う人が何を言ってるの?』


『……。申し訳ございませんでした──ッ!!』


『まあ、許す。絶対に忘れないけど』


『……あれ、僕もしかして、めちゃくちゃデカい地雷を踏んだ?』


「今更ですか? それに関しては俺よりよっぽどミチエーリさんの方がガチですよ」


『つまりアズマにはもう、結婚しか残されてないってこと?』


「急にこっちに矛先向けるのやめてくれません?」


『え!? もしかして相談ってそういうこと!?』


「違いますからね!?」


『は? 違うの?』


「いやだから怖いですって!! というかですね、結婚とかなんとか以前に、今ナーちゃんが全っ然話してくれないんですよ!!」


『あ~、……その話か』


「あからさまにガッカリするのもやめてくれませんか……? 俺、割と真面目に困ってるんですから」


『え、何? どういうこと? アズマ、なんかやらかしたの?』


「やらかしたって言いますか、やらかされたと言いますか……」


『何々? 何があったのさ』


「……強いて言えば、ブイクリのデビューですかね」


『……どういうこと? え、だって、彼氏が大手事務所からデビューしたんだよ。普通、嬉しくない?』


「…………」


『アズマ?』


「あ、いや。戸羽ニキからさらっと『彼氏』って言われて、なんか嬉しくなったと言いますか、ナーちゃんと付き合ってることを実感したと言いますか……」


『のろけるなら寝るよ?』


「いやいやいや! そんなんじゃないですって!! 本当に悩んでるです!! 相談に乗ってください!!」


『あ、でも、寝てもいいかも』


「ミチエーリさん?」


『今からアズマさんがする話って、結局ただののろけだよ』


『そうなの?』


「そんなこと無いと思いますが……」


『じゃあ、話してみてよ。ちなみに私はもう寝る準備出来てる』


「ちょっと!?」


『え~、そんな感じなの? 僕、コーヒー飲んじゃったからしばらく寝れそうにないんだけど』


『頑張って~』


「いやいや! ミチエーリさん!? ミチエーリさん!? 起きてください!?」


『え~、私はいいよ~。代わりにナキアが聞くから』


『は?』


「え?」


『言ってなかったっけ~。今日、ナキアの家に泊まってるの~。……え、ちょ、何? ナキア。なんで言うのって。だってナキアもさっき言ってたじゃん。アズマさんと話せなくて困ってるって』


 ……本当っぽいな。

 ミチエーリさんの後ろから微かにナーちゃんの声が聞こえる。

 なんかすっごい文句言ってる。


「ナーちゃん、いるの?」


『──ッ!?』


 なんか息を吞んだというか、ビクッて反応が……。


『ナキア~。私寝るから、向こうで話してね。スマホ持って行っていいからさ~』


 そしてミチエーリさんは完全に寝る態勢だ……。


「ナーちゃん?」


『な、なによ』


 あ。


「久しぶりだ。声聞くの」


『うっ、そ、それは……』


「なんか、すっごい嬉しい」


『ふ、ふん。なによ、大げさなのよ』


「だって、ずっと無視されてたし」


『む、無視はしてない! こともなかったとは思うけど……、チャットとかは返してたじゃない』


「声聞いたのは久しぶりだったから」


『ンン──ッ』


「──ッ!?」


『──ッ!?』


『僕も寝るね』


 あ。


「と、戸羽ニキ!! 今日はありがとうございました!!」


『うん。何もしてないけど』


「いえいえ。今度お礼させてもらいます!!」


『肉ね。焼肉』


「はい!」


『じゃ、おやすみ』


「はい! おやすみなさい!!」


 ヤッベ~。ナーちゃんと話せたのが嬉し過ぎて、戸羽ニキがいたのすっかり忘れてた……。

 後でちゃんと謝っておこう。


『……フメツには悪いことしたわね』


「大丈夫。あとでちゃんと謝っておくから」


『あと、恥ずかしい会話を聞かれたわ』


「……そっちの方が問題かもしれない」


『今後どんな顔してコラボ配信すればいいのよ──ッ!!』


「ナーちゃんはまだいいよ。俺なんて事務所の後輩としてやっていくんだよ──ッ!?」


『そう。そうだったわね。ええ、そうよね……』


「なんか歯切れ悪くない?」


『……気づいたら結婚してたのかしら、私たち』


「いきなりぶっこむのやめない!?」


『~~~~っっっ』


「ナーちゃん?」


『……恥ずかしい』


「自分で言っておいて!?」


『……バカ』


「それは八つ当たりでは!?」


『どうするのよ、これから』


「どうって言われても……」


 正直、気にしなければいいって言いたいんだけど、……ナーちゃんだしなぁ。

 そんなこと言ってもって感じになるよな。


「そんなに恥ずかしい? 俺と、その、……そういう風に見られるのが」


『あ! ちがっ、違うわよ!? ズマっちと、その、そういうのではなくて……』


「?」


『は、初めてだから、こういう風に言われるのが。だからその、……受け止め方がわからないのよ』


「あ~……」


『何よその反応!? 悪かったわね、恋愛経験が少ない女で!!』


「少ないって言う辺りに、まだプライドを感じる」


『マジレスするんじゃないわよ!!』


「おっと。つい、ね。失礼しました。でも学生時代とか、本当に何も無かったんですか?」


『あるわけないじゃない。私を誰だと思ってるのよ』


「俺の可愛い彼女」


『安芸ナキアよ!!』


「お~。恥ずかしい時のキレ芸が身に着いてきてる」


『私を犬か何かだと思ってないかしら?』


「犬って可愛いよね」


『話を聞きなさいよ』


「久しぶりにナーちゃんとお喋り出来るのが嬉しくて、つい」


『……そういうことばっか言うんじゃないわよ』


「え、何? 今の聞こえなかったからもう一回」


『学生時代は趣味に夢中で恋愛なんて眼中に無かったって言ったのよ!!』


「あ、OK。今のはよく聞こえた」


というか、鼓膜が破れるかと思った。


『私の人生は趣味と創作に夢中で恋愛なんて文字はどこにもなかったのよ!! 今だって人と会うような生活はほとんどしてないし……』


「もういい、もういい。わかったから」


『だから男女関係とか、そっち方面でいじられてもどうすればいいのかわからないのよ……。それに! ……否定したくないじゃない。否定したら、ズマっちが傷つくとか、思っちゃうでしょ』


「ナーちゃん」


『何よ』


「冗談だってわかってることに真剣に悩んでくれるのが嬉しいよ」


『うるさい』


「ナーちゃんがそういう風に考えてくれるのを俺は知ってるから、あんまり意識し過ぎないでいいよ。それでナーちゃんと喋れなくなる方が、その、さみしいし」


『そ、そう? じゃ、じゃあ、しょうがないわね!! ズマっちがそこまで言うんだものね! ま、まあ? 所詮は冗談だもの! 気にする必要なんてないわよね!!』


「うんうん。そうだよ」


『そうよね! 全く。配信で迂闊な発言をするのは気を付けて貰いたいわ』


「ところでナーちゃん?」


『何かしら?』


「今みたいな話をしたかったのに無視され続けてた俺に何か言うことは?」


『ごめんなさい──ッ!! もうしません!!』


「よし」


 あ~、よかった~。

 これでスッキリした~。

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