第172話 そうか。もう少しでこの2人は先輩になるのか
『よーし、後輩いびりだー』
『いびりだー』
「いきなり最低なこと言わないでくれませんか!? というか、まだお二人の後輩にはなってないんですけど!?」
『でももうデビューは発表されてるじゃん。誤差だよ、誤差。ねえ、ムエナちゃん』
『フメツ君の言う通り! とりあえずアタシはー、オレンジジュース!!』
『あ、僕はコーヒー牛乳と焼きそばパン』
「いや、パシリじゃないですか!!」
『あれ、先輩の言うことが聞けない……?』
『あれ、そんな生意気な後輩だったっけ……?』
「こわっ!! この人たちこわっ!! 俺、ブイクリでやってける自信無くなったんですけど!?」
『またまたぁ。この間僕に言ってきたじゃん。『俺がNo.1になってみせます!!』って』
「一言も言ってませんが!?」
『アタシも言われたー。『天下取ります』って言ってたー』
「誤解を招くようなこと言わないでくれません!?」
久しぶりのコラボだからって、戸羽ニキもムエたんもめちゃくちゃいじってくるじゃん!!
『そう言えばアズマ。最近、娘が出来たんだって?』
「出来てませんよ!?」
『アタシもそれ聞いた。マネージャーさんから』
「どうしてブイクリのマネージャーが率先して噂を流してるんですか!?」
堂林さんか!? あの人のせいか!?
マネージメントの方向性とか言いながら、『親子系VTuberで行こうと思ってます』とか言ってたりしなよな!?
『アズマの娘かー。今度お小遣い上げに行ってもいい?』
『アタシもアタシも! 抱っこしに行きたい!!』
『もう小学校には上がってるんだっけ? ランドセル買ってあげようか?』
『最近のランドセルって可愛いの多いよねー。アタシ、水色のランドセルとかいいと思うな。アズマさんはどう思う?』
「ですから!! 俺に! 娘は!! いません──ッ!!!!」
あー、もう!!
コメント欄にも『娘』って単語が目立つようになってきてるし!!
このままじゃ、ナーちゃんが喋ってくれないんだって!!
昨日ようやっとチャットを返してくれるようになったんだぞ!?
せっかく可愛い彼女がいるのに、全然コミュニケーションが取れないってどういうことだよ!!
……まさかVTuber活動がこんな形でデメリットになるなんて誰が思うよ。
『おにーちゃん』
「──ッ!?」
は!? え──ッ!?
『おにーちゃん。ムエナだよ?』
「いや、ちょ、──いきなり何してるんですか!?」
『娘は気に食わないみたいだから、やっぱり妹の方がいいのかなって思って』
「どんな発想の転換ですか!?」
『う~ん、お兄ちゃんは違うのかぁ。じゃあ、にぃに?』
「──ッ」
『お、反応した』
「戸羽ニキ。余計なこと言わなくていいですから」
してない。してないからな!?
ちょっと可愛いって思っちゃったとか、そんなこと無いからな!?
『ん~……、他にはぁ……。リスナーさん、何かある?』
「リスナーに聞かなくていいですからね!?」
『ああ、なるほどなるほど。そういうのもあるんだね』
何!? そっちの配信欄で何を話してるの!?
なるほどって、……リスナーに何を吹き込まれてるの!?
『おにぃ。……あ、もっと甘えた感じの方がいいの? OK~』
「そんな指示に従わなくていいですからね!?」
『いいぞいいぞ~、みんなもっと指示厨していけ~』
「戸羽ニキも煽らなくていいですから!!」
『何言ってるのさ、アズマ。配信って言うのはリスナーさんたちと創り上げていくものだよ?』
「FPSやってる時は、あれだけ『指示コメやめて』って言ってるじゃないですか!!」
『アズマ。この世にはいらない指示コメと必要な指示コメの2つがあるんだよ。今回の指示コメは必要な指示コメだ』
「ということはつまり、戸羽ニキもムエたんから『お兄ちゃん』って呼ばれたいってことですよね?」
『そうだけど、それが何か?』
「くっ」
そうだった──ッ!!
この人、たま~に開き直って無敵になるんだった!!
『ゥんん──。じゃあ、行くよ? ──おにぃ♡』
「──ッ」
んん──ッ、かわいい──ッ!!
