第171話 同期がこんな感じで、本当に大丈夫!?

『いやはや。まさかデビュー配信前に父と娘の関係になっているとは思いませんでしたよ』


「堂林さん!? いきなり何を言ってるんですか!?」


 開口一番にそこから触れるの!?

 今日、顔合わせのミーティングだよね!?

 普通もっと当たり障りない挨拶から入らない!?


『さすがツッコミに定評のある東野アズマさんですね。その速度、メミのパパに相応しいと言えるでしょう』


「だからパパじゃないですって!!」


『ふっ』


「いやいやいや」


 メミさん?

 クールに笑えばいいってもんじゃないよね?

 というか、俺たち今日がはじめましてだよね? 何でいきなりこんなやりとりから始まってるの?


『いやぁ、よかったです。お二人がすでに仲良くなっているみたいで。同期の初顔合わせほど気を遣うタイミングもないですからね。お二人のマネージャーとしても、ひと安心ですよ』


『もちろんです。メミはお兄ちゃんたちから聞き分けのいい子と、よく褒められていますから』


「たった二回のツッコミで何がわかるって言うんですか!?」


『……えっちですね』


「なんでですか!?」


『……メミの口から言わせようって言うんですか? ヘンタイさんは許しませんよ?』


「マネージャーさん! 同期が何を言っているのかわかりません!」


『なるほど。これが親世代と子世代のジェネレーションギャップというものですね』


「いや、本当に何言ってるのかわからないんですが!?」


『では特別に教えてあげましょう。メミの配信では『ツッコミ』と言うと、お兄ちゃんたちから『エッ』とか『ナニを』とかコメントが返ってきます。それに対して『えっちです』とか『へんたいです』と返すのが文化です』


「そんな文化があってたまるか」


『む。メミとお兄ちゃんたちの楽しみを理解出来ないなんて、パパもまだまだですね』


「だからパパじゃないって言ってますよね!? というか、何がどうなったらリスナーさんたちとそんな関係性を築けるんですか……?」


『む。お兄ちゃんたちのことを『リスナー』って呼ぶのをやめてください。メミの自慢のお兄ちゃんたちなんですから』


「あ、はい。すみません」


 ものすごくファンのことを大切にしてるんだなぁ。すごい。

 たださぁ、他にもっと大切にするべきものがあるんじゃないのかな!?


『そんなことで、メミのパパとしてやっていけるんですか?』


「だからパパじゃないって言ってますよね!?」


 何度言わせるんだ……。

 というか、マジで今のうちにその呼び方をやめさせないと大変なんだって……っ。

 だって、メミさんの配信の後からナーちゃんが全然返信してくれないんだよ! 

 でもってミチエーリさんから、『パパとかママって言われたのが、照れるし恥ずかしいんだって』ってタレコミ入ったんだよ!!

 今、マジで気まずいんだからな!? これならまだ、『忙しくて今は連絡出来ない』って言われた方が100倍マシだぞ!?


『すでに何年も活動を共にしたかのような息の合いっぷり。お二人をスカウトして正解でした。デビューしてからもその調子で頼みますよ』


『それはパパ次第ですね。何しろお兄ちゃんたちの中には、パパをパパと認めてない人もいるぐらいですし』


「そのお兄ちゃんたちとは気が合いそうですね。俺もパパとは認めてないですし」


『認知しないなんて最低です』


「言い方!! その言い方は語弊と誤解とすれ違いしか生まないからやめましょう!?」


『男として責任を取るべきだと思います』


「ちなみにあんまり言い過ぎると、ナー──安芸ナキア先生にも迷惑がかかりますからね?」


『どうして今、わざわざナーちゃんから安芸ナキア先生に言い換えたんですか!?』


「反応するとこそこなんですか!?」


 というか、そんな声出せたの!?

 さっきまでのクールな感じはどこいった!?


『人前だからって照れなくていいんですよ。メミはママとパパの自然体な姿が一番好きですから』


「やめましょうね? 本当にやめましょうね? ファンのノリを外に持ち出すと大抵ロクなことになりませんから。それで消えていったコンテンツ、いくつも知ってますよ」


『む、確かに。メミ反省です。気を付けます、パパ』


「途中まで!! 途中までよかったのに!! どうして最後の一言を付け加えちゃったんですか!?」


 急募:言うことを聞かない子に言うことを聞かせる方法。


『メミさんのキャラクターもあるので、元々お二人には兄妹をテーマに活動をしてもらおうかと思っていましたが、』


「いや待ってください、サラッと何を言ってるんですか!?」


 そんなテーマ一言も聞いてませんが!?


