社畜営業がVTuberに転生したら ～社畜時代に培ったトークスキル。それとゲームセンスで成り上がる！？～

第158話 俺が好きなのは……

「あら、ズマっちだけ？　他のみんなは？」

「なんか戸羽ニキが話があるって言って連れ出してましたよ」

「？　そうなのね」

「……はい」

　戸羽ニキには今度絶対に焼肉奢る。

　マジで頭が上がらない。

　VTuberになってから世話になりっぱなしだ。

「それにしても、今回も大変な目にあったわ」

「本当ですね。《企画屋》の企画って、どうしていつもこうハードなんでしょう。それが彼らの人気の秘密なのかもしれませんけど」

「ぴょんこたちもそうだけれど、ズマっち、あなたもよ」

「俺ですか？」

「そうじゃない。ここ最近なんかバタバタしてるのは、ズマっちがいるからよ。まあ、楽しいからいいけど」

「……本当ですか？」

「ええ、まあ。なんだかんだ言って楽しんでるわ」

「そうですか。それはよかったです」

　って、違うだろ、俺！！

　いつまでこんな普通の会話をしてるんだ！！

　他に言うべきことがあるだろ！？

「戻ってくるのかしらね、フメツたちは」

「あ～、どうでしょうね」

　多分、今日はもう戻ってこない。

　だって戸羽ニキには、彼女と、ナーちゃんと二人きりにしてくれってお願いしたから。

　……俺が、ナーちゃんに告白するために。

「待っててもしょうがないし。私たちも帰りましょうか」

「あ、か、帰るんですか？」

「帰るでしょう。だってもう用事ないじゃない」

「あ、あはは。そうですよね……」

「？　どうしたのよ、ズマっち。疲れてるのかしら？」

「あ、あはは。そ、そうかもしれませんね……」

「だったら尚更早く帰りましょう。私も今日はゆっくりしたい気分だわ」

「ま、待ってください──ッ！！」

「ズマっち？　なによ、さっきから。何か言いたいことでもあるの？」

　言え！！

　言うんだ、俺！！

　今しかない！！　今言わないと、この先もうタイミングなんてないぞ──ッ！！

「あ、その、えっと……」

「なによ？」

「あ、や、だからですね……」

　ヤッバい──ッ！！　え、ヤバいよこれ！？

　緊張感が死ぬほどエグいんだけど！？

　初配信なんか比じゃない！！　戸羽ニキに初めて凸ったあの時よりも、ずっとずっと緊張する──ッ！！

「すぅー、はぁー」

「本当にどうしたのよ」

　よし。

　よしよしよし。

　大丈夫だ。言える。絶対に言える。

　さっきだって言えたじゃないか。

　企画とは言え、VTuberとしてとは言え、ちゃんと言えたじゃないか。

　愛してるって、目の前にいる、一番好きな人に。

　だから今度だって大丈夫だ。

　言える。言いたい。

　伝える。伝えたいんだ。

　──ナーちゃんに！！

「す」

「す？」

「好き、……です」

「？」

　ああもう、こんな小声じゃ伝わるもんも伝わらないって──ッ！！

　ちゃんと言うんだ。

　配信の時みたいに、元気よく、ハキハキと。

　思い出せ。『あざまるうぃーす！！』とリスナーたちに言ってるあの時を。

「好きです」

「ズマっち？」

　伝えろ。伝えろ。伝えろ。

　気持ちを。想いを。

　好きだって言葉を。

「好きです」

「は、え……？」

　言うんだ、ちゃんと。

　何を思ってるのか。

　どう思ってるのか。

　今目の前にいる、世界一可愛いこの人に。

「好きです。ナーちゃんのことが」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………《え、なんだって？》」