『あれ? お兄ちゃん♡』
「ッ──、スゥー」
わかってるな? 俺。
反応したら余計にいじられるぞ。
ここは心を無にしてやり過ごすんだ。
『にぃに♡』
「………………っ」
聞こえないフリ聞こえないフリ。
公式販売ボイスですらムエたんの妹ボイスは出てないし、ここまで甘い声はメン限での甘々雑談でしか聞けないレアボイスだとしても、──我慢ッッッッッッッッ!!!!!!!!
『あれ? アズマさん? 聞こえてる?』
『きっと聞こえてないフリだね。アズマはむっつりだから』
「それは聞き捨てなりませんよ!?」
こらこらコメント欄。何が『草』だよ。
君たちがすべきコメントはそうじゃないだろう?
超レアなムエたんの妹ボイスを聞けたのは誰のおかげだと思ってるんだ?
まずその感謝を述べるべきじゃないのか──ッ!?
というか、俺の代わりにもっと興奮してくれ!! 俺は今必死に耐えてるんだから、せめてみんなが盛り上がってくれ!!
『だってアズマって自分からそういう話ししないじゃん』
「戸羽ニキだってしないじゃないですか」
いや、したいよ!?
今とかめっちゃしたいよ!?
ムエたんのボイスがどれだけ最高か語りたいよ!?
でもさ、それやったらめちゃくちゃキモくなるんだよ!! だから必死に我慢してるんだよ!!
『そうでもないよ。同期で集まった時とか、結構そういう話もするし。ほら、雄がいるからさ』
『あ、アタシ黙ってようか?』
「いやいや、何でですか」
『男子のそういう話って興味あるから、聞いてみたくて』
「そんな大した話じゃないですよ」
特に今は。努めて冷静に話してるし。
大丈夫。これならいつものトーンと変わらないはずだ。
『え~、なんで隠すの~?』
『むっつりだからね、アズマは』
「だから誤解を招くようなことばかり言わないでくださいって」
『これに関しては誤解じゃないと思うんだよね』
「誰も彼もが明け透けに話すわけじゃないんですよ。ほら、そういう話を聞くのが苦手な人だっているじゃないですか」
『アタシは気にしないよ?』
「俺が気にするんですよ!! 何が悲しくて推しに性癖トークを聞かれなきゃいけないんですか!?」
『推しのことは全て知りたがるのに、推しに全てを知られるのはイヤなんだね』
「……急にキレのあること言うのやめてくださいよ」
ビックリしたぁ……。
危うく黙り込むところだったよ。
『この程度も切り返せないなんて、そんなことでブイクリでやっていけると思っているのかい?』
「戸羽ニキ? どうしたんですか? 急にRPGのチュートリアルで出て来る操作説明をするキャラみたいなことを言い出して」
『何だかんだ言ってアズマさんのブイクリデビューが決まって嬉しいんだよ! ね、フメツ君?』
『そんなことあるわけないじゃないか』
「へ~」
『……アズマ? なんだいその『へ~』は』
「いいえ、別に。ただ。『デビューが待ちきれないからコラボしよう』って誘ってきたのは誰だったかなぁって思っただけです」
『あれ、確かそれはムエナちゃんだったような……』
『へ~、そういうこと言っちゃうんだ~。ふ~ん』
『…………』
『…………』
「…………」
『…………』
『…………』
「…………」
『確かに今日のコラボは僕が誘ったね』
『だよね?』
「ですよね」
『でも一番楽しみにしてたのはムエナちゃんだよね?』
『はえ!?』
「……ムエたん? そうなんですか?」
『さ、さぁ、どうだったっけなぁ~。ちょっと思い出せないかなぁ~』
『あれ、僕に『どの衣装がいいと思う?』って聞いてきたのに? あの時のムエナちゃん、めちゃくちゃテンション高かったよね』
『フメツ君!! それは言わないでって言ったでしょ!!』
「なるほど。そうだったんですね。へぇ」
『あ』
『ふっ』
『ちょっと、フメツ君!! なんで笑ったの!?』
『え、笑ってないよ?』
『笑った!! 絶対今、笑った!!』
『そう言えば、最近マイクの調子が悪いみたいで、変な感じに音を拾っちゃうんだよね』
『絶対、嘘!!』
「いやいや、まあまあ。つまりはお二人とも、俺がデビューするのが待ちきれなかったと。そういうことですね?」
『ムエナちゃんはそうみたい』
『あ! なんでそういうこと言うの!? フメツ君だって楽しみにしてるじゃん!!』
「まあまあ、お二人の気持ちはよくわかりましたから。だから後ちょっとだけ待っててください。今デビューに向けての準備を着々と進めてるところですから」
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