『メミは元々史上最強の妹なので、その場合試されていたのはパパということですね』


 メミさんもノらなくていいから!!


『今のお二人を見ていると、もっと相応しいテーマを思いつきました』


「あ、スルーして話を進めるんですね」


『知りませんでしたか? スルースキルはVTuberのマネージャーをする上で必須なんですよ』


「……苦労されてるんですね」


 何があってそんなスキルを必須と言うようになったかを想像すれば、色々と察してしまうじゃないか……っ。堂林さんも社会人だもんな! 色々あるよな!!


『堂林さん。安心していいですよ。メミはとても物分かりのいい子なので』


「どこが?」


『全てが』


「……」


 すごいわ、この子。思わず感心しちゃったよ。


『ふっ』


「? 堂林さん?」


『ああ、いえ。すみません。お二人のやりとりがあまりにも面白かったもので。初配信は1人ずつで、と考えていましたが、2人で一緒にいうのもいいかもしれませんね』


「え、そんなこと出来るんですか?」


 企業系VTuberの初配信なんて、よっぽどのことが無い限り1人ずつって言うのが定番だろうに。


『絶対に1人ずつで初配信をしなければならない、なんて決まりはありませんからね。特にお二人はすでにそれぞれのファンもいらっしゃいますし、2人一緒の方が新鮮味もあるかもしれません』


『それじゃあ、メミの初配信のタイトルは『新しい家族を紹介します』にしますね』


「待って待って!? それは2人で初配信をやるってことですか!?」


 え、嘘だろ……? それはちょっと待ってくれよ!! ブイクリでのデビューが決まってからこっち、俺はずっと『理想の初配信』を妄想してたんだぞ!? あえて初々しくやるか、スカウトされたとから冷静に振る舞うべきかとか、本当に色々考えてたんだけど!?


『大丈夫ですよ。お兄ちゃんたちは優しいので、きっとパパのことも受け入れてくれます』


「それはまあ、ちょっと心配ですけど……って、そうじゃなくてですね!?」


『メミさん、私からは『アットホームな同期』というタイトルを提案させてもらいます。先ほど思いついたテーマもそれなんですが、お二人にぴったりじゃないでしょうか?』


「……ブラック企業の求人票に書いてありそうな言葉ですねって、だからそうじゃなくて──ッ!!」


 なんで堂林さんもノッてるんだよ!?

 このままだと流れで初配信は2人でやることになるよ!?


『風通しのいい家庭ということでしょうか?』


「うわぁ、そこまで抵抗感のある日本語も中々無いですよ」


 って! 逆の意味でセンス良過ぎて、ツッコミの方向性が──ッ!!


『子どもの寝ている横で夜の営みが行われているんですね』


「それは筒抜けというか、もうちょっと包み隠しましょうね!?」


 ああもう!! なんだってメミさんはこうポンポンと変なことを言うんだ!! 反射的にツッコんじゃうじゃないか!! というか、今思ったけど、これはナーちゃんのファンって言われても納得だわ!!

 なんかこう、ボケの方向性が似てると言うか、割と下ネタに行きがちなのがそっくりなんだよ!!

 お兄ちゃんたちからセクハラコメント貰ってる的なこと言ってたけど、これ、メミさんが助長してる説ない……? スケベな妹って、それは何て言うか、需要あるよなぁ!? そういうことなのか!?


『では決まりですね。初配信は2人で、ということで。そうすると時間は1時間にしましょう』


 あ。

 しまった──ッ!!

 ツッコミに夢中になり過ぎた!!


『ふ、ついにメミが白日の下に晒されるということですね』


「それ、隠し事とかやましいことがある時に使う言い回しですよね」


 って、だからそうじゃないって!! ツッコむのはそこじゃなくて!!


『では言い直します。メミは素直で聞き分けのいい妹ですから。──ふ、ついにメミが露出するということですね』


「言い方!! 言い直した意味はどこにあるんですか!?」


『意味ばかり求めていては、本当に大切なものは見つからないんですよ』


「空っぽな言葉は名言にはなり得ないと知ってますか?」


『たとえそうだとしても、妹の言葉だからというだけで『名言』とはやし立てるのがお兄ちゃんというものではないのですか?』


「残念なことに、ここにお兄ちゃんはいないんですよ」


『!? なんと!! これはメミ、やらかしました!!』


 いや、うん。ごめん。なんかもう初配信は2人でいいかもしれない。

 なんかちょっとメミさんとのやりとり楽しくなってきちゃったし。

 でもさぁ、なんかこう、それだけじゃない辺りに大丈夫かなぁって心配はあるよね。

 楽しいんだけど、ヒヤヒヤするというかさ。

 ……初配信、何も無いといいなぁ。

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