第138話 さあ、実食です!!
「それじゃあまずは、リスナーさんたちが最初に食べろと言ってきたナーちゃんのオムライスから──って、なんですかミチエーリさん?」
『ちゃんと料理名言って』
くそ、やり過ごそうと思ったのに──ッ!!
「なによ、料理名って」
『ナキアのために私が考えたんだよ!!』
「……嫌な予感しかしないわね。ズマっち、そのまま食べて頂戴」
「あ、ナーちゃんがそう言うなら──」
『ヘタレ』
『意気地なし~』
『これだから東野ちゃんは』
女性陣からのバッシングが凄まじいんだが!?
そこまで言われなきゃならないの!?
「ズマっち。いつの間にこんなに敵を増やしたのよ……」
「アズマさん。かわいそう……」
「わたしたちの料理中に何があったんですか……?」
ほら!! こっちの料理組も全員引いてるじゃん!!
やめようって、そういう弱い者いじめみたいなことは!!
『にーちゃんが誰の料理を始めに食べるのか自分で決めなかったんだよ』
「レオンハルト──ッ!?!?!?!?!?」
おま、本当にどうした!?
いつからそんなに切れ味鋭くなっちゃったの!?
「そういうことね」
「それはしょうがないよね」
「納得です」
「納得しないでくれません──ッ!?」
これで誰一人として擁護してくれる人がいなくなったんじゃないか!?
あれ、どうしてだろう……。
みんながいるのに、俺なんだかひとりぼっちな気分になってきた……。
「それで? 一体私のオムライスには何て料理名が付いたのかしら?」
「どうしてわざわざ地獄に足を踏み入れるんですか……」
「ズマっちは私の料理が地獄だって言いたいわけ!?」
「誰もそんなことは言ってないですよね!?」
「せっかく一生懸命練習したのに、そんなこと言わなくていいじゃない……」
「《あなたに食べて貰いたい♡ ぶきっちょ女子のお手製オムライス》」
「……何よ、それ」
「ナーちゃんのオムライスの料理名」
「──ッ!?!?!? な、何てこと言うのよ!? バッカじゃないの、あんた!!!!」
「俺じゃないですからね!? ミチエーリさんですよ、命名者は!!」
『ナキアっぽいでしょ?』
「ミチェあんた──ッ!! な、何よ私っぽいって……。そ、そんなこと、あああるわけないじゃない……」
『声震えてるよ』
「うるさいわね!!」
「……えー。じゃあ、食べますね」
「はぁ!? はぁ!? はぁ!? なんで食べようとしてるのよ!?」
「いやだって、そういう企画ですよ?」
早く終わらせたいんだよ、この時間を──ッ!!
ナーちゃんだって顔真っ赤じゃん!! ということで、
「いただきます」
「あっ!? そんな急に食べるの!?」
「え」
「──ッ!? な、何よ……、その反応」
「美味しいです」
「~~~~~っ!?!?!?!? べ、別にズマっちのために作ったわけじゃないのよ!?」
「この企画に参加しておいてそれは無いでしょう……。でも、本当に美味しいですよ」
「ズマっちに褒められたって、う、嬉しくなんかないんだわよ──ッ!!」
「語尾どうしました?」
「うるさいわね!! いいいから食べなさいよ!! 残したら許さないわよ!?」
「あれ、さっきは食べるなって」
「いいのよ、そんなことは!! とにかくちゃんと全部食べなさい!! 私に感謝しながら!!」
「わかってますよ。ナーちゃん。美味しい料理をありがとうございます」
「~~~~~っ」
『ナキア、ニヤニヤしてない?』
「してるわけないでしょう!?」
「してますね。めちゃくちゃニヤニヤしてます」
『よかったね。ナキア』
「~~~~~っ。う、うるさいのよ、あんたたちは──ッ!!」
あ、逃げた。
と思ったら隅っこでガッツポーズしてるし。
ああいうところが、ナーちゃんの可愛いところなんだよなぁ。まあ、本人には言わないんだけどね!
って、俺のこういうところが女性陣を敵に回すところなんじゃないのか……!?
「アズマさんさ、やっぱり恋愛禁止にしよっか」
「いきなり何言ってるんですか!?」
「いやぁ、配信で浴びる分にはいいんだけど、直に見せられるとキツイよね。安芸先生とアズマさんのやりとりって」
「ムエたん、なんか怒ってます……?」
「ううん。全然?」
いやいや嘘だよね!?
その笑顔がなんか怖いよ!?
「まあでも、アイドルとしての自覚が足りないかなぁ、とは思うよね。ということで、はいこれ。食べて?」
「なんか、圧が……」
「あ、またアイドルポイント-1。ダラダラして収録時間延ばすのは良くないんだよ?」
「あくまで徹底する気ですね!?」
「あくまでも何も、私は《L⇔Read》のトレーナー兼プロデューサーなんだから、アズマさんが立派なアイドルになれるようにするのは当然だよ!」
そのスタンスをブラさないところ、我が推しながらすごいな!!
「はい。ということで、アタシの料理はこれだよ!! じゃーん!!」
「……見た目は普通、ですねって違う!? 全っ然普通じゃない!! なにこの匂い!! あっま!? え、嘘ですよね!? クリームシチューでこんな匂いすることあります!!」
「そのリアクション、アイドルポイント+1だよ!! やっぱりバラエティ企画なら、そういう反応って大事だからね!!」
「え、待ってください! このシチューってそういう用途なんですか!?」
「うん! せっかくこんな企画だし、アズマさんのバラエティ力を鍛えちゃおう! って思ったんだ!! どう? いいアイデアでしょ」
「……うちのトレーナー兼プロデューサーがどこまでガチな件について」
「今更だよー。アタシもフメツ君も本気だって言ってなかったっけ?」
「いやまあ、言ってました、けど……」
「今の時代のアイドルに求められるのは、歌って踊るだけじゃないんだよ! 演技にバラエティとマルチに活躍してこそだよね!! ということで、アズマさん。食レポの特訓行ってみよう!!」
「食レポって、このシチューで!? いやいやいや! 何言ってるんですか!? これは食レポするような料理じゃないでしょう!? バラエティ力! バラエティ力はどこに行ったんですか!?」
「そのツッコミ、ナイス!! いいよいいよ! アズマさんのバラエティ力は、今グングンアップしてるよ!! じゃあそのままの勢いで実食に行ってみよう!!」
「くっ、やはり逃れられないのか……」
「あ、ちなみにアタシのシチューにも料理名ってつけてくれたの?」
「……実食にいきます」
『あるで、名前!! な、アズマ!!』
「エイガ絶対許さない」
ここぞとばかりに出て来るんじゃない!!
『今のツッコミはバラエティとしては弱いんとちゃうか? トレーナー兼プロデューサー的にはそのへんどないなん?』
「うーん。確かに今のはイマイチだね。アイドルポイント-1!!」
……エイガ絶対許さない。
「それでそれで? アタシの料理名はなんなの?」
「《あなたの推しはア・タ・シ♡ ハートも溶かすスイーツたっぷりクリームシチュー》です」
「えー!! カワイイ!! ありがとー!!」
『ちなみにその料理名を付けたのは自分やね』
「そうだったんだ! ありがとね!!」
『いやいや、そんな。企画を盛り上げるなんて当たり前やねん!!』
……エイガ、お前。何ムエたんにデレデレしてるんだ。許さんぞ?
「だけどごめんね? 料理はアズマさんしか食べれないんだ。だからアズマさん。食べられない人の分まで味わって食べてね?」
「もちろんです!!」
嬉しいなぁ。まさか推しの手料理が食べれるなんて!!
し・か・も、俺だけのために作ってくれたなんてな!!
はっはっはっ、残念だったなエイガ!!
ムエたんは俺のために料理を作ってくれんただ!!
いやぁ、今ほどVTuberやっててよかったって思う瞬間はないな!!
「では、いただきます!! ──あっまッ!?!?!?!?」
「ねえねえ、どうどう? アタシの料理。どう? 美味しい?」
「お、おおお美味しいに決まってるじゃ、なななないですか。ム、ムエたんの料理ですよ?」
「本当に? じゃあ、ちゃんと残さず食べてね?」
……マジで?
これを? え、マジで?
「まさか残すなんて~……」
「するわけないじゃないですか!!」
気合いだ!! 頑張れ俺!!
こうなりゃ気合しかない!!
ムエたんの料理を残すなんて、そんなの出来るわけないじゃないか──ッ!!
「ちょっと待ってください!! 全部食べたら、わたしの料理を食べる前にお腹いっぱいになっちゃうじゃないですか!!」
「あ、カレンちゃん」
「反応うすっ!? もしかしてアズマさん、わたしがいること忘れてました!?」
「いいえ、覚えてましたよ。ただ、ノルマがあるので」
「? ノルマ? なんのですか?」
「1日1カレ虐」
「なんですか、それ!? そんなノルマ今すぐやめてください!!」
「俺から生きがいを奪おうって言うんですか!?」
「そんな生きがい奪われて当然です!!」
「そ、そんな──ッ!? このままでは俺の生きがいが奪われてしまう。どうすれば──ッ!!」
「なんで今日イチ真剣になってるんですか!?」
「そうだ、カレンちゃん。こうしましょう。俺がカレンちゃんの料理を食べてあげる代わりに、カレンちゃんは俺からカレ虐という生きがいを奪わないでください」
「料理も食べてカレ虐もやめてください!!」
「おっと、交渉は決裂ですか? このままじゃ、俺は料理を食べませんよ?」
「最っ低です──ッ!!」
そうそうこれこれ。こういうのだよ。
これこそカレンちゃんとコラボする醍醐味だよね。
「頷いてないでわたしの料理も食べてください──ッ!!」
今日もカレンちゃんの叫び声は沁みるね~。
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