第160話 つまり俺の彼女は可愛いってこと

『ウチさー、アズマさんってもっと真面目な人だと思ってたんだよね』


「待って待って待ってください!? アゲハちゃん!? 何の話してます!? その後に続くのって大体よくないことですよね!?」


『だってさー、色んな女の子たぶらかしてたじゃん。悪い大人だよねー』


「もしかしなくてもラブコメ主人公企画のこと言ってますよね!? 企画!! あれは企画ですから──ッ!!」


『ああ、そうやって言い訳しちゃうんだ』


「アゲハちゃん!! アゲハちゃん!! 確かに今は暇してますよ!? 敵も来ないし、俺らもハイドしてるから確かに暇ですよ!? だからって人を炎上させようとするのはよくないですよ!?」


 EX.のプレイ中、最も手持ち無沙汰になる瞬間第一位。

 それは今の俺とアゲハちゃんみたいに、ひたすら敵がやって来るのを待ってる時間だ。

 多分これ、しばらくは移動しなくてもいいし、かと言って周りに敵の足音も聞こえないしなぁ。


『あはは! ウケるね、それ!! アズマさん、暇つぶしで炎上しちゃうんだ』


「この場合、アゲハちゃんの暇つぶしで炎上させられることになりますが!?」


『え~、どうせ炎上するならもうちょっと違う感じがいいなぁ』


「いやいや、なんで炎上の仕方に理想を抱いてるんですか」


『ほら、話題にはなるしワンチャンそれでバズるかもしれないし』


「圧倒的にリスクの方が大きいんですが!?」


『ノリでなんとかなるっしょ!!』


「そればっかりはギャルのノリでも何ともならないと思います!!」


『言えてる~』


 暇の極致みたいな中身のない会話。

 ……中身は無い癖にリスクはあるって、どういうこと!?


『ウチも結構見てたけど、おもしろかったよ。あの企画』


「俺はひたすら気疲れしましたけどね」


『次やるときはウチもヒロイン役で呼んでよ』


「次なんて予定はないんですよ」


『え~、やろうよ~』


「逆になんでそんなにやりたがるんですか?」


『ほら、ウチってギャルじゃん?』


「ですね。知ってる限り一番ギャルだと思います」


『で、アズマさんってオタクじゃん?』


「いやまあ、そうですけど」


『お! オタクって認めるのはちょっと抵抗ある感がガチっぽい!!』


「そういうこと言って来るからギャルは嫌いなんですよ!!」


『でもでも、オタクに優しいギャルは好きでしょ?』


「……」


『あ! その無言は好きって反応!!』


「いやまあ? 別に嫌いってわけじゃないですけどね。それにほら、オタクがみんなギャルが好きなわけではないですしね?」


『うわ~、見栄張ってる~。ホントは好きなくせに~』


「いやいやいやいや。まあまあまあまあ」


『その微妙に濁す感じ、ホントは好きなんでしょ?』


「いやいやまあまあ。そこはほら、ね? 人それぞれ好みってあるじゃないですか」


というかですね。今見てるんだわ、この配信を、ナーちゃんが。

下手にギャルが好き! とか言ったら、どうなるか……。


『え、ちなみにさ。アズマさんの好きなタイプってどんななの?』


「──ッ!? げほっ、げほっ、ぅえっほっ!!!!」


『え、え、え!? なになになに!? ウチそんなに変な質問した!?』


「いえ、大丈夫です。何でもないですから。すみません、突然」


『あ~、ビックリしたぁ』


「何て言うかあれです。最近ずっとラブコメ主人公なんてことをやってたので、そういう質問来ると変に身構えてしまうんですよね」


『なんかもう職業病みたいになってるじゃん!!』


「実際大変でしたから。配信する度にリスナーさんたちから『で、誰が好きなの?』とか『誰がタイプなの?』とか言われてましたから」


『ちなみにそういう時ってアズマさんは何て返すの?』


「それはもうラブコメ主人公ですからね、『今何か言いました?』とか『え、何の話ですか?』とか言ってました」


『うわ~、そうやってはぐらかすのが一番ダメなのに』


「それが許されるのがラブコメ主人公なんですよね」


『それきっと誰も許してなかったって~』


「……確かにそうみたいですね」


『? アズマさん?』


「今、俺のコメント欄すごいですよ」


『え、え。マジ? どんな感じ?』


「『正直イラっとした』『殴られても文句はなかったよな』『なんでVTuberってスパチャでしか殴れないんだろう』『配信見てて台パンしたのはあれが初めて』って言われてます」


