第173話 デビュー配信なのに、変な誤解ばかり広まってない!?

 バ~~~~~~カッ、緊張する──ッ!!!!!!!!!!!!!

 え、ちょ、えぇ──ッ!?

 配信でこんな緊張することある!?

 マジで? 《レジェンダリーカップ》とかも出たけど、全っ然違うんだけど!? 何この緊張感。意味わからんのだが!?

 これが大手事務所でデビューすると言うことなのか!?


『どうしたのでしょう。パパが黙ってしまいました』


「だからパパじゃないって言ってますよね?」


『ツッコミにも勢いがありませんね。もしかして緊張してますか?』


「そう言うメミさんこそ。声、震えてますよ」


『ふ──っ』


「……余裕ぶってますけど、全然余裕無いですよね」


『さすがはパパ。それぐらいはお見通しということですか』


「うーわ、後3分で配信開始ですって」


『………………………………。どうしてそういうことを言うんですか』


「……事実ですから」


『…………』


「…………」


『…………』


「…………」


『後2分ですよ』


「……………………。なんでそういうことを言うんですか」


『……事実ですよ』


「…………」


『…………』


「…………。人数」


『はい?』


「配信枠の、待機人数」


『見えません見えません。そんなもの見えません』


「……7万6千人」


『……吐き気がします』


「……堂林さんからチャット来ました。『楽しんでください』って言ってます」


『ふ──っ。……楽しめるテンションだと思っているのですね』


「……1分切りましたね。配信開始まで」


『…………』


「…………」


『…………』


「…………」


『何か喋ってください』


「無理です」


『パパなのに?』


「パパじゃないです」


『でもメミは娘って言い張りますね』


「ただの同僚だと言い返します」


『ツンデレですか』


「……あと20秒で配信開始です」


『…………』


「…………」


『…………』


「…………」


『……覚悟が決まりました』


「……俺たちなら大丈夫です。──行きましょうッ!」


『はい!!』


 あー、もう!!

 ここまで来てビビッてもしょうがない!!

 行くぞ、ブイクリデビュー配信!!

 何万人が見てようが知ったことか!! むしろそんなの、VTuber始めた時に見た夢のひとつだろうが──ッ!!


「あざまるうぃーす!!!!!! どうも、東野アズマです!! この度ご縁をいただき《V-Create》よりデビューすることになりました!! 初めて見ていただいてる方も、今まで応援してくれていた方も、これからよろしくお願いします!!!!!」


 って、気合入れて挨拶したのに……。


『パパ』

『パパ』

『パパ』

『パパ』

『パパ』


 このコメント欄はおかしくないですかねぇ!?


『会いたかったですよ、お兄ちゃん。あなたの妹、兄ノ女未です。《V-Create》からデビューすることになりました。はい。お兄ちゃんたちの言う通り、パパも一緒です』


「だからパパじゃないって言ってますよね!? どうするんですか、本当に親子だと思われたら!! 今日が初見の人だっているんですよ!?」


『ふ──っ』


「……いや、そこでクールに笑う意味がわからないんですが」


『まだまだですね、パパも』


「だから何が……」


『今日の配信を見れば、きっと誰もが東野アズマがメミのパパだと認めざるを得なくなります』


「はい? 何を言って……?」


『察しが悪いですね。そんなお間抜けなパパだから、メミがしっかりしないとダメなんです。は~、やれやれ』


「やれやれなんて口に出して言ってる人、初めて見ましたよ」


『む。そんなことありません。やれやれはメミの口癖です。そんなことも知らないなんて、本当にダメなパパですねぇ。やっぱりここはメミがしっかりしないと。は~、やれやれ』


「キャラ付けが雑過ぎません!? 大丈夫ですか!? それ後で苦しくなりますよね!?」


『キャラ付け? 何を言っているのですか? メミは元からこうですよ。ほら、思い出してください。前世を』


「前世!? 前世なんですか!? そんなの逆に覚えてる方がおかしくないですか!?」


『そんな……、パパは本当に忘れてしまっているんですか? あんなに幸せだったじゃないですか。思い出してください、前世を』


「思い出しても何も、何を? って感じなんですが……」


 やっぱり緊張か?

 さすがのメミさんも、緊張し過ぎてるのか?

 じゃないと、こんなわけわかんないこと言わないよ……。


『ふ──っ』


「メミさん……?」


 大丈夫か? この後の進行。

 なんだかんだで色々とやることあるぞ?

