第158話-If② もしも彼女に告白したら
「う~。まだ顔が熱いよ~」
「しばらくの間は、思い出す度に恥ずかしくなりそうですね」
「む」
「? ムエたん?」
「むむ」
「え、なんですか? ムエたん?」
「むむむ。……ねえ、みんなはもういないよね?」
「ええ、そうですね」
カレンちゃんとナーちゃんは、さっき戸羽ニキが話があるとどこかに連れて行ってしまった。
だから今ここには俺とムエたんしかいなくてって、……あ。
「ごめん。エナ」
「いいよ! 許してあげる!」
「ありがと」
「へっへっへ~」
「え、今度は何!? なんかおかしなことあった!?」
「ううん。ただ、思い出してただけ」
「思い出してって、……何を?」
「なんだと思う?」
「何って……、昨日の夕飯とか?」
「……ねえ、わざと?」
「う、ごめん。ちょっとふざけた」
「アズ君ってそういうところあるよね」
「……気を付けます」
「いいよ~。今日のアタシはすっごく機嫌がいいから。ね、なんでだと思う?」
「なんでって、……なんでだ?」
エナがそんなに機嫌がよくなるようなことってあったっけ?
「……アズ君ってたまに本当に鈍感主人公みたいになるよね」
「今のは褒めてないってことがわかる程度には鈍感ではないよ」
「逆の今のがわかる程度でドヤ顔されても困っちゃうんだけど?」
「ドヤ顔はしてない!」
と、思うけど……。
実際どうかはわからない。
「う~ん、わからないかぁ」
「ヒント! ヒント頂戴!!」
「え~、どうしようかなぁ」
「お願い!!」
「しょうがないなぁ。……さっきはね、今日のことを思い出してたんだよ」
「今日のこと」
「そ。今日一番嬉しかったこと」
「今日、一番嬉しかったこと……」
「オウム返しばっか。答える気あるの?」
「ある! あるって!! ただこれはちょっと、勇気がいると言うか……」
「何それ~。いいから言ってみなって」
「……俺と《愛してるよゲーム》をしたこと」
「う~ん、惜しい!!」
「うっわ、恥ず──ッ!! 今の俺、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!?」
さすがに自惚れ過ぎじゃない!?
俺と《愛してるよゲーム》をしたことを、今日一番嬉しく思ってくれてるって言ったんだよ!?
めちゃくちゃ恥ずかしいんだが!?
「そんなに照れなくていいよ。ほとんど正解だから」
「え?」
そうなの?
「正解はね、アズ君に『愛してる』って言われたのを思い出してたの。えへへ~、言っちゃった。恥ずかしいね」
「~~~~~~~~~~~~~~!?!?!?!?!?」
いや、待っ、ちょ──ッ!?
「ちょ、ちょっとタンマ」
「え~、何それ~」
「ちょっと待って。本当にタンマ。ちょ、ちょっと水飲ませて」
「何でよ~」
何でってそんなの、──めちゃくちゃ顔が熱いからですが!?
何? 何これ……。
《愛してるよゲーム》の100倍ぐらい顔が熱いんだけど!?
「あはは~。アズ君、顔真っ赤」
「そういうエナだって」
「え~。……だって恥ずかしいもん」
「またそういう可愛いことする」
何!?
本当に何なの!?
ほっぺをムニムニするとか、それはさすがに可愛すぎない!?
「えへへ~」
「……今度は何」
「アズ君が可愛いって言ってくれた」
「──ッ!!!! ~~~~~~~~~~~~~~!?!?!?!?!?」
なん、何だ!? 何だこれは!?
エナは俺を殺そうとしてるの!?
さすがに可愛いが過ぎるんだが!?
あ~、無理だ。これはもう無理だ。
さすがにもう我慢の限界。
……戸羽ニキ。俺、言うよ。
「ねえ、エナ」
「ん~? 何~?」
「お、俺と。付き合って欲しい」
「え」
「だ、から。俺と恋人として、付き合って欲しい」
「……嘘」
「嘘じゃない」
「本当に?」
「本当に」
「夢じゃ、なくて?」
「夢じゃない。俺もエナも、ちゃんとここにいる」
「……あ」
「エ、エナ!?」
な、泣いてる!?
え、嘘!? なんで!? ど、どうして!?
「あ、あはは。ご、ごめ、ごめん。違うの、これは、違くて」
「エ、エナ……」
「う、嬉しくて。ア、アタシ。ずっとアズ君とそうなれたらって、お、思ってた、から。だから……、だから! ……嬉しくて」
「……エナ」
そんな風に思ってくれてたなんて……。
なんだろう。なんか、すごい胸の辺りがジンとした。
あったかくて、なんていうか、……幸せな感じ。
「ア、 アズ君。えへへ。ごめん。ごめんね。おかしいよね、嬉しいのに、こんな」
「ううん。そんなことない。そんなことないよ。ありがとう、エナ。そんな風に言ってくれて。俺も、嬉しい」
「えへへ。……本当にすごいな、今日は。一番嬉しいことが、たくさん起こってる」
「そうだね」
「アズ君も? アズ君もそうなの?」
「うん。一番嬉しいことがたくさんある。エナと《愛してるよゲーム》をしたこと、エナが俺の告白を嬉しいって言ってくれたこと」
「じゃあ、まだ出来るよ」
「そうかな? これ以上嬉しいことって……」
「アズ君。アタシと、付き合ってください」
「あ」
「ね?」
「うん」
「えへへ」
「あはは」
2人して笑い合う。
お互い照れ臭そうに、少し視線を外して、また戻して、目が合った瞬間にまた照れ臭くて笑い合う。
そんなことの繰り返しなのに、いや、その繰り返しだからこそ、こんなにも嬉しいのかもしれない。
エナと今こうしていられる。
なんだから、それが他の何よりも嬉しい。
「あ、もしかしてフメツ君があの2人を連れて行ったのって」
「バレた? 俺がお願いしたんだ」
「そっか。フメツ君には言ってたんだ」
「うん」
「あ~あ、残念」
「エナ?」
「アズ君がアタシのことを好きだって一番最初に知ったのは、アタシじゃなかったんだ」
「それは……」
えっと、なんなんでしょうかこの人は?
健気って言うの!?
それともただ単に独占欲が強いだけ!?
でもどっちにしても、意味わかんないぐらい可愛いんだけど!?
「えへへ。なんてね、冗談!! 一番最初に知ったのはアタシじゃなくてもいいよ!! その代わり、他の誰よりも一番多く、アタシに『好き』って言って」
「うん。それはもちろん」
そんなの当たり前だ。
企画でも何でもない。これが俺の本音なんだから。
「あ、でも。アタシの方がたくさんアズ君に『好き』って言うかも」
「それは無いね。一回言われたら俺は二回言うし」
「だったらアタシは三回言うよ」
「じゃあ、俺は四回だ」
「五回」
「六回」
「七回って、これじゃあキリが無いよ」
「じゃあ、一回言うのにたくさん気持ちを込めるよ」
「アタシも、すっごくたくさんの気持ちを込めて言うよ」
あは、と2人どちらからともなく笑い合う。
恥ずかしくて、照れ臭くて、顔も熱いけど、でもそれ以上に幸せだった。
この世界にこれ以上の幸せなんか無いんじゃないかってぐらい幸せだった。
「ねえ、エナ」
「何? アズ君」
「俺、今めちゃくちゃ幸せだ」
「アタシもだよ」
「あはは」
「えへへ~」
そうして俺たちはまた笑い合う。
今のこの瞬間を噛みしめるように。いつまでもこの幸せに浸っていられるように。
世界中の誰よりも幸せなのは俺たちだって、そんな風に思ってしまうぐらい、こうしてエナと過ごす時間が大切で、かけがえのないものに感じられた。
「じゃあ、せっかくだしデートしようか。ね? いいでしょ、アズ君」
「え、今から!?」
「善は急げって言うでしょ?」
「でもこの時間だよ?」
「大丈夫大丈夫~。だってアタシたちはVTubeだよ? こんな時間に活動してるなんて当たり前じゃん」
「いやまあ、それはそうなんだけど……」
「アズ君はアタシとデートするの、イヤ?」
「そんなわけない! 行こう。すぐに行こう」
「えへへ~、やった。また今日一番嬉しいことが増えた」
「じゃあ、まだ増えるよ。だってこれからデートするんだから」
「そうだね! 行こう、アズ君」
「うん。行こう、エナ」
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