第153話 ヒロインたちの前フリ? いいえ。これは初手最強と言います。

「アズマ、愛してるよ」


「ちょ、近い!! 近いですってば──ッ!!」


「これが僕と君の本当の距離さ」


「意味わかんないですって!! って、待って待って待って!!!!」


「なんだい?」


「壁際に追い込む必要あります!? 3Dとかじゃないんですよ!? リスナーさんには何も見えないんですよ!?」


「だからこそだよ。これは、僕と君だけの思い出になる」


「いますから!! 他にも人がいるって言うか、女子3人の視線がとんでもないことになってますって!! 特にナーちゃんが──ッ!!!!」


 ナーちゃん!? ナーちゃん!?!?

 ねえ、その視線は何!?

 そんな爛々とした眼差しを向けてきたこと、これまでにあった!?

 熱い眼差しとかそんなレベルじゃないんだけど!?


「なるほど。《L⇔Read》はその路線で売り出すのもありなんだ……」


「ムエたん!?」


 今なんて言った!?

 めちゃくちゃ恐ろしいことを呟かなかった!?

 無いからね!?

 この路線は無いからね!?

 え、無いよね……?

 頼むから無いって言って!?


「創作意欲ってこういう時に溢れて来るんですね。ナキア先生が常に新しい性癖を常に探してる理由がわかってきた気がします……。勉強になります……」


「カレンちゃん!?」


 こんなところで真面目な一面出さなくていいからね!?

 勉強って何!?

 やめてよ!? これ以上ナーちゃんみたいなのが増えたら対処できないよ!?

 あの人、一人でもいっぱいいっぱいなのに!!

 だから、そんな観察するようなことじゃないから!!

 凝視しないで!! こっち見ないで!!


「というか、この後君たちもこれやるんだよ?」


「え!?」


「はい!?」


「あはは~……」


 おお、すごい。

 戸羽ニキの一言で一斉にみんな顔を背けたよ。

 この後の自分の姿を想像して気まずくなった……? って──ッ、


「やりませんからね!? さすがにこんな距離感では!!」


「つまり僕は特別ってこと?」


「だから何で戸羽ニキはそんなにノリノリなんですか!?」


「う~ん。ほら、色んな層のリスナーさんを取り込めた方が、これからの僕らの活動にも幅が出てくると思わない?」


「言ってることは正論ですが、広げようとしてる範囲がニッチ過ぎます!!」


「え、でもよくない? ニッチ業界No.1って。ちょっとカッコいいと思うんだよね」


「逆張りの就活生みたいなこと言わないでください!!」


「もう、しょうがないなぁ、アズマは。わかったわかった。これでいい?」


「ああ、はい。やっと何て言うか、呼吸が出来ます」


 正直ちょっと息つまりそうだったって言うか、戸羽ニキからね、香水のいい香りがしてね? 何て言うかこう、ちょっと気まずかったりね。したからね……。

 いやもう全然意識とかはしてないんだけど!!


「アズマ、愛してるよ」


「はいはい。俺も愛してますよ」


「ダメだよ、アズマ。そんな言い方は少しもときめかない」


「戸羽ニキをときめかせる必要あります!?」


「僕すらときめかせられない奴が、これからファンをときめかせられると思ってるの?」


「……絶妙に反論しづらいこと言わないでくれません?」


 さっきまでふざけてた人とは思えないんだが?

 あんなノリノリで企画に乗っかろうとしてたくせに、急に真面目にならないで欲しい……。

 ギャップ差で仰天するって……。


「さあ、アズマ!! 僕を君の熱烈なファンだと思ってときめかせてみて!!」


「いやいや、テンションがおかしいですって! なんでそんなにノリノリなんですか!?」


「? 嬉しいからだけど?」


「嬉しいって、俺に『愛してる』って言われるのがですか?」


「そんなわけないだろ、気持ち悪いこと言うなよ」


「急に辛辣!! 今までめちゃくちゃノリノリだったのに!!」


 あれ!?

 俺がなんか間違ってる!?

 戸羽ニキが何を言ってるのかわからないんだけど!?


「ああ、違う違う。そうじゃなくて。この間の3周年ライブでもそうだったんだけどさ、ファンって本当に色んな人がいるんだよ。僕のファンなんだなって人もいれば、違うライバーを推してるけどライブ会場で一緒に盛り上がってくれる人もいる。女性もいれば男性もいる。若い子もいれば大人もいる。色んな人がいる。色んな人がいるけど、でもみんな僕らを応援してくれるんだよ」


「…………」


 あれ!?

 なんかいきなり真面目な話になってる!?

 戸羽ニキのいつものやつだよね!?

 相変わらず急にテンションを切り替えますね!?


「どんな人でもさ、僕らを応援してくれるんだよ。それってすごく嬉しいじゃん。もう本当に嬉しいことなんだよ! だから僕は皆に愛してるって言いたいし、アズマにもそういうアイドルになって欲しいんだ」


「…………戸羽ニキ」


 もうさ、この人は本当に!!

 ふざけてる時と真面目な時のテンションに差があり過ぎるんだよ!!

 切り替わるのが一瞬な癖に、180度ぐらいガラッと変わるからついて行くのが大変だよ!!

 でもさ、だけど、……それがこの人の魅力なんだろうなぁ。

 どれだけふざけてても、どれだけノリに任せて振る舞ってても、ちゃんと応援してくれる人がいるのをわかってる。

 ……カッコいいよな、戸羽ニキは。


「だけど、アズマにはまだわかんないか。すごいんだよ! ステージに立つとバーッてファンの人たちがいて、みんなが応援してくれるんだ。……本当にすごいし、嬉しいんだ」


「そう、ですよね。わかりますよ、俺も。少しだけですけど」


 確かにすごかった。

 ブイクリのあのライブ。急遽立つことになったステージだけど、応援は俺に向けられたものじゃないけど、それでも戸羽ニキの言ってることのひとかけらぐらいは、俺にもわかる。

 何より……、


「俺にもいつも配信に来てくれたり、いろんな形で応援してくれる人がいますから」


 まあ、中には上限赤スパを乱舞させる困った人もいるけどね!!

 そう言えば、最近配信で見なくなったな……。

 優梨愛さんどうしてるんだろうか。

 VTuberデビューしたのはいいけど、全然配信も出来てないみたいだし、また何かしら忙しくしてるんだろうか……。


「『愛してる』って言葉は、僕らからすれば応援してくれる人たちに対する『ありがとう』と同じなんだ。だからさあ、アズマ──ッ!! 僕に君から『愛してる』って言ってくれ──ッ!!」


「そこで戸羽ニキに『愛してる』って言う流れにはならなくないですか!?」


「なんでさ!?」


「だって今、応援してくれる人たちにって話でしたよね!?」


「僕はアズマのことを応援してるよ」


「……確かに」


 それはもう間違いない。

 この企画に戸羽ニキが参加してからずっと、ずーーーーーーーーっと言われてきた。


「ある意味、僕ほどアズマに期待して応援している人もいないと思うよ?」


「……確かに」


 あれ? 全く反論のしようがないぞ?

 というか、俺が一番『愛してる』って伝えなきゃいけないのって、実は戸羽ニキなんじゃないかって気さえしてきたんだけど!?

 あれ??? どういうこと!?!?!?


「戸羽ニキ。……愛してます」


「僕もだよ、アズマ。……愛してる」


 うっわ、恥ず!?

 てか、なんか、あれぇ!?

 さっきと全然テンションが違うんだけど!?

 な、ええ!?

 なんで俺、こんな気持ちになってるの!?

 だって相手は、戸羽ニキだよ!?


「アズマ? どうしたのさ」


「や、なんか……。あんな話をされた後だからですかね。なんか、……恥ずかしいです。照れ臭いって言うか」


「じゃあ、それはアズマの素直な気持ちなんだね」


「そう、かもしれません……。戸羽ニキ、愛してます」


「愛してるよ、アズマ」


「~~~っ」


「アズマ?」


「いえ、すみません。なんか今、思った以上に戸羽ニキから『愛してる』って言われるのが嬉しかって言うか。あははっ!! やっぱり恥ずかしいですね。そろそろ終わりにしましょうか!!」


「アズマ。愛してるよ」


「いや、ですから──ッ!」


「アズマ?」


「……ですからね?」


「愛してるよ」


「戸羽ニキ……」


 あ、これマジでヤバいかも……。

 って──ッ!?


「「「それ以上はストップ──ッ!!!!」」」


「わ」


「うわぁ!?」


 カレンちゃん、ナーちゃんに、ムエたんまで!?


「い、いたんですか!?」


「ずっといます!!」


「さっきからいるわよ!!」


「いたよ!! ねえ、いたよね!?」


「うん。いたね」


 あ。

 そっか。いたわ……。

 というか、あっぶな!!

 今俺、本気で戸羽ニキに口説かれてた気になってた!!

 あっぶねー。怖すぎるだろ、戸羽丹フメツ!!


「い、今のは何て言うか、ダメだったと思います!! アズマさんの雰囲気がダメでした!!」


「いや、ダメって言われましても……」


 まあ、うん。

 正直カレンちゃんの言うことはわかるけど。

 3人が止めに入ってくれてよかった。


「と、とにかく!! フメツの番はここまでよ!!」


「え、もう? まだよくない?」


「ダメだよ! これ以上はトレーナー兼プロデューサーとしても止めざるを得ないかな!!」


「ムエナちゃんまで。というか、どうしたのさ、みんな。そんな必死になって。ちょっとした企画のノリじゃん。ねえ、アズマ」


「ははは。そうですよ。こんな企画のノリでそんなに、ねえ?」


「……じー」


「……じー」


「……じー」


「な、なんですか3人とも。何か言いたいことがあるんですか!?」


 冒頭とはまた違った視線が突き刺さってるんだけど!?


「本当に企画のノリだったんですね?」


「それはもちろん」


「間違ってもフメツに本気になったわけじゃないのよね?」


「なんですか、本気って? 俺はVTuberとして真摯に企画に向き合っただけですよ」


「ちょっと2人の世界に入ったりしてなかった?」


「ユニットですからね。《歌ってみた》を出して絆が深まったんじゃないでしょうか」


 ……な、何か。何かいきなり修羅場っぽくなってない!?

 配信に遅刻したって、もうちょっとお手柔らかに聞いてくるよね!?

 ひ、冷や汗が背筋を伝う感覚があるんですけど!?


「……まあ、そう言うならいいですけどぉ」


「……そうね。そう言うなら」


「……そうだね。そう言うならいいよね」


「……全然納得してないじゃないですか。戸羽ニキからも何か言ってあげてくださいよ」


「ん? んー。3人がそうやって止めに来なきゃいけないって時点で、僕らが最強のてぇてぇだって証明されちゃったと思うけど、どう?」


「え!?」


「あ!?」


「な!?」


「──なんてね? それじゃあ、アズマ。ここからが本当のお楽しみだね」


「え、や。戸羽ニキ!?」


「前座の役目は果たしたよ。皆も頑張らないと、本当に僕らが最強のてぇてぇになっちゃうからね」


 ここまでのが全部前フリ!?

 嘘でしょう!?

 さすがにそれは強すぎない──ッ!? ねえ!?

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