『ヤッバ!! え、マジで!? それめっちゃウケるんだけど!!』


「こんなのでアゲハちゃんが笑顔になってくれるなら俺も体を張った甲斐がありました」


『じゃあ、もっと体張って貰おうかな』


「と、言いますと?」


『ここに敵来てるからやって来て』


「1人でですか!?」


『カバーはするよ!』


「そういう問題じゃないですよね!?」


『いけるいける~』


「いけませんから!! それに野良の方もいるんですよ!?」


『しょうがないな。じゃあ、3人で行こう!!』


「了解です!!」


『1人やった1人やった!!』


「ごめんなさい。やられました!!」


『OK、大丈夫!! 任せて!!』


「こっちこっち!! 別のパーティー来ました!!」


『え、マジ!? って、これキツいんだけど!?』


「右右右!!!! 右からも来てます!!」


『嘘──ッ!? それは無理だってー!!!!』


「どんまいでーす」


『ごめーん』


「いやいや、今のはしょうがないですって」


『途中までめっちゃ暇とか言ってたのに、最後めっちゃ忙しかったんだけど』


「めちゃくちゃ寄って来てましたからね。あれはどうしようもないです」


『どうしよっか? ウチはまだ行けるけど』


「俺もまだ大丈夫ですよ。あ、でもボチボチ3時間ぐらい経つんですね」


『次、ラストにする?』


「そうしましょう」


『じゃあ、最後に気持ちよくクラウン獲って終わりにしよう!!』


「ですね。そうしましょう」


 なんて時に限ってあっさりと負けたりするんだけどね。

 配信あるあるだ。気合入れた時に限ってしょーもないことになったりする。


『最後マジでさぁ』


「まあまあ、あんなもんだと思いますよ」


『次やるときは絶対にクラウン獲ろうね!』


「ですね。今度またリベンジしましょう!!」


『じゃあ、アズマさん。お疲れー、またねー!!』


「はい。お疲れ様でした。リスナーの皆様も、今日も見てくれてあざまるうぃーす!! それではまた次回の配信で!!」


 そんな感じで今日も今日とて楽しく配信出来ました、とさ。

 で、爽やかに終われればいいんだけど、最近はそうは問屋が卸さない。

 だから、着信を知らせるディスコードのアイコンをタップする前に、ちゃんと配信は終了しているか、万が一がないようにマイクもミュートになっているかチェックしないといけない。


「早くないですか? 俺、トイレにすら行けてないんですが」


『あら、じゃあこのまま行けばいいじゃない』


「彼女に通話しながらトイレって、さすがにそれは高度過ぎませんか?」


『そういうプレイだと思えばいいんじゃないかしら』


「俺はもうちょっと普通の彼氏彼女の関係を楽しみたいんですが……」


『わ、悪かったわね!! 普通じゃなくて!!』


「いやまあ、ナーちゃんらしいと言えばらしいですけど。……せっかく通話してるのに、いつも通りって言うのも味気なくないですか? 配信じゃないんですから」


『ふ、ふん。ズマっちがそう言うならしょうがないわね。でも気を付けないよ? 配信の時に今みたいなこと言ったら、すぐにバレちゃうわよ。私たちが付き合ってるって』


「それはお互いさまと言いますか、ナーちゃんの方が気を付けた方がいいんじゃないですか? 昨日の寝落ちなんて」


『あ、あれは!! ……あれは違うわよ。それに、さすがに私だってあんなの配信じゃやらないわよ』


「本当ですか? うっかり出ちゃいません?」


『だったらズマっちはどうなのよ。昨夜だって、私が好きって言うまで寝ないとか言ってたじゃない』


「先に言ってきたのはナーちゃんの方じゃないですか!!」


『私は、好きな人の声を聞きながら寝るのって幸せねって言っただけよ』


「その後ですよ。『だから好きって言って』って言ってたじゃないですか」


『言ってないわよ、そんなこと』


「絶対言ってました」


『覚えてないわね』


「半分寝てましたしね」


『いいのよ、そんなことはどうでも。それよりズマっち』


「なんですか?」


『私、髪染めた方がいいかしら?』


「……なぜに?」


『好きなんでしょう? ギャル』


「──ッ!? な、何を!?」


『……今日の配信、いつもより楽しそうだったわ』


「そんなことないですよ!?」


『あったわよ!!』


「だからって髪染めるのは違くないですか!?」


『だって! ……そっちの方がズマっちに可愛いって思って貰えるなら、そうしたいじゃない』


 なんて感じで、近頃は配信が終れば必ずナーちゃんと通話をしている。

 ちなみにこれは最近気付いたが、どうにもナーちゃんは俺が女の子とコラボしてたら、その配信時間以上に通話しないと気が済まないらしい。俺の彼女、あまりにも可愛すぎないか?

 ……12時間コラボとかしたらどうするつもりなんだろう、とか思ったりするけど、さすがにそれは試す気にはなれない。

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