 しかもいつもの配信と違って時間も決めってるのに……。


『そうですか。パパはもう思い出せないんですね。前世、もしくは転生前のことを』


「いやもう、本当に何を言っているのかわからないんですが!?」


『それはメミのセリフです。社畜からVTuberに転生したパパに付き合って、メミも一緒に転生したのを忘れたとは言わせませんよ?』


「全く記憶にありませんが!?」


 というか、忘れかけてたよ、俺が転生してVTuberになったって言ってたこと!!

 よく覚えてって言うか、よく知ってるな!? もう最近じゃ配信でも言ってないぞ!?


『そうだとは思ってましたが、やはりそうでしたか……。でも大丈夫です。メミがきっと、パパが忘れた記憶を思い出させてあげます。そしていつか、メミが大好きだった、……あの頃のパパに戻ってくださいね』


「いやいやいや、勝手に設定を付け加えるなって言うか、記憶を捏造しようとしないでくれませんか!?」


『ちぇ』


「舌打ちしました!? しましたよね!?」


『お兄ちゃんたちへの投げキッスです。大好きですよ、お兄ちゃん♡ Chu♡』


「あからさかまに音が違うんですが!?」


 いや、ていうかすごくない!? メミさん!!

 さっきまであんな緊張してたのに、よくぞまあ、ここまでスラスラとおもしろいことが言えるな……。

 やっぱり配信が始まるとスイッチが入るんだろうか……。

 俺も俺ですっかりいつも通りのテンションで配信出来てるし!!

 それにほら、コメント欄もめちゃくちゃ盛り上がってる!!

 ……相変わらず『パパ』ってコメントが多いのは気になるけどな!?


『さて、それではいよいよですよ、お兄ちゃんたち。メミの、パパの記憶を取り戻すための旅が、ブイクリで新たに始まります』


「だから勝手に壮大な物語を始めようとしないでくれませんか!? 俺は付き合いませんよ!?」


『大丈夫です。メミが付き合わせますから』


「自分勝手過ぎませんか!?」


『違います。娘の可愛いワガママですよ、パパ♡』


「よし、そろそろ黙りましょうか。時間も決まってますし、そろそろ次に行きますよ」


『急にドライになりましたね。それはクールなメミに合わせてくれたってことでしょうか』


「メミさんがクール? ジョークにしてはおもしろくないですね」


『ジョ──ッ!? は、はあ!? 何を言ってるんですか。メミほどクールなVTuberなんて他にいませんよ!?』


「本当にクールなら、今の一言にも冷静に切り返せてるはずなんですけどね。慌てるってことは、自分でも認めてるんじゃないですか?」


『ふ──っ。メミとしたことがつい慌てて取り乱してしまいました。まさかパパの記憶喪失が、メミの性格を勘違いするほどになっていたなんて、あまりにも予想外でしたから』


「はい、では勝手な妄想を繰り広げる人は置いておいて、次に行きますね。……皆さんお待ちかねの、デビュー衣装のお披露目です──ッ!!」


『あ、あれ? あれれ? そのセリフはメミが言う予定だったはず……』


「時間を守らないからお仕置きです」


『……まるで娘に向けた言葉みたいでじゃないですか? これはもしや──ッ。記憶が戻りま始めてませんか!?』


「たわ言発信機は置いておいてどんどん行きましょう!! 皆さんも楽しみですよね? 俺もぜひ見て貰いたいんですよ。俺のキャラデザとかって、仲のいいVTuberが担当してくれているんですが、この短い期間で新衣装のデザインから全部仕上げてくれましたし、めちゃくちゃいい出来なので、楽しみしててください」


『メ、メミの新衣装だってすっごい可愛いですよ!? お兄ちゃんたち、覚悟しておいてくださいね? 可愛すぎて気絶しちゃうかもしれませんから』


「どっちから行きます?」


『もちろんパパから』


「なぜ?」


『こういう時、主役は娘に譲るのが親だと思います』


「俺はメミさんの親でも何でもないので、メミさんからどうぞ」


『イヤです』


「なんでですか」


『最高に可愛いので、満を持して発表したいからです』


「それなら俺だってそうですよ。めちゃくちゃいい出来なので、溜めに溜めて発表したいです」


『譲りませんか?』


「譲る理由がありませんね」


『そうですか。では、一緒に発表しましょう』


「まさかの平和的な解決法ですか!?」


『メミはいい子なので、みんなが幸せになれる方法を考えるのが得意なんです』


「くっ、こればっかりはツッコめない……」


 とまあ、そんなこんなもありつつ、新衣装発表も好評のうちにやりつつ、俺たちのデビュー配信は無事に終了したのだった。

 そして配信終了直後──、


『ようこそ、ブイクリに』


 と言う戸羽ニキからのチャットを見て、俺は自分が本当にブイクリからデビューしたんだと噛みしめた。

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