第146話 背中を押されて主人公は前へと進む

『そもそもの話なのだが、東野に好きな人はいるのか……?』


『確かに~。いる前提で話しちゃったけど~、どうなの~?』


「え~、お二人には言いたくないんですけど」


『なぜだ』


『どうして~?』


「今、俺たちが何の企画やってると思ってるんですか。変に伝えて、企画に影響が出たらどうするんですか」


『それで思い出した。お前、俺たちのチャットに返信してないよな』


『あ~、そうだ~。それこそこの企画~、どうするつもりなの~?』


「だからそれを戸羽ニキに相談しようと思ってたんですよ」


 なのに、ぴょんこさんと袈裟坊主さんに通話しちゃうから。


「尚更でしょ。企画の相談なら、僕じゃなくて2人にするべきじゃない?」


「それはそうなんですけど……」


「……。アズマ、君が何を悩んで何を考えてるのか知らないけど、タイミングだけは逃さない方がいいよ」


「? どういうことですか?」


「何て言うのかな。今のアズマを見てると、昔の自分を見てるみたいでちょっとイラっとするんだよね」


「え~。なんですか、それは」


「VTuber始める前って言うか、学生だった時の話なんだけど……。あ、これ誰にも言ったことないから、他の人に喋ったら許さないよ。ぴょんこさんも袈裟坊主さんも」


『人のプライベートを言いふらす趣味はないな』


『私も~。話してくれるなら聞くけどね~。お酒の肴に~』


「俺もです。そんなことして戸羽ニキに嫌われたくないですし」


 それに興味あるしね。

 だって戸羽ニキがVTuber始める前の話だよ!?


「そんな大した話じゃないんだけどね。学生の頃、好きだった子がいたんだよ。同じ部活の子だったんだけど、その子と僕と、他にも何人かで、よく遊んでたんだ。って言っても部活仲間って感じだから、帰るときに寄り道したり、土日の部活終わった後にカラオケとかゲーセンに行ったりって感じだったんだけどね」


『青春だな。俺には無縁だったが』


『そっちはそっちで気になること言わないで~』


「本当ですよ。袈裟坊主さんの話も今度聞かせてください」


『語るほどの思い出がないな。特に高校時代は』


 か、悲しすぎるだろ、それは──ッ。

 ていうか、学生時代それで今《企画屋》なんてやってるって、それはそれで何があったんだよ!!


『すまんな、フメツ。続けてくれ』


「僕も今、袈裟坊主さんの話がめちゃくちゃ気になったんだけど」


『俺の話はいい。無視してくれ。聞いただけで嫉妬が湧き出てきたから、思わず口走っただけだ』


「え~……。僕、この話続けて大丈夫?」


『大丈夫だ。気にするな。それに高校時代はぼっちだったが、大学時代はそれなりに楽しんだからな』


「なんだ。結局リア充なんだね」


『リア充、ではないと思うぞ……?』


『も~、袈裟坊主の話はいいから~。フメフメ続き~』


「あ、うん。で、ええと、何だっけ。あ、そうだ。結局僕はさ、何にも出来なかったんだよね。ていうか、しなかった。一緒の部活にいたこともそうだし、本当に仲良かったグループだったからさ、僕がその子に告白して付き合うにしても、フられるにしても、今の楽しい関係性が変わっちゃう気がしてさ。告白しようかって思ったんだけど、なんか色々考えて出来なかったんだよね」


 あ~……、何ていうか、今の俺だ。

 周りの事とか、その人への影響とか、色々考えちゃって何も出来なくなってるなんて、そんなのまんま今の俺だ。


「で、さ。卒業式に告白したんだよ。仲良かったグループのみんなもそれぞれ進路も違うし、今までみたいに一緒にって感じじゃなくなるから、ここしかないって思って。ちなみにアズマ、その時なんて言われたかわかる?」


「なんて……。他に好きな人がいた、とか?」


「それならまだよかったんだよねー。じゃあ、しょうがないって思えるしさ。──『もう冷めちゃった』。そう言われたんだよね」


「うわ……」


『うむ……』


『あ~……』


「あ~、思い出しただけでキッツ。……結局その子が言うにはさ、もっと前に告白して欲しかったってことなんだよね。グループで遊び始めて半年ぐらいしたタイミングで、その子と個人的に連絡を取り合う機会が増えた瞬間があったんだよ。その時が気持ちのピークだったんだって」


「うわ……」


『うむ……』


『あ~……』


「僕もその時には好きだったんだけどさ、考え過ぎて何にもしなかったせいで、その子も自分の気持ちに自信が持てなかったんだって。で、まあ、そこから卒業まではずっと友達として一緒にいたから、その間に冷めちゃったんだって」


