第159話 ご報告動画は出さないけど、この人には報告しないと

『本当にごめん。もう一回聞いていい?』


「だから、付き合うことになったんですって」


『誰が? 誰と?』


『私と、……ズマっちが』


『え? え? え? ……ごめん。もう一回聞かせて? え、何? ラブコメ主人公企画って終わったんじゃなかったっけ?』


「終わりました。その企画はもう終わったんですよ、ミチエーリさん。企画とか関係なく、俺とナーちゃんは付き合うことになりました」


『……本当に? 実は今配信してて、私にドッキリを仕掛けてるとかじゃなくて?』


『ミチェ。逆に聞きたいのだけれど、そんなに信じられないのかしら?』


『うん』


 いや、うん、て。

 そんなにあっさり頷かれると、それはそれで傷付くんだよなぁ!?


『本当に本気? 本っ気でナキアとアズマさんが付き合うことになったって言ってるの?』


「本当です。本気で俺とナーちゃんは付き合うことになりました」


『………………………………………………………………本当に?』


『本当だって言ってるでしょ?』


『え。だってあのナキアと、あのアズマさんだよ?』


「ミチエーリさんが俺たちのことをどう思ってるのか、一度じっくり聞いておく必要がありそうですね」


『そうね。一体私たちを何だと思ってるのかしら』


『何って言われても……。めんどくさい拗らせ女と、鈍感唐変木ラブコメ主人公?』


「……否定できないかもしれません」


『何言ってるのよ、ズマっち!?』


「だってナーちゃん、よく考えてください。これまでの俺たちを。ひたすらダラダラと乳繰り合ってたんですよ? それをこの距離感で見てたミチエーリさんには、何を言われてもしょうがないと思うんですが──ッ!!」


『何よ、ダラダラ乳繰り合ってたって!! 違うでしょう? 少しずつ距離感を縮めてたんじゃない。そうよね? それがやっと付き合うまでになったんだから、むしろミチェは私たちを祝福するべきよ』


『ナキアってさ、やっぱり図々しいよね』


『当然でしょう? 安芸ナキアから図々しさを取ったら何が残るって言うのよ』


「変態ですかね」


『めんどうささとか?』


「意地っ張りも残りそうですよね」


『ヘタレは絶対に残るよね』


『何よその言い草!! ズマっち!! あなた私の彼氏じゃないの!?』


「ナーちゃんのダメなところも含めて可愛いって思ったから告白したんですよ?」


『……ならいいわよ、バカ』


『あ~~~~~~~~…………』


「ミチエーリさん? どうしたんですか?」


 何とも言い難い感情を乗せたような声を出して。


『何て言うか、今信じた』


「何をですか?」


『2人が付き合いだしたの』


「今まで信じてなかったんですか!?」


 3人で通話を始めてから、もう40分ぐらいは経つんですが?

 その間ずーっと付き合うことになったって話してたんですが?

 むしろ会話がループし過ぎてて、どうしようかと思ってたんですが?


『これまではさ、2人のそういうやりとり見せられると、一生やってろって思ってたんだけど、今は2人はこういうやりとりを一生やっていくんだろうなって思ったよ』


「……どういう納得の仕方ですか」


『末永くお幸せに……?』


『ちょ、ちょっとミチェ!! 何言ってるのよ!! まだ付き合い始めたばかりなのに、末永くなんて、……結婚なんてそんな、ね、ねえ?』


「……それは俺に対する『ねえ?』ですか?」


『べ、別にそういうわけじゃないわよ? でもほら、なんていうか、け、結婚とか? 一応ね、一応考えておいてもって感じというか……わかるわよね!?』


「ミチエーリさ~ん。ナーちゃんがとんでもなく浮かれてるんですが~」


『浮かれさせた張本人が言わないでよ!! というか、アズマさんも実はそういうこと考えたりしてない? 今、声がニヤついてた気がするんだけど!?』


「いやいやいや、何を言ってるんですか。そんなこと考えるわけないじゃないですか。それにですよ、もし、もし結婚なんてことになったらどうするんですか?」


『すれば?』


「いやいやいや! よく考えてください。今の俺は専業VTuberですよ? 将来どうなるかもわからないじゃないですか。それでナーちゃんを支えて行けるか、とか。やっぱり色々考えちゃうじゃないですか。ねえ?」


『……それは誰に対しての『ねえ?』なの?』


「誰に対してと言いますか。俺はナーちゃんを不幸にしたくないだけなんですよ!!」


『も、もう!! ズマっちってば!! ちょっと気が早すぎるわよね? ミチェもそう思うでしょ?』


『……さっさと報告だけ聞いて通話を切らなかった過去の私は何をしてたんだろう』


 はて?

 何度付き合うことになったって言っても信じなかったのはミチエーリさんなのに、一体何を言ってるんだろうか?


『あーもう。とにかくわかった! わかったから!! 2人は付き合うことになったんだね。おめでとう!!』


『ミチェにはずーっと相談していたもの。一番最初に報告したかったのよ』


「あ」


『あ?』


『何よ、ズマっち。その『あ』は』


「ああいや、あはは~、俺、実はもう戸羽ニキに報告しちゃっててですね……」


『ちょっと! なんで1人で報告しちゃうのよ!! そういうのは2人で一緒にやるものでしょう!?』


「ああいや、ナーちゃんと付き合えたのが嬉し過ぎて、つい」


 それに、それこそ戸羽ニキにはめちゃくちゃ相談とかしてたから、早く報告したかったし。


『そう。私と付き合えたことが嬉し過ぎたのなら、仕方ないわね』


『というか、わざわざ2人でする必要ある? 付き合ったってだけでしょ?』


『い、いいでしょう、別に!?』


『いきなり2人から『話がある』ってディスコードに呼び出された時の気持ちがわかる!? 何かあったんじゃないかって思ったんだよ!?』


「それは申し訳ないです。ですが、ナーちゃんが『ミチェには2人で一緒に報告しなきゃダメよ!』って頑なに言い張るもので」


『それは嬉しいよ!? それは嬉しいけどさぁ……。まあ、いいか。2人がなんか幸せそうにしてるし。色々と相談に乗った甲斐もあったよ』


「ミチエーリさんには本当に色々とお世話になりました」


『ミチェがいてくれたおかげよ。私たちが今こうしていられるのは』


『はいはい。わかったわかった。で、このことは黙っておいた方がいいんだよね?』


「ええ、そうしてもらえると助かります」


『ラブコメ主人公企画に参加してた皆にも?』


「……それは、はい。みんなには折を見て話していこうと思っていますので」


『ふーん。いいけど、あんまり拗れさせないようにね』


「はい。わかってます」


『あと、あんまり放置し過ぎて他の女の子と仲良くしてると、ナキアが嫉妬するよ』


「はい。わかってます」


『ちょっと!? 何よそれ!? 私がそんなことするわけないじゃない!!』


『するよ、ナキアは』


「俺もすると思ってるので、気を付けようと思ってます」


『ミチェはともかくズマっち!? それは本気で言ってるのかしら!?』


『じゃあさ、ナキア。想像してみて? アズマさんが女性VTuberと配信で仲良くしてて、リスナーから『てぇてぇ』ってコメントされてたら?』


『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』


「あ、あれ? ナーちゃん?」


『きっと今、色々と妄想してるだろうからちょっと待ってようか』


「いや、妄想って……」


 確かにその方がナーちゃんらしいけど、でも妄想って……。

 他に言い方無かったのか?


『ぐす……っ』


「ぐす?」


『あ』


『イ、 イヤよ、そんなの。ぐすっ、ねえ、お願いよズマっち。私と別れるなんて、い、言わないで頂戴……。ずず……っ。な、直すから。ダメなところはちゃんと直すから。だ、だからお願いよ。私を捨てないでぇ……。うぅ……、ぐすっ』


『あ~……』


「いやいやいや! なんですかその反応!? ミチエーリさん!? どうするんですか、これ!!」


『頑張れ、彼氏』


「うぉーい!! って、マジで通話切った!? え、嘘でしょう!?」


『うぅ、ヤダぁ。イヤよぉ。ズマっちと別れるなんてイヤなのぉ……。ねぇえ、他の子と仲良くしててもいいから、別れるなんて言わないでぇ……。わ、私、ズマっちがいなくなったら……。うぅ、ヤダぁ……』


「大丈夫!! 大丈夫ですから!! 俺はナーちゃんと別れたりなんかしませんから!!」


『本当? 本当に? そんなひどいことしない?』


「しませんってば!! 俺はナーちゃんのことが大好きなんですよ? なのに別れるなんて、そんなことするわけないじゃないですか」


『もっと』


「もっと?」


『もっと大好きって言って頂戴』


「ナーちゃんのことが大好きです」


『愛してるも』


「ナーちゃんのことを愛してます」


『……ふふ。私もズマっちのことが大好きだし、愛してるわよ』


「ええ、俺もナーちゃんのことが大好きですし、愛してますよ」


 とまあそんな感じで、この後ナーちゃんが満足するまで延々と『大好き』と『愛してる』を言い続けましたとさ。

 通話が終ったあと、思わずミチエーリさんと戸羽ニキにチャットしちゃったよね。俺の彼女、めちゃくちゃ可愛いくないですか? って。

 2人からは『よかったね』って返ってきた。

 はい! こんな可愛い人が彼女になってくれて、死ぬほどよかったです!!

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