第164話 実家のような空気感。これこそ俺たちの配信だよなぁ

『なんやろ。久しぶりやからやろな。この5人で配信してる時の空気感ってええなぁ。実家に戻ってきたみたいや』


『……実家でも犬扱いされてるの?』


『自分を犬扱いするのは姐さんだけやろ!? 息子を犬扱いする家族ってどんなやねん!?』


『いやほら、世間にはいるじゃん。家で肩見狭く過ごしてる人とか』


『言わんといて!! そんなこと言わんといて姐さん!! うちのオトンだって頑張ってんねん!!』


『え、思ったより身近な話だった……? なんかごめん』


『ま、尻には敷かれてても、言うて仲良くしとんねんけどな。ウチの両親は』


『じゃあ、よかったの……かな?』


『……何の話?』


『こら、ポチ。レオンハルトきゅんが困ってるじゃん』


『自分のせいなん!? これ、自分のせいなん!?』


『ん~? どうだろ』


『円那さんのこの感じってすごいよね』


『それに振り回されてる自分を労ってくれへん?』


『僕が? やだ』


『生意気──ッ!! それでこそレオンハルトやな──ッ!!』


『ええ……。何その反応』


『しっ! 触れちゃダメだよ。で、ところで何の話してたんだっけ?』


『久しぶりにこの5人で配信出来てええなぁっちゅー話やろ!? めっちゃエモいこと言ってたのに聞いてなかったん!?』


『あ、円那の分のブロック無くなった。誰か持ってない?』


『僕あるよ。あげる』


『ん~。レオンハルトきゅんは優しくていい子だねぇ。お姉さん、お礼にダイヤをあげちゃおうかな』


『え、いらない』


『辛辣なレオンハルトきゅんも可愛い~!!』


『……実家でのオトンって、こんな気持ちやったんやな。今度、一緒に酒でも飲みに行こか』


 あ~、うん。エイガの言葉を借りるわけじゃないけど、確かに久しぶりだ、この感じ。なんかこう、脈絡もなくわちゃわちゃしてるのが懐かしい。

 しばらくラブコメ主人公企画にかかりきりだったからなぁ。

 この間のアゲハちゃんとの配信や、埼京さんや英さんとの配信もそうだけど、雑なコラボ配信が逆に新鮮だ。

 ただまあ、なんて言うか……、


「なんですか? これは」


『…………』


『お、ようやっと戻ってきたか。遅かったやないか? ちゃんと資源は確保出来たんやろな?』


「出来ました。出来ましたよ!? でもその前に教えてください。みんなは一体何を作ってるんですか!?」


『まあまあ、いいからいいから。カレリンもおかえり』


『…………』


『あれ? カレリン? ミュートになってる?』


 いや違う。絶対に違う!!

 ただただ絶句してるだけだ。そうに違いない!!


『ん? ちょっとズレてる?』


『ホンマか? どれどれ~……。いや! 大丈夫やでレオンハルト! このままで大丈夫や!!』


『わかった』


「って、そうじゃなくてですね!! 何でしれっと作業に戻ってるんですか!? というか、何を作ってるんですか!?」


『なんやアズマ。そない矢継ぎ早に。なんか気になることでもあるんか?』


「無いわけないですよね!? 俺とカレンちゃんに資源を獲りに行かせて、一体何を作ってるんですか!?」


『何って。見てわからへん?』


「わかりたくないから聞いてます!!」


『思い出だよ、東野ちゃん』


「エモく言ってもダメですよ!?」


『思い出や──ッ!!!!!!』


「叫べばいいってもんでもないですからね?」


『Memory』


「英語!? まさかの英語!?」


 というか、レオンハルト!?

 お前、一体いつからそんな芸を身に着けた!?


「なんですか今の三段活用は!? って、そうじゃなくて!! 久しぶりにみんなでワルクラで遊ぼうって話でしたよね!? 人をお使いに行かせて作ってたのがこれですか!?」


