第154話 これ、このあとまだ2人あるんだけけど、大丈夫そう……?

「ねえ、ズマっち。もう一度やってもいいのよ?」


「……念のため聞きますが、何をですか?」


「フメツとの《愛してるよゲーム》に決まってるじゃない」


「ナーちゃんが見たいだけですよね!?」


「そ、そんなことないわよ! きっと私の他にも見たい人はたくさんいるわ!!」


「そうだとしても、二度とやりませんよ!?」


「え!? アズマ、そんなに嫌だったの……? 僕との《愛してるよゲーム》」


「外野は黙っててくださーい。今はナーちゃんとの《愛してるよゲーム》の最中でーす」


 嫌とかそういう話じゃない。

 空気が!! 雰囲気が!! テンションがおかしかったから!!

 今、冷静になって思い返してみれば、絶対になんかおかしかったから!!


「ま、まだ始めてないわよ……」


「はい? 何ですか? 声、小さくて聞こえないっていうか、距離あけすぎじゃないですか?」


「ヘ、ヘンタイ──ッ!!」


「なんでですか!?」


「そ、そんな。私に近づいて愛を囁きたいなんて……。ダメよ、そんなの……」


「言ってないですよね!? 声が小さくて聞こえないって言ったんですよ!?」


「そんなに聞きたいの……? 私からの『愛してる』を……」


「あー……」


 そういうことではないんだけど、企画の趣旨上そうなっちゃうってこと!?


「ちょっと、どうなのよ!? 黙ってちゃわからないでしょう!?」


「……聞きたいって言ったら、言ってくれるんですか?」


「そ、それは、そういう企画じゃない……」


「ですよね」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 待って!?

 沈黙はしんどいってか、黙ってる割にめちゃくちゃ目で訴えかけてきてるよね!?


「見てよ、あの2人。アイコンタクトで囁き合ってるよ。《愛してるよゲーム》だけに! なんてね!!」


「…………あの、わたしじゃさすがにフメツさんにツッコミは無理ですよ?」


「…………アタシもさすがに今のにツッコミ入れるのイヤ、かな?」


「……スルー、ですか?」


「……うん」


「アズマならちゃんとツッコんでくれたはずなのに……。今日はもう黙ってようかな」


 外野ぁ──ッ!!

 何とも微妙な空気を作ってくれたな!?

 ど、どうする? ここからどうすればいい……?


「ナーちゃん……っ!!」


「ズマっち……っ!!」


「「──ッ!?」」


 被ったぁ──ッ!!

 こういう時にタイミングが被ることほど、気まずいことは無いんだけど!?


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「『今度はお見合い』かぁ、とか言わなくていいの?」


「言ったって君らはツッコんでくれないじゃん」


「ていうか、わたしたちって今とても空気読めてないですよね……?」


「僕はあと2回、この気まずさを味わんだよね」


 だからね……?

 外野のお三方は少し黙っててくれないかな……?

 やりにくいったらないんだけど……?

 ただでさえリスナーがいるって言うのに、さらに同じ空間で知り合いに見られてるって思うとさぁ……。ねぇ──ッて!?


「ナーちゃん!?」


「……愛してるわ」


「──ッ!?!?!?!?!?」


「い、言ったわよ──ッ!!」


 いやいやいや、待って待って待って!?!?!?!?

 そ、それは!! 今のはズルくない!?


「へぇ」


「わ」


「む」


 って、そっちの3人の反応なんか気にしてる場合じゃない──ッ!!

 い、今のは──ッ!!


「ナ、ナーちゃん。…………顔真っ赤」


「う、うるさいわね──ッ!! しょうがないでしょう!? それにズマっちだって顔赤いじゃない──ッ!!」


「お、俺はだって──ッ!! ナーちゃんがいきなり近づいてくるからじゃないですか!! あ、あんな耳元で囁かれたら、しょうがなくないですか!?」


 なんかいい匂いもしたし!!

 声めっちゃ近かったし!!

 なんか、なんかすごいドキドキしたんだけど──ッ!?


「……つ、次はそっちの番よ」


「う……っ」


 いや、マジで…………?

 今? 今やるの……?

 こんなにドキドキしてるのに……?


「……は、早くしなさいよ」


「~~~~~~~~ッッッッッ!!!!!!」


 かっわ──ッ!?

 いや、ちょ、待って──ッ!?

 何その反応!?

 そんな顔真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いて、上目遣いにこっち見てきて──ッ。

 ま、いや、本当に待って──ッ!?

 企画だよね!?

 今俺たちがやってるのって企画だよね!?

 なんでそんな反応が、ガチ──。


「ナ、ナーちゃん」


「……何よ」


「あ、──」


「ちょっと待って!!」


「いって、え?」


「ま、待って!! 待ちなさいよ、ちょっと。そんないきなり」


「いや、え。いきなりって、だって……」


「いいから──ッ!!」


 うっわぁ。

 すっげぇ。ゆでだこみたいに真っ赤。

 そんでもって、待ってって言いながらモジモジしててって、すっごい可愛いって──ッ!! だから企画だよね──ッ!?

 何度でも言うけど、これ、企画だよね──ッ!?


「……ダメよ、そんな。ちょっと待ちなさいって」


 なんで、なんでそんなに反応がガチなん!?

 いや、てか、待って欲しいのは俺なんだけど!?

 そんな反応されたら、こっちまで死ぬほど恥ずかしくなってくるんですが!?

 てか、ダメでしょ、その反応は──ッ!!

 可愛いってか、可愛いんですが!?

 安芸ナキアが、いつになく可愛いんですが──ッ!?


「……なんか、見てる僕らまで恥ずかしくなってくるね」


「……これ、わたしたち見てていいんでしょうか」


「……大丈夫、だと思う。多分アタシたちに気づいてないから」


 いや、いや、気づいてるよ!?

 皆がいるのはさすがにわかってるし、リスナーさんたちが見てるのも知ってるよ!?

 でも、だけど、だけどさぁ──ッ!?

 ナーちゃんはそんなこと忘れてるんじゃない!?


「すぅーーーー、はぁーーーー」


 深呼吸。

 うん。存分にしてくれ、深呼吸を。


「……落ち着きました?」


「ええって、なんでこっち見てるのよ!?」


「えぇ……!? なんでって、だって、さっきからこうですよね!?」


 向かい合って、見つめ合ってって言うとまた恥ずかしくなってくるなぁ──ッ!?


「ちょっと、ダメよ。今、こっち見ちゃダメ」


「ダメって」


「とにかく!! ダメなものはダメなの!!」


 あ~~~~~~~~~~~~~~。

 俺たちVTuberでよかったぁ。

 今のナーちゃんは、ちょっと、……他の人には見られたくない。

 なんか、ヤバい。

 本当に可愛くて、……ヤバい、かも。


「じゃ、じゃあ、見ませんから。そっちは、見ないで言いますから」


「ダメよ!!」


「えぇ……!?」


「そ、そんなのダメよ。ちゃんと、ちゃんと言わなきゃダメよ……」


「いや、でも……」


「へ、平気よ。私は平気よ。私を誰だと思ってるのよ。安芸ナキアよ」


「そんな……。そんないつも通りのこと言ってても、全然いつも通りじゃないじゃないですか!!」


「いつも通りよ!! 私はいつも通り!! だから──ッ!!」


 バッと顔を上げたナーちゃんと視線が合う。

 正面から互いの顔を見る。

 真っ赤に染まった顔を、見つめ合う。

 そして次の瞬間には、ナーちゃんはその場にうずくまってしまった。

 真っ赤に染まった顔を手で隠すようにしながら。


「ほんとに無理ぃ……。無理よぉ、こんなのぉ」


 どこか涙交じりの声音。

 かろうじて見える耳も、首筋も、全部が真っ赤に染まっている。


「……こんなはずじゃないのにぃ」


 うっわ。

 うわうわうわ──ッ!!!!

 な、こんな、ええ──ッ!?

 ど、どうしよう!? どうすればいい!?

 俺だって、こんなの想像してなかったんだけど!?

 こんなナーちゃんの姿なんて、微塵も想像してなかったんだけど!?

 ど、え、……どうしよう!?


「アズマ!!」


「戸羽ニキ──」


 名前を呼ばれて振り向いた先、戸羽ニキがジェスチャーを送って来る。

 耳を指さして、『あ・い・し・て・る』と口をパクパクと動かしてみせる。

 そして、ナーちゃんを指さす。

 さっきナーちゃんがしたみたいに、うつむくナーちゃんの耳元で囁けとジェスチャーを送って来る。


「ねぇ、無理よぉ……」


 真っ赤になって声を震わせるナーちゃん。

 顔を手で覆い、小さくなるナーちゃん。

 そんな可愛い姿を見せる彼女に、俺は大きく息を吸い込みながら、勇気を出して歩み寄る。


「ナーちゃん」


「!?」


 膝を曲げ、真っ赤に染まった彼女の耳に口を寄せ、そして囁く。


「愛してます」


「──────ッ!?!?!?!?!?」


 俺が耳元で囁いた瞬間、ナーちゃんはとんでもない勢いで立ち上がり、今度はしゃがみ込んだ俺を見下ろす。

 真っ赤な顔と潤んだ瞳、わなわなと震える唇からはでも、──言葉は出てこなかった。


「~~~~~~~!!!!!!!」


「あ、ナーちゃん!?」


 制止する声にすら反応せず、ナーちゃんは部屋を飛び出していく。

 後に残されたのは、呼び止めた際に半端に手を持ち上げた俺と、


「……」


「……」


「……」


 何とも言えない表情でナーちゃんが駆け出して行った扉を見つめる、戸羽ニキとカレンちゃん、そしてムエたんの3人だった。


「……次、行こうか」


 そんな戸羽ニキの言葉に、俺はただただ呆然と頷くことしか出来なかった。

 ……チラリと脳裏に配信のことが過ったけど、考えないことにした。たぶん、きっと、とんでもないことになってるはずだから。

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