「企画じゃないですよ！？　無かったことになんてなりませんからね！？」

　そう、無かったことになんてならないのだ。

　言ってしまった以上、伝えてしまった以上。

　もうこの言葉は無かったことになんて出来ない。

「俺、ナーちゃんのことが好きです。俺と、付き合ってください」

「ちょちょちょ、え、ええ！？　な、え、な、えぅあぅえ……？？？」

「……せめて日本語で喋ってください」

「そ、そんなこと言ったって……。だって……、あぅ」

　…………なんだこの可愛い人は。

　顔真っ赤にして、口をパクパクさせて、目をグルグルさせて。

　わけがわからないって言いたげに、信じられないって言いたげに。一生懸命に、俺を見て来る。

「ほ、本気……？」

「はい」

「本当に本気？　本気で言ったの？」

「はい。本気でナーちゃんに告白してます」

「こ、ここここ、こく──ッ！？」

「……ニワトリの真似ですか？」

「そんなわけないでしょう！？　なんでこんな時までツッコむのよ！？」

「いやまあ、クセで」

「ああもう！　違くて、そうじゃなくて。え、えっと、ごめんなさい」

「え！？」

　フラれた！？

「あ、ちが！　違うわよ！？　そういう意味の『ごめんなさい』じゃなくて、なんていうかその、えっとね！？　待って。ちょっと待って頂戴」

　ナーちゃん、深呼吸中。

　うわ、次に何言われるんだろ。こわ。

「ほ、本気なの、ね？　本気で、好きって、ズマっちはそう言ったのね？」

「は、はい」

「き、企画じゃなくて？」

「はい。企画じゃないです」

「ドッキリでも無くて？」

「それ、同じ意味じゃないですか？」

「う、うるわいわね！？　いいから答えなさいよ！！　企画でも、ドッキリでも、冗談でもないのね！？」

「はい。企画でもドッキリでも冗談でもないです。俺は本気でナーちゃんが好きで、心の底から付き合って欲しくて、本当に告白してます」

「す、好き。つ、付き合う……。告白。……えへ」

　あ、笑った。

　めっちゃ可愛い。

「そ、そうなの。ふぅん、そうなの。本気で、心の底からで、本当なのね？」

「はい。本気で、心の底からで、本当です」

「……もっかい」

「好きです」

「……もっと」

「俺はナーちゃんが好きです」

「ダメよ。もっとちゃんと、本気で、心の底から、本当に、……気持ちを込めて言って頂戴」

　～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～！？！？！？！？

　なん、だそりゃ！？

　なんでそんなに可愛いってか、ああもう！　いくらだって言ってやる。

「好きです、ナーちゃん。俺と、付き合ってください」

「ええ、もちろんよ。私も、ズマっちのことが、……好きよ」

「～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～！？！？！？！？」

　いや、いや、いや──ッ！！

　可愛い過ぎないか！？　安芸ナキア！！

　いや、え、ちょ、ええ！？

　こ、こんな可愛かったっけ？　ナーちゃんって……！？

「……な、なんで黙ってるのよ」

「……ナーちゃんが可愛すぎて、つい」

「か、かわ──ッ！？　な、なに言ってるのよ、いきなり！！」

「いいじゃないですか、別に！！　そう思ったんですから！！」

「だ、だからって。そんないきなり言われても、……嬉しいけれど」

「──ッ！？　な、え、あれぇ！？」

「な、なによ、その反応！？」

「な、何って！！　だってしょうがないじゃないですか！？　今までそんな素直なナーちゃんを見たこと無いんですから！！」

「な！？　す、素直よ、私は！！」

「そんなわけ──ッ、…………………………………………確かにそうだったかもしれません」

「急に冷静にならないで頂戴」

「いえ、思い返せばナーちゃんは随分前から素直だったような気がして」

　何ていうか、こう、本人は隠してるつもりなんだろうけど、隠しきれてない気持ちが溢れてたり、ね？

　配信とか、オフで会った時とか、色々思い返すと……、というか、あれ？

「俺ってもしかして、ずっとナーちゃんの可愛さに気付いてなかった……？」

「……………………私って今、告白されたのよね？」

「はい。しました」

「でも、可愛さに気付かれてなかったのよね？」

「だけど好きだとは思ってましたよ？」

「～～～～～～～～～～──ッ！！！！！！　もういいわ！！　この話はおしまい！！　帰るわよ！！」

「あ、ちょ！？　ナーちゃん！！　待ってくださいってば！！　なんでそんなに早歩きなんですか！？」

「早くスタジオから離れたいからよ！！」

「どうしてですか？」

「……誰かに会うかもしれないここじゃ、手も繋げないじゃない」

「あ」

「早く行くわよ」

「はい」

　　　▼

「……よかったじゃないか。アズマ」

　深夜、ディスコードには普段の彼からは想像が出来ないようなテンションのチャットが届いていた。

　まずは感謝。そして告白がうまく行ったと言う報告。

　ナキアと手をつないで帰った話は、正直いらなかったかもしれないが、ああして背中を押したアズマの恋路が無事にうまく行ったようで、フメツとしても一安心だ。

　あの2人がこれからうまくやっていけるかどうかは、まあ、大丈夫だろうと思うことにする。

　何しろ普段からあれだけ息の合った2人なのだ。きっとうまくやっていくだろうし、もし何かあったら、その時はまた相談に乗って手を貸してやればいい。

「さてと。起きてるかな？」

　アズマへの返信はほどほどに、フメツはとある人物へと通話をする。

「あ、もしもしマネージャー？　遅くにごめん。でも、これだけは言っておかないとって思って。僕らのチャンネルの登録者数、見た？　《歌ってみた》の再生回数もすごい伸びてるし、これならいいでしょ？」

　フメツは自身が笑みを浮かべてることに気付いているのだろうか？

　これからの楽しみを想像して、自然と頬が緩んでいることを自覚しているのだろうか？

　ワクワクを隠せていない表情のまま、フメツは告げる。

「約束通り、アズマをブイクリにスカウトしてよ」

　VTuber生活は、これからもきっと楽しくなる。

　フメツは言外にそう告げていた。

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　読者のみなさま

　いつもありがとうございます。藤宮です。

　前回のアンケートですが、結果は下記の通りでした。

投票数：158票

Q.君の推してぇてぇはどれ？

①フメアズ：6.3%

②ナキアズ：50.6%

③カレアズ：9.5%

④ムエアズ：33.5%

　普段のコメントなどから、ナキアズが人気なんだろうな、とは思ってましたが、まさか過半数を獲得するとは思ってなかったです。すごいですね。

　さて、少し今後のことについて触れさせていただきます。

　今回の158話と合わせて、2つのIfを上げさせていただきました。今後もこうした形で、カレンやムエナとの絡みはIfとして書こうと思っています。（もちろん引き続き作中にも出てきます。それ以上の関係性の絡みはって意味です）

　なぜならオタクにとって一番つらいのは供給が途絶えることだから。

　ぶっちゃけ、3人の中で最も僕の性癖刺さってるのがナキアなので、こういった展開になってますが、カレンとムエナとのイチャイチャも書きたいって気持ちはあります。

　もし読者の皆様の中に、カレンとムエナとのこんな絡みが見たい！といったものがあれば、ぜひコメントやTwitterなどで教えてください。刺さるものがあれば書かせてもらおうと思います。　※全部は無理なので過度に期待はしないでください。

　ナキアとの絡みは、作者の好きに書かせてもらおうと思っている分、カレンとムエナに関しては、読者の皆様の好みも聞きながら書けたらいいなって思っています。

　それでは引き続きよろしくお願いいたします。

藤宮

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