『あ、せや。ちょうどブロックが足りんくなってきたんや。アズマ、カレンちゃん。採ってきたもん、このチェストに入れてくれへんか?』


「いやいやいや、ツッコミを無視して話を進めないでください!! そんなことされたら、二度とエイガのボケにツッコミませんよ!?」


『ふっ、いつになく必死やないか、アズマ』


 ~~~~っ、なんだそのテンション!?

 エイガのくせに──ッ!!


『東野ちゃんが『ツッコミをスルーするな』って叫び始めるのも間もなくかな』


「そんな日は一生来ませんからね!?」


『そんなこといいから。にーちゃん、資材ちょうだい。はやく』


「レオンハルト~~~~!?!?!?!?」


『あっはっはっはっはっはっはっは!!!! ええで! レオンハルト!! その調子や!!』


『最っ高!! 今のすっごいおもしろかった!! ねえねえ東野ちゃん!! もう一回今の声出してよ!!』


「絶対にイヤです!!」


『え~、そんなこと言わないでさ。ねえ、カレリンだって聞きたいよね?』


 ──ッ!? そうだ、カレンちゃんだ!!

 カレンちゃんだってこんなものを作られたら黙っていられないはずだ!!


「カレンちゃんからも言ってやってくださいよ。俺らをお使いに行かせて、三人でものを作ってたなんて、許せますか!?」


『ふっ』


「ふっ? え、カレンちゃん?」


 なんで?

 なんで笑った?


『そんなことより、わたし気づいちゃいました』


「そ、そんなこと……?」


 どうしたんだ、カレンちゃん。

 いつもなら『なんですかぁ!? これぇ!!』とか真っ先に叫んでるはずなのに!!


『これまで散々、カレ虐カレ虐って言われてきました。わたしが叫べばコメント欄には『カレ虐GG』が溢れかえってました。ですがもう、そんな時代は終わったんです!! 時代はそう、『アズ虐GG』です──ッ!!』


「くだらないこと言ってないで俺たちも作業しますよ」


『いったぁ──ッ!! 殴ったぁ!? アズマさん──ッ!?!?!?』


「ありがとうございます、カレンちゃん。おかげで俺も冷静になることが出来ました」


『それが女の子を殴って言うセリフですかぁ──ッ!?』


「エイガ。俺は何をすればいいですか?」


『無視!? まさかの無視ですか!?』


『にーちゃん、こっち手伝って』


「わかりました。あ、ラナさん。これ追加の資材です」


『ん。ありがと』


「それにしてもすごいですね。俺たちが資材採りに行ってから、二時間ぐらいしか経ってないのに、こんな大きなものを作っちゃえるなんて」


『え、ほんとにほんと!? 完全に無視!? ね、ねえ、みんなぁ──ッ!! もしもーし──ッ!?!?!?』


『ポチがすごいんだよねぇ』


『ハマってるよね、エイガさん。ワルクラに』


『せやなぁ。やっぱ色々できるんがおもろくてなぁ。リスナーたちもめっちゃ教えてくれるし、楽しいねん』


「へぇ、俺はどうにも苦手なんですよね。建築も四角いやつしか作れないですし」


『へっへっへ。アズマ、そこはセンスやで、セ・ン・ス』


「ツッコみたいけど、これに関してはツッコめないですね。今日もログインしてビックリしましたし。気づいたらいろんなものが出来てて」


『ひとりでせっせとやってたんやで? ……さみしかったんやけどな』


『今日はみんないるから』


『そうだよ。みんないる』


「ですね。みんないますよ」


『ねぇえ──ッ!? それほんとにみんないる!? わたし!! わたしもちゃんといる!?』


「あ、カレンちゃん。さっき採ってきた資材はここのチェストに入れておけばいいみたいです」


『カレリンはこっち手伝って~』


『道具が無かったらここで作って。カレンさん、作り方わかる?』


『もうちょっとで完成やで。カレンちゃんも手伝ってぇな』


『みんなのあったかさが嬉しいのに、なんかモヤモヤするよぉ!?』


「いつものカレ虐ですよ。気にしないでください」


『このメンツの配信やからね。こうでないとアカン』


『実家感あるよね~』


『僕らの配信って感じ』


『本気!? 本気で言ってるのぉ!? こんな実家、わたしはヤダよ!?』


「ほら、リスナーさんたちもコメントしてますよ。『やっとか』『はじまったな』『カレ虐GG』って」


『リスナーさんまでそっち側なのぉ!? って、わたしのリスナーさんまで『カレ虐GG』って言ってるのはおかしくない!?』


『まあまあ、ええやないの。みんなが配信を楽しんでくれてるってことや。ほなら、ちゃちゃっと完成させよか』


『ていうか、なにこれ!? なんでこんなもの作ってるの!?』


『……え~、今~?』


『いいじゃん、今だって!! だって!! ずっとみんなが変な事言うから!! ──なにこれ!?』


『何って。相合傘。にーちゃんとカレンさんの』


『レオンハルト君!? そんな冷静に言わないで』


「エイガ。ここって色合ってます?」


『ん? ああ、バッチリやで!!』


「OKです」


『アズマさんも何で普通に建築してるんですかぁ!? あ、相合傘ですよぉ!?』


「んー、まあ、ここまで出来ちゃってますし」


『そんな受け入れ方しないでぇ!!』


 受け入れるも何も、配信だし。ネタだし、ねえ?

 ……まあ、ナーちゃんからは死ぬほどチャットが来てるんだけど。


『最後の仕上げはアズマとカレンちゃんに任せよか。2人でてっぺんのハートを作ってくれへん?』


『へぇ!?』


「OKです」


『へぁ!? ア、アズマさん!?』


「色はピンクですか? 赤ですか?」


『んー、どっちがええやろ。姐さんとレオンハルトはどう思う?』


『円那的にはピンクかな~。傘が赤いし』


『僕もピンクがいいと思う』


『じゃあ、ピンクやな! ドーンと頼むで、ドーンと!! これも自分らの配信活動の思い出やからな!!』


「OKです」


『アズマさん!? さっきから『OKです』しか言ってないですよ!?』


「OKです」


『無心じゃないですかぁ!?』


 いやだって、作業感を出しておかないとナーちゃんに言い訳出来ないし。


『ああもう! わかりました!! 作りますよぉ!!』


 ということで、最後はやけくそ気味なカレンちゃんの叫びと共に、俺たちのワルクラのサーバーに相合傘のバカでかいオブジェクトが出来上がったのだった。

 ……ちなみにこの後、ごねるナーちゃんとプライベート用のワルクラサーバーを用意して、さらにデカい相合傘を作る羽目になったのは、また別の話だ。

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