第145話 ラブコメにおいて一番めんどくさいのは、実は主人公説
「ドンドンよくなってくよね、アズマの歌」
「戸羽ニキやムエたん、見守ってくれたリスナーさんたちのおかげですよ。俺も自分がここまで歌えるようになるなんて思ってなかったですから」
「そんなこと言ってるとムエナちゃんから怒られるよ。『頑張ったのはアズマさんでしょ』って」
「危ない! 今日はムエたんが別件でいないから怒られずに済みました!」
「まあ、アーカイブに残るからどうせ後から怒られると思うよ」
「アーカイブ消しましょう」
「そんなことしたら今度は僕が怒るよ」
「八方塞がりじゃないですか!?」
「って、ところで今日の練習はここまでにしようか。もう2時間ぐらいやってるし」
「もうそんなに経ちます!? リスナーの皆さん。今日も見守ってくれてあざまるうぃーす!!」
「ありがとー。またねー」
いやぁ、よかったよかった。
何とか《歌ってみた》の目途も立ちそうだ。
ボチボチ収録日が決まりそうって戸羽ニキも言ってたから、練習もラストスパートってとこか。
となると、問題は……。
「戸羽ニキ。今日ってこの後、時間あります?」
「あるけど。どうしたのさ、改まって」
「ちょっと相談がありまして……」
「珍しいね、アズマがそんなに改めて言うなんてった、もしかして恋愛絡み──ッ!?」
「勘が良すぎませんか!? いやじゃなくて! 恋愛絡みって言えばそうなんですけど、そうじゃないと言えばそうじゃないんですよ……」
「大丈夫。わかってる。そうだよね、面と向かって『好きな人のことで……』なんて恥ずかしいよね。わかるよ、その気持ち。とりあえず居酒屋行こうか」
「何で居酒屋!?」
「酔えば口を滑らせてって、おっと」
「戸羽ニキ──ッ!?」
俺に何を喋らせる気!?
「ほら、いつもはムエナちゃんがいるからファミレスとかにしてたからさ。たまには男2人で飲みに行くのもいいと思って」
「本当にそう思ってます?」
「思ってる思ってる。その証拠に今日は僕が奢るよ」
「奢りにかこつけて飲ませようとしてません!?」
「僕がそんなことするわけないじゃないか。とりあえず、行こっか」
いやいや、絶対嘘ですよね!?
ていうか、いつになく乗り気なのが逆に真剣味を感じて怖いんだけど!?
「相談したいのはラブコメ企画のことで……」
「そんなの《企画屋》に相談しなよ。で、アズマの好きな人って結局誰なのさ」
ほらね? 絶対嘘って言ったじゃん。
飲み始めていきなりこれだよ!!
そうじゃないんだって、俺が相談したいのはラブコメ企画をどう終わらせるのがいいのかってことなんだってば!!
「ラブコメ企画なんて言ってる以上、やっぱりこう、ちゃんと誰かとみたいな方がいいと思うんですけど、どうですか? それはそれでフられた人って言うか、そうなれなかった人に迷惑かかるかなって思ったりするんですが……」
「その前にお酒追加しようか」
「相談に乗ってくれる気あります!?」
「だって、せっかく2人で飲みに来てるのに真面目な話ばかりじゃないか」
「相談って言いましたよね、俺!」
「あ、じゃあこうしよう。相談に乗ってあげるから、アズマの好きな人が誰か教えて」
「どういう対価ですか!?」
「あ、ほら。追加のお酒来たよ。まあまあ、今日は僕の奢りだから飲んで飲んで」
「俺の話聞いてます!?」
「いいからいいから。ここ個室だから、誰に聞かれる心配もないしさ。はい、乾杯~」
「意地でも喋らせる気ですね!?」
こうなったら、どれだけ飲まされようが絶対に喋らんぞ!?
社畜時代にいつも最後まで残って皆を介抱してた俺を舐めるなよ!?
逆に俺に潰されても文句は言わないでくださいよ、戸羽ニキ──ッ!!
「って、何してるんですか?」
「ん? だって企画の相談するんでしょ? だったらこの人たちも呼ばないと」
『フメフメ~? どうしたの~、いきなり~』
『珍しいな、貴様からかけてくるなんて』
って、ぴょんこさんに袈裟坊主さん!?
通話始めちゃったの!?
「あ、どうも。すみません、いきなり。でもこれからアズマが好きな人を教えてくれるって言うんで」
『え──ッ!?』
『少し待て。酒を取って来る』
『ずるい~。私も~──ッ!!』
って、おい──ッ!!
「何してんですか、あなたは──ッ!!!!!!」
「企画の相談したいって言ったのはアズマの方じゃん」
「違いますよね!? 今のは絶対悪意のある伝え方ですよね!?」
「口を割らせる時はお酒と人数。結構鉄則じゃない?」
「なんなんですか!? VTuberの前は尋問官でもやってたんですか!?」
「そう言えば、仲間を売ったあの男は今どうしてるかなぁ」
「ガチでやってた!?」
『待たせた』
『いつでもいいよ~』
「はやっ!? 準備早くないですか!?」
『フットワークの軽さこそ《企画屋》の真骨頂だからな』
『思いついた時には終えている~、が私たちのキャッチコピーだからね~』
「今考えたにしては出来過ぎじゃないですか!?」
ラブコメ企画だってほぼ思い付きで形にしちゃってるからな、この人たち。
『ズマちゃんが考えすぎなんだよ~』
『クロファイ企画の時もそうだったしな』
「企画書を作りこんだことにまさかのダメだし!?」
『どうせ今回も、皆に迷惑かけちゃうかもしれないからどうすればいいのかわからない、などと悩んでいるのではないか?』
『あ~、ズマちゃんっぽいな~』
「余計なことに気を回し過ぎなんだよね、アズマは」
「あれ、待って!? まさかの俺がお説教される流れなんですか!?」
「ラブコメ主人公なんて、大体そうじゃん。グジグジしてて情けないって言われてるでしょ?」
『実際に東野のムーブはそうだからな』
『好感度を稼ぐだけ稼いで~、何にもしないからね~』
「いやいや、大事じゃないですか好感度は!! 俺たちVTuberですよね!?」
『リスナー相手のムーブを~、どうしてそのまま女の子たちにもしちゃったの~?』
「必要ですよね!? みんなと仲良くするのは大事ですよね!?」
「そこで『みんな』って言っちゃうのが、アズマのいいところであり、ラブコメ主人公なところだよね」
「どういうことですか!?」
『わからないのか? 『みんな』ではなく、『あの子』と言えていれば、お前はラブコメ主人公ではなく、1人の女を愛する男になれたのだ』
「あ~……って、納得しかけましたけど違いますよね!? VTuberとしてのムーブは『みんな』と仲良くするで正解ですよ!!」
「何言ってるのさ。今はアズマの女性の扱いについて話してるんだよ」
『酔っているのか? 人の話を聞かないとは、東野らしくもない』
『あのナキアとてぇてぇ出来るコミュ力はどうしたの~』
「え~……。まさかの総ツッコミですか……」
というか、ぴょんこさん?
地味にナーちゃんをディスりましたね?
「でも待ってください。そこはもうしょうがなくないですか? だって俺って、みんなとVTuberとして知り合ったんですよ?」
「じゃあさ、VTuberとして知り合ってなかったとしたら、どうだった?」
『それはぜひ聞きたいな』
『教えて~』
「VTuberとして出会ってなかったとしたら、ですか……?」
「そうそう。ムエナちゃんでもナキア先生でもカレンさんでもいいんだけど、VTuberとしてじゃなくて、例えばバーで飲んでる時とかにたまたま隣の席になったとか」
「いや、バーとか行ったこと無いですし」
他の3人がバーに行ってるイメージも無いし。
特にナーちゃんとか。あのコミュ障っぷりでバーって、ねぇ?
『そこは例えばの話だよ~。バーがイメージしづらかったら、ファミレスでも本屋でもどこでもいいからさ~』
『話してみたいとか、ご飯に行きたいとか、そう思わなかったか?』
「いや、それは……。思ったかもしれないですけど。みんな美人だし、可愛いですし」
『なんでそこでまた『みんな』って言っちゃうの~』
『誰だ? 誰だったら『あの子』と一緒に、と思うんだ?』
「いやいや、そんな。『あの子』なんて、ダメですよそんなの。失礼じゃないですか。まるでこっちが選ぶ側みたいな言い方したら」
みんなにはみんなで思うこととか考えてることとかあるんだから。
そんな一方的にこっちの考えだけ押し付けるみたいなのはさ、違うじゃん?
「ぴょんこさん、袈裟坊主さん。焦り過ぎ。もうちょっと焦らしていかないと」
『これでもか!?』
『今のは絶対に言う流れだったよ~!?』
「多分なんだけど、アズマは『誰かを選ぶこと』がよくないことだって思ってるんだよ。博愛主義って言えば聞こえはいいけど、ただの優柔不断だよね」
『……もしかしてだけど~、一番めんどくさいのってズマちゃんだったりする~?』
『……その可能性は十分にあるな。酒が入っていて、今の流れであの回答だからな』
「ぴょんこさん、袈裟坊主さん。覚悟はいい? 今夜はきっと長くなるよ」
『酒が足りるかが問題だな』
『途中で買いに行ったらごめんね~』
って、いやいやいや!!!!
待って!? まだ続けるの、これ!?
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