第156話 推しに『愛してる』っ言わされるいじめを受けてます!!

「エッチなのはダメだからね!?」


「何でいきなりそんなこと言われなきゃいけないんですか!?」


「だって、……今のエッチだったし」


「いいですか、ムエたん。エッチでも無いものにエッチを見出す人がエッチなんですよ? 俺とカレンちゃんのどこがエッチなんですか!?」


「でも、カレンちゃんは足腰立たなくなってるよ?」


「え」


 ムエたんが指し示す先を見れば、スタジオの椅子にしなだれかかるように突っ伏すカレンちゃんがいた。

 うわ、床に直接座ってるのが余計にエッ……、って違う!! そうじゃない!!


「きっと食あたりだと思います。カレンちゃんは食いしん坊なので」


「違いますよぉ!? 変な事言わないでぇ!!」


「違うって言ってるけど?」


「きっと本人の思い違いですね」


「アズマさんがいじめる!!」


「それはいつものことでしょう?」


「あ、確かにって!! それはそれでひどくないですかぁ!?」


 うんうん。やはりカレンちゃんは鳴かせるに限る。

 いつか悲鳴だけを集めたボイスを販売してくれないだろうか?


「アタシのこともいじめるの……?」


「いやいやいや!! どうして俺がムエたんをいじめるんですか!? しませんよ、そんなひどいこと!!」


「ちょっとぉ!! わたしとムエナさんの扱いの差が違くないですかぁ!?」


「いやだってカレンちゃんだし」


「ねぇえ──ッ!! ひどい!!」


「いやだってカレンちゃんだし」


「繰り返して言わなくてもいいですよぉ!!」


 いやいや、やっぱりそこは大事なことなのでね。

 繰り返し言っておかないと。


「むぅ~~~~~」


「ムエたん?」


 え、何!?

 なんでいきなり唸り出したの!?


「アズマさんは今、アタシと《愛してるよゲーム》やってるんだよね?」


「え、もう始まってました!?」


「あー、ひどいんだー!! 他の女の子と仲良く話してるだけじゃなくて、忘れてるなんて!! ひっどいなー!!」


「いやいやいや!!! 待ってください!? まだ始まってなかったですよね!? 普通に入れ替わりのインターバル的なテンションでいましたよ!?」


「もう。しょうがないんだから、アズマさんは。特別に許してあげるから、ここからは真剣にやってね?」


「はい! もちろんです!!」


「よし!! じゃあ、……ん」


「『ん』!?!?!?!?!?!?」


「ん」


「『ん』!?!?!?!?!?!?」


 はい!? え、待って!?

 な、なに!?

 今一体何が始まってるの!?


「んっ!」


 って、言われても!!

 全然ついて行けてないんだけど!?

 な、なんでムエたんは目を閉じてこっちを向いてるんですか!?

 そ、そんなのまるで、キ、キスをする直前みたいな……。


「ム、ムエたん……?」


「はい、ぶっぶー! タイムアップー!」


「タイムアップって……。何が始まってたんですか!?」


「決まってるじゃん! 《愛してるよゲーム》!!」


「今のが!?」


「うん」


 いや、そんな他にある? みたいな顔されてもね?


「女の子のして欲しいことを察せないようじゃ、アイドルとしてやっていけないよ?」


「今のは無理ですって!! というか、アイドルがそんな距離でファンと接することあります!?」


「この距離でも応えられない人が、ステージから客席に向かってファンサが出来ると思うの?」


「いやいやいや! 普通に考えてください!! この近距離でそんなファンサする機会なんてありませんって!!」


「え、あるよ」


「戸羽ニキ!? え、あるんですか!?」


「うん。だって、僕らを普段見てるリスナーさんたちとの距離感って大体そんなもんじゃない? スマホで見てる人とか多いし」


「それはモニターとの距離ですよね!?」


 目を悪くするからよい子はちゃんと距離を考えようね!?


「アズマさん。アタシたちがどう捉えるかじゃないんだよ。ファンのみんながどう捉えるかが大事なんだよ。推しからこんな近い距離でファンサされたら、嬉しいでしょ?」


「嬉しいって言うか、ワンチャン気絶しますね」


「でしょ? だからほら、……ん」


 えぇ~……、マジで?

 確かにこの距離で推しからファンサを貰えたら嬉しいけど、俺の場合、この近距離で推しに『愛してる』って言うんだよ!?

 顔が見える距離で!! 何だったら手を伸ばせば触れられる距離で!!

 それはちょっと違くない!?


「アーズーマーさん!!」


「ああもう! わかった!! わかりましたよ!!」


「あ、愛して、ます……?」


「え~~~~~~~」


「そんな不満そうな声出されるほどですか!?」


「疑問形だし、言い淀んでるし、なんか心がこもってない!!」


「そう言われましてもね?」


 俺だってムエたんが相手じゃなきゃこんなにならないよ!?

 カレンちゃんの時には、しっかりと言ってたの知ってるでしょ!?


「アタシは、アズマさんの心がこもった『愛してる』が欲しいな?」


「う……っ」


「……ダメ?」


「ダ、ダメって言いますか……」


「うん。なぁに?」


 いや、ちょ、待って!?

 そんな下から覗きこむように見られたらさぁ!!


「どうして顔を隠すの? ね、アズマさん。こっち見て?」


「み、見てって言われましても……」


 外してた視線をゆっくりとムエたんの方に向ける。

 彼女と目が合った、そう思った瞬間だった──。


「愛してるよ」


「──ッ!?」


「アズマさん。だ~い好き!」


「──ッ!?!?!?」


「ねえ、目背けないで。ちゃんと、こっち見て?」


「う、や、そのですね!?」


「あは! こっち見てくれた♪ ねえねえ、アズマさん。どうだった? アタシの『愛してる』は。ちゃんと、心こもってた?」


「……はい。なんかもう、心臓バクバク言ってます」


「じゃあ、今度はアズマさんからの心がこもった『愛してる』が欲しいな?」


「──ッ!!」


 アッカン!!

 今日も俺の推しが世界一可愛いくて、アカン!!

 ちょ、え、どうしよう!?

 なんかもう、どうしよう!?

 推しが俺をいじめてくるんですが!?


「あ、」


「あ?」


「愛して、……ます」


「もう一回」


「もう一回!?」


「ね? お願い?」


「う、っく。あ、……愛してます!!」


「まだダ~メ。もう一回」


「こ、これ以上は……っ」


「あなたの推しからのお願い。もう一回、言って?」


「──ッ!?!?!?」


 ねえッ!!

 誰か俺を助けて!!

 推しが!! 俺の推しが!!

 可愛く俺に『愛してる』って言われたがってる──ッ!!!!

 おい!! なんだこの状況は!!

 こんな幸せが許されていいのか!?


「ね? ダメ?」


「──ッ!!!! 愛してます──ッ!!!!」


 俺、渾身の叫び。

 リスナーの皆さん。鼓膜破壊してたらごめんなさい。

 でも俺もオタクなんです。

 推しへの愛を全力で叫びたいときもあるんです!!


「ん~。それだけ全力で叫ばれたら、合格かな~」


「はぁ、はぁ、はぁ。なんか、今日一でカロリー使った気分です」


「そっかそっか。じゃあ、ここからは普通に《愛してるよゲーム》をしよっか」


「はい!? 今までもしてたのでは!?」


「今までのは何て言うか、練習? アズマさんがアタシに『愛してる』って言えるようになるための」


「嘘でしょう!?」


 そんな練習が許されていいはずがないと思うんですが!?


「じゃあ、まずはアタシからいくね?」


「え、本気でやるんですか!?」


「愛してる」


「──ッ!?」


 だから破壊力エグいんだってば!!


「次、アズマさんだよ?」


「……愛してます」


「さっきの方が心こもってた~」


「愛してます──ッ!!」


「うんうん。その調子。……愛してる」


「もうやけくそですからね!? ──愛してます!!」


「ふふふ。やっぱりなんか恥ずかしいね? ……愛してるよ」


「恥ずかしいならやめません!? ──愛してます!!」


「ダ~メ。もっと聞かせて? ……愛してる」


「もう本当に勘弁してくださいって!! ──愛してます!!」


「じゃあ、先にやめた方が罰ゲームね? ……愛してる」


「どうしてわざわざいばらの道に進むんですか!? ──愛してます!!」


「そっちの方が盛り上がるでしょ? ……愛してる」


「本当に盛り上がります? ──愛してます!!」


「うん。だってほら、ひとり血相変えて戻ってきてるし。 ……愛してる」


「あ、ナーちゃん。戻ってきたんですね。 ──あ、」


「もうそれぐらいでいいんじゃないかしら!?」


 とまあそんな感じで、飛び出していった安芸ナキアが、同じぐらいの勢いで戻って来たことで俺とムエたんの《愛してるよゲーム》は終了した。

 ゲーム中のムエたんもすごかったけど、終わった直後に、


「最後に一回だけサービス。 ……愛してる」


 って耳元で囁いてきたムエたんの破壊力がマジでエグかったとだけ言っておく。

 なんか、なんか今日一日でめちゃくちゃカロリー使ったよ!?

 でも、これでようやっと終わりか……。残るは企画の締めと、そして本命の告白だ。

 ……これだけ『愛してる』って言わされた後で、果たして相手に響くのかが謎過ぎるけど。

 というか、企画の続きだって受け流されたらどうしよう!?

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