「うわ~、やるせない~」


『それなら確かに、他に好きな人がいると言われた方がよかったな』


『でも~、その子の気持ちもわかるな~。距離感がわからなくなっちゃんだよね~。好きな人なのか~、友達なのか~ってさ~。で~、悩んでるうちにわからなくなっちゃんだよね~』


「それ、言われた。言葉は違うけど。悩んでるうちに、『このままでいいか』ってなったって」


「戸羽ニキ~。それは切なすぎますって~」


『これは甘酸っぱい思い出、とはならんな』


『でもさ~、青春だよね~。そういうすれ違いってあるよね~』


「まあまあ、そんなこともあったんだよ、僕には。だからさ、アズマ。アズマが今いろんなことを考えてるのもわかるし、悩んでるのもわかるんだけど、僕みたいになって欲しくはないんだよ。もしアズマが自分の気持ちに素直になれない理由が、今の企画とかVTuberをやってることとかなら、相談して欲しい。もしアズマに今好きな人がいるなら、僕みたいにタイミングを逃してもどかしい感じで終わって欲しくないんだ」


「……戸羽ニキ」


『フメツ。お前も人が悪いな』


「何のことかな?」


『今の話を聞かされて~、協力しないわけないよね~ってこと~』


「2人ならそう言ってくれると思ってたよ」


『東野に好きな人がいる、などと言ってまんまと俺たちを釣るとはな』


『ズルい男だよね~。さすがはトップVTuberなだけあるよ~』


「それは関係ないでしょ」


『まあ、いい。──おい、東野。企画のことは任せておけ』


『ズマちゃんが~、気にしなくて済むように~、こっちでちゃんと考えてやるから安心して~』


「頼むよ、2人とも」


『もちろんだ』


『任せてよ~』


『《企画屋》の腕の』


『見せ所だね~』


「だってさ、アズマ。いいんだよ、ひとりで全部考えてやろうとしなくて」


 ああ、ズルいな、この人は。

 無理矢理話を聞きだそうとしてきたり、ぴょんこさんや袈裟坊主さんに勝手に通話をつないだり、本当はさっきまでムカついてたんだけどね……。

 なんか、もういいやって思っちゃった。

 俺も甘いなぁ。

 こんな風に背中を押されて、ほだされちゃってるし。


「戸羽ニキ、ぴょんこさん、袈裟坊主さん」


「ん?」


『なんだ?』


『何~?』


「俺、好きな人がいるんです」


「うん」


『そうか』


『そっか~』


「その人もVTuberをやってるんですけど、すごく一生懸命なんですよね。自分のやりたいこととか好きな事のために頑張ってて、それがすごく魅力的で……。だけど、たまにうまくいかないこととか、大変なこととかあるんですよ」


「だろうね」


『甘くはないからな、この活動も』


『大変だよね~。VTuberって~』


「俺を、頼ってくれたんですよ。大変で、困ってる時に、俺に頼ってくれたんです。それが、すごく嬉しかったんですよね」


「アズマももっと頼っていいと思うけどね」


『確かにな』


『ズマちゃんも頑固だからね~』


「あはは。そうですね。で、まあ、そういう時に思ったんですよね。この人でもこんなになるんだって、いつも自信満々で、男の俺でもカッコいいって思うことがあるのに、なんだかそういう瞬間は、めちゃくちゃ可愛くて。で、気づいたら好きになってたんですよね」


「わかるな~」


『確かにな』


『ズマちゃんも男なんだね~』


「あとはまあ、なんでしょうね。いろいろ絡んでるうちにドンドン好きになっていったって言うか、なんかふとした瞬間に可愛いんですよね。ほんと、こっちがビックリするぐらいに……。だからまあ、何て言うんですかね。──俺、告白したいです。その人に、ちゃんと気持ちを伝えたいです。なので、お願いします。協力してください」


「もちろん」


『任せろ』


『まっかせて~』


 そうか。初めからこうしていればよかったのか。

 悩んで、考えて、自分でどうするか決めなきゃって思ってたけど、こうやって相談していればよかったんだ。

 ……なんか、肩の荷が軽くなった気分だ。話せて、よかった。


「ありがとうございます」


『礼には及ばん。さっきも言っただろう』


『企画のことは~、任せて~って~』


「……はいっ!」


 そしてその翌日。《企画屋》の2人から、ラブコメ企画の集大成として《最強てぇてぇ決定戦》を開催することが